第235話
「なあ、一応は和平交渉をするつもりなんだよな?」
「そのつもりだよ」
「なら、どうして、俺は魔導銃の準備をさせられているんだ?」
ジーク達はリザードマンのリーダーがギドを監禁していた建物を訪れる時間まで身を隠している。ジークは和平交渉を行い、平和的に解決すると聞いているにも関わらず、魔導銃の準備をさせられている事に首を傾げた。
「なぜって、交渉の舞台に上がって貰わないといけないだろ。逃げられて、戦争ってわけにはいかないだろ? 流石に5体も1人で足止めできないぞ」
「いや、攻撃を仕掛けてるんだ。下手したら戦争の引鉄を俺が引く事にならないか?」
カインはまたもジークの魔導銃でリザードマンの動きを止める気のようだが、ジークは不安しか感じないようで大きく肩を落とす。
「そんな事はないって、それに俺も魔法で足止めするし」
「……なんか、戦争を起こすためにお前にはめられてる気がするんだよな」
「信用ないね」
カインはジークが疑いを晴らすために自分も魔法を使うと言うが、ジークの不安は拭えないようである。
「まぁ、あんただしね」
「あの、もう少し、カインさんを信じても良いんじゃないでしょうか? 実際、カインさんがいなければギドさんを助けて、和平交渉に持ち込めたかもわからないわけですし」
カインの事を信用していないフィーナはジークが正しいとはっきりと言い、ノエルは今回、カインがいなければ、有無も言わずに戦争になっていた可能性が高かった事もあり、カインを信じようと言う。
「確かにそうなんだけどな……前科が多すぎてな」
「まったくね」
しかし、幼い頃からカインに振り回されている2人はどこかで引っかかっているようで眉間にしわを寄せている。
「あ、あの、カインさんはどうしてここまで疑われているんですか?」
「まったく、心当たりがないね」
「そうですか」
ノエルは2人の反応に顔を引きつらせながら、元凶であろうカインに聞くが、当の本人であるカインはしれっとした顔で言い、ノエルは納得がいかないのか首を傾げた。
「……お遊びはここまで、こっちに向かってくるみたいだから」
「は、はい」
その時、カインはリザードマン達がこちらに向かって来ている事を視界を共通している使い魔で確認したようで息をひそめるように言い、ノエルは大きく頷く。
「で、どうなんだ? 今回も5人か?」
「そうみたいだね。人数で言えば不利」
間違っても戦争の原因になりたくないジークは、改めて、リザードマンの人数を確認するが、昨日、カインが確認した通りの人数であり、困り顔のジークを余所にカインは楽しそうに笑っている。
「5対4なら、悪くないでしょ?」
「リザードマンだから、全員、前衛じゃないかな? 全員、腰に剣を差してるし、流石に分が悪いでしょ」
「……おい。どうして、正面からぶつかる気でいるんだ? 目的は、リザードマンぶ武装解除して貰って和平交渉に入って貰う事だぞ、カイン、お前もくだらない悪のりをするな」
フィーナは腰に差してある剣を握り、奇襲を仕掛ける準備を始め出すが目的からそれており、ジークは大きく肩を落とす。
「はいはい……あー、不味いかも」
「不味い? どうかしたのか?」
カインは冗談はここまでと表情を引き締めようとした時、何か起きたのか眉間にしわを寄せ始め、その姿にジークは首を傾げる。
「あー、簡単に言えばゼイのゴブリン達の説得が失敗したみたいだ」
「それって、どう言う事だ?」
「簡単に言えば、リザードマン達の状況を聞いて落とし所を見つけようと思ってたんだけど、ギドの安全が確保された事でリザードマン達に良い印象を持っていないゴブリン達が1部、徒党を組んで、今、こっちに向かってきてる……人数は18人。ゴブリンの5分の1の戦力だね」
集落を我が物顔で占拠していたリザードマンを殺すべきだと言う主張もあったようで、説得に向かったはずのゼイだけでは押さえつける事はできなかったようであり、集まってくるゴブリン勢にカインは困ったとため息を吐いた。
「ど、どうするんですか!? このままだと戦争になっちゃいますよ!?」
「困ったね。どうしようか?」
「困ったなら、もう少し慌てろ。そんな事より、何か次の作戦を出せよ。お前の狡い頭はこんな時のためにあるんだろ!!」
状況の悪化にノエルは慌て、ジークはカインの胸倉をつかみ、どうするかと聞く。
カインは口先では困ったと言っているが、はたから見ると困っているようには見えない。
「とりあえずは、リザードマン達を確保して、俺達はリザードマンが一時的に拠点にしているところまで引こうか? あの5人が殺されでもしたら、本当に戦争だし」
「そうだとしても、どうするのよ。話も通じないのに、リザードマンの前に出て行ったら、私達が襲われるわよ!?」
「ほら、そこはノエルが説得してくれるから、行くよ」
「カ、カインさん、引っ張らないでください!?」
カインはリザードマン達を彼らの拠点まで連れて行くと言う。その作戦は明らかに自分達の安全は確保されておらず、フィーナは声をあげるがカインは気にする事なく、ノエルの首根っこをつかんでリザードマン達に向かって歩き出す。
「……」
「敵意全開?」
「そりゃそうでしょ」
ジーク達の姿を見たリザードマンは目の前にいきなり現れた人族の姿に当然、殺気を放って剣を抜く。
「はい。ノエル、説明」
「は、はい。あ、あの、時間がありませんので、簡潔に話します……」
カインは突き刺さる殺気のこもった視線に臆する事なく、ノエルの背中を押す。ノエルは大きく頷くとリザードマンにゴブリン達がこちらに向かっている事を話し始め、リザードマン達はいきなりのドレイクの登場に戸惑っているようで顔を見合わせるもノエルの話に耳を傾け始める。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「さあ? 少なくとも、今はノエルがリザードマンを説得できるかにかかってる……ノエル、悪いんだけど、立ち話をしてる余裕はなさそうだから、移動しながらにするよ」
「は、はい」
「それじゃあ、こっち」
ノエルがリザードマンを説得する様子にジークは気が気ではないようでカインへと声をかける。
カインは落ち着いた様子でノエルしだいと言いながらも、使い魔でゴブリン達の様子を確認しており、このままでは捕まると判断したようでノエルに声をかけると使い魔から送られてくる情報を基に安全なルートを選び、移動を始める。