第250話
「あ、あの。エルト様とライオ様が私にお話があると聞きましたが」
「そんなに縮こまらなくて良いよ。別にアズの領主としての才能を疑っているわけではないから、少し聞きたい事があってね」
ルッケルに転移魔法で移動し、アズへの面会を求めるとエルト、ライオ両王子の突然の訪問にアズは急ぎ、駆け付けるが、その様子は先日のルッケル復興イベントに何か不手際があったのかと心配しているようにも見える。
エルトは彼女の様子に分が笑いを浮かべると、彼女に落ち着かせようと優しげな声で言う。
「聞きたい事ですか?」
「あぁ。聞きたいのは先代領主の事なんだ」
「先代のですか? かまいませんが、突然、どうしたんですか?」
アズは突然、先代領主の話を聞かれた理由がわからないようで首を傾げる。
「いや、セスさんがアズさんの前の領主様がリックさんだって言うから、リックさんはただの町医者だろ」
「その事ですか? エルト様とライオ様がいるのですから、隠すわけにはいきませんね」
彼女の反応を見て、ジークは苦笑いを浮かべるとアズは少し悩むようなしぐさをするが、王子2人に聞かれている事もあり、隠せないと思ったようで困ったように笑う。
「あの、言い難い話なんですか?」
「私が話して良いのかと思っただけです。ただ、この状況ではリック先生も文句は言わないでしょう」
ノエルは聞いてはいけない話だと思ったのか、表情を曇らせるとアズはノエルを気に病む必要はないと笑う。
「それなら、当事者も呼んでみようか?」
「待て。リックさんは医者なんだ。忙しいんだよ。ふらふらと城を抜け出している王子様とは違うんだよ」
エルトはアズの様子から良い事を思いついた言いたげに笑うが、ジークは患者もいるため、無駄な時間は取らせられないとエルトを止める。
「兄上、私もジークの意見に賛成です。リック先生は、患者さんの事になると、自分の事など後にする方ですので、余計な手間は取らせたくありません」
「そうかい? それなら、仕方ないね」
ライオは以前に気を失いリックに診察して貰った事があり、その時のリックの様子を思い出してエルトを止め、2人に止められた事もあり、エルトは今回は直ぐに引く。
「それでは、アズ様、よろしくお願いします」
「はい。そうですね。どこから、話したら良いでしょうか? ジークは以前ルッケルで起きた事故で領主様が亡くなった事は知っているのですね?」
「はい。それに関しては、先に説明してます」
このメンバーで話し合いが行われる事が決まり、セスは改めて、アズに頭を下げる。アズは1度、頷くと鉱山での事故で領主がなくなった事を知っているかと確認し、ジークは既に全員が知っていると告げる。
「それでは、その時に亡くなった領主様が私の伯父であり、リック先生の父親に当たります」
「……」
「ジーク、どうしました?」
「いや、そんな話を聞いた事がなかったから」
アズはリックと従兄妹の関係になる事を告げるとリックが領主の血を引いている事が信じられないようでジークは眉間にしわを寄せた。
「あ、あの。それなら、リック先生は、どうして、お医者さんになったんですか? あの、普通なら、お父様の跡を継いで領主様になるんじゃないですか?」
「そうですね。本来はそうなるべきだったんだと思います。伯母様もそれを望んでいましたから」
ノエルはリックが領主ではなく、医師になった理由を聞きたいようであり、アズはその質問に過去を思い出しているのか少し遠い目をする。
「伯父様は鉱山で起きた事故で大ケガをしました。ルッケルにも医師はいましたが、王都やワームにいる医師達と比べるとやはり腕がありません。ジークのおばあ様も伯父様の治療には協力してくれましたが、薬を作る事はできても、医師ではなく、伯父様を救う事はできませんでした」
「そうですね。ケガの程度にもよるけど、大ケガだと薬剤師じゃ、何もできないからな」
「ルッケルは鉱山都市です。言いたくはありませんが、この街で生まれた子供は親と同じように鉱山で働きます。学問を修める事ができるのはわずかです。リック先生はその事に気が点いた時、領主ではない方法で、ルッケルを守って行こうと思ったのでしょう。リック先生は私に次代の領主を押し付け、1人でワームへ医学の勉強に出てしまいました。その時の鉱山の事故で私の両親も亡くなった事もあり、伯母様も戻ってこないリック先生の事を待っているよりは姪である私を領主にしてしまおうと考えを改めたようで、このような形に収まっています」
領主として、ルッケルを治めるだけでは守れないものがあると気づき、リックは地位を捨て、そのしわ寄せがアズに回ってきたと言う。
「そんな事があったんですか? 知らなかった」
「ジークはまだ小さかったですから、先代領主となると私はリック先生の後を継いだと言う形になりますから、先代領主はリック先生ですが、実質的には伯母様が統治を行っていた事もありますから、難しいところですね」
リックの過去にジークは単純に驚いたようであり、彼の様子にアズは苦笑いを浮かべる。
「ふむ。なるほど、リック先生は正式なラインハルト家の血を引いていると言う事だね」
「そうですか……」
「セス、何かあるのかい?」
アズの話を聞き、セスは何かを考えだし、彼女の様子にライオは何か考え付いたかと聞く。
「いえ、もしかしたらですが、そのリック先生なら、正攻法でもアンリ様の診察をできる可能性があります」
「本当ですか!?」
「あ、あの。アンリ様の診察と言うのはどう言う事でしょうか?」
セスは話を聞き、1つの可能性を導き出したようで、ノエルは驚きの声をあげるが、アズはいきなりの話に状況がつかめないようで首を傾げる。
「正攻法?」
「はい。可能性はあまり高くはありませんが、アンリ様の身の安全を考えるなら、もっとも安全な策だと思います」
「聞かせてくれるかい?」
「はい」
アズの疑問よりはエルトはセスが考え付いた作戦の方が気になるようであり、セスに説明を求めると彼女は大きく頷く。
「あの、ジーク、ノエル、どう言う状況ですか?」
「まぁ、聞いていれば合点が行くと思います」
アズは話に付いて行くため、ジークに説明を求める。ジークは話を聞けばわかると思ったようで苦笑いを浮かべた。