第247話
「王室にリックさんを招きいれたとしても、そこだと診察もできないだろ?」
「確かにそれはそうだけど……」
ジークはお抱え医師ではないリックに診察をして貰うためには、アンリをルッケルに連れだす事が重要であり、ライオは納得できはするものの、頷く事はためらわれるようで眉間にしわを寄せる。
「かなり難しいってのは、わかってる。エルト王子に協力を仰ぐにしてもカインがいないとなると、策が次から次と出てくるわけでもないからな」
「そうだね。カインが居れば、次から次と作戦が出てきそうだけど」
「人間性に問題がある作戦が多いだろうけどな。居ると鬱陶しいけど、居ないと面倒だな」
「ジークさん、それは言いすぎだと思います」
エルトの協力を仰ぐ事は重要だが、カインがそばに仕えていた時とは違い、アンリを連れだす策を練る人間もいないため、ため息を吐くジーク。そんな彼の様子にノエルは苦笑いを浮かべた。
「そうでもないだろ。まぁ、居ない人間の事を言っても仕方ない。問題はエルト王子付きがセスさんって事だな。言いたくないが、エルト王子が協力してくれてもセスさんが協力してくれなければ、絶対に無理だろうからな。どうやって、説得するかだ」
「それが思い浮かばないわけだね」
「あぁ。魔導機器でルッケルまで飛ぶ事は可能だけど、これにも制限があって、決まった場所にしか飛べない。飛べるのはカイン屋敷とアズさんの屋敷、俺の店」
無い物ねだりをしているヒマはなく、カインに次ぐ才能を持つとも言われるセスを巻き込みたいのだが、真面目な彼女を引き込むに作戦は直ぐには思い浮かばない。
そのため、ジークはセスを巻き込む方法を後回しにすると魔導機器での転移できる場所が限られている事をライオにも知っていて貰う事も必要だと考え、ゴブリンの集落とワームは隠して話す。
「少なくとも、アンリをカインの屋敷まで連れて行かないといけないって事だね?」
「王室から、ルッケルには転移できても、王室には転移できないですからね」
王室にいたはずのアンリがカインの屋敷にいるのは明らかに不自然であり、アンリをカインの屋敷まで連れて行く必要がある。
ノエルとライオはどうやって、アンリを街に連れ出すか考えようと頭をひねり始める。
「セスさんを説得して味方に引き入れる事が出来れば良いんだけど、そうすれば万事解決なんだけど、そこが1番、難しい」
「セスさんを味方に引き入れると解決するんですか?」
「ノエル、近いから」
ジークの頭の中では、アンリをルッケルまで連れだす方法は出来上がっているようだが、そのためにはセスの協力は絶対のようで苦笑いを浮かべた。
そんな彼の様子にノエルはジークの考えが聞きたいようで、ジークとの距離を詰めると目の前に現れたノエルの顔にジークは視線を逸らす。
「2人は相変わらずだね」
「べ、別に良いだろ」
「それで、ジークさん、どう言う事ですか?」
ジークとノエルの様子にニヤニヤと笑うライオ。ジークはライオの様子に慌てて弁明しようとするが、ノエルにとっては今の最優先事項はセスの重要性であり、ジークに説明を求める。
「俺達が転移できるのはさっきも言ったけど、カインの屋敷、アズさんの屋敷、そして、俺の店。これは魔導機器に転移場所の制限があるから、俺はこの3カ所にしか転移できない。ただ、転移できる場所を増やす事ができる」
「……確かに、セスを味方に引き入れれば、単純に転移できる場所が増えるね」
「それも王室のそれこそ、エルト王子付きなら、アンリ王女の部屋の中にも転移する事が可能だ」
セスは数少ない転移魔法の使い手であり、転移魔法を上手く使えばアンリを連れ出す事などたやすい。
しかし、ジークの提案にライオの眉間にはしわが寄る。
「不味いか?」
「流石にね。セスの事は私も兄上も信用している。けど、王室の中に転移魔法を繋ぐ事は認められない。下手をすればセスに疑いがかかる」
「それもそうだな」
ライオはセスの事を考えれば、その作戦には頷けないと言い、ジークは自分の浅はかな考えに頭をかいた。
「となると、やっぱり、カインの屋敷まで足を運んで貰わないといけないな。でも、アンリ王女を街まで連れて行くのは難しいんだよな?」
「難しいね。兄上は良く城から逃げ出してはいるけど、身体の弱いアンリにはそれだけでも大変だし、父上が心配性だから、護衛も多い」
「……と言うか、やっぱり常習犯じゃないかよ」
「そ、そうですね」
王室内に転移場所を作るわけにはいかなくなった事もあり、ライオは頭をひねるが、彼の口から出たエルトの日頃の脱走癖にジークは眉間にしわを寄せ、ノエルは苦笑いを浮かべた。
「あ、あの。アンリ様の体調を心配して、ライオ様とエルト様が王様に進言するのはダメなんでしょうか?」
「正攻法か? それができれば、こんな話し合いになってないよな」
「そうだね」
ノエルは今更ではあるが、王様にアンリを他の医師に診察して貰ってはどうかと聞くが、そんな簡単に済むなら、元々、こんな話にはなっておらず、ジークとライオは首を横に振る。
「で、でも、お医者さんがジークさんの薬が効果があった事も王様の耳には届いているわけですよね? お薬を作ったジークさんもいるわけですし、3人でなら、説得できないでしょうか? それに、ジークさんなら、きっと、口で誤魔化せます!!」
「……ノエルさん、それはきっと誉めてないと思うよ」
「そうだな」
ノエルはどこかで話せばわかって貰えると思っている事もあり、ジークならできると言うが、その信頼の仕方はどこか間違っており、ジークとライオの眉間にはしわが寄った。
「そ、そうですか?」
「まぁ、仮に話すとしても、結局は、ライオ王子とエルト王子の口から言うのが道理だろ。となるとやっぱり、1度、エルト王子も含めて話し合う必要もあるか?」
「そうだね。今日は流石に無理だろうから、ジーク、ノエルさん、明日は王都に来れるかい?」
2人が眉間にしわを寄せている理由がわからないノエルは首を傾げているが、ジークとライオはその隣で、エルトを交えて話し合いをしたいと相談を始める。
「明日か? 流石に無理だな。ルッケルに卸す分の薬の調合もそろそろ始めないといけないからな。材料を集める時間もあるし、ちょっと、忙しいな」
「そうかい。そうなると、いつになるかな? 取りあえず、王都にこれたら、魔術学園に顔を出してくれるかい? 城だと取り合って貰えないかも知れないけど、学園の方には話を通して置くから」
「あぁ。わかった」
しかし、ジークも生活の糧を稼ぐ必要があるため、明日からは王都にくる事ができず、ライオはジークとノエルに時間ができたら、再度、訪ねて欲しいと言う。