第234話
「ギドさん、ケガはないですか?」
「ノエルサマ、オヒサシブリデス。コンナトコロマデ、アシヲハコンデイタダキ、アリガトウゴザイマス」
ジークと一緒に建物から出てきたギドの姿にノエルは監禁されていた彼の事を心配するが、ギドは上位種の魔族であるノエルに心配をかけた事を申し訳なく思っているようで深々と頭を下げた。
「そんな事はどうでも良いんです。ケガはないですか? お腹は空いていませんか? ケガをしているなら、直ぐに言ってください。治癒魔法を使いますから」
「ダ、ダイジョウブデス。モンダイアリマセン」
ギドは心配ないと言うがノエルはすでに空回っており、そんな彼女の様子にギドはどうして良いのかわからないようで助けを求めるような視線をジークに送る。
「ノエル、そこまでにしろ。時間もないし、何より、ギドが困ってるから」
「そ、そうなんですか!? 余計な事をしていましたか!? すいませんでした」
「ノエルサマ、アタマヲオアゲクダサイ。ドレイクデアルアナタサマガ、アタマヲサゲルベキデハ、アリマセン」
ギドの視線にジークは苦笑いを浮かべてノエルを止めた。ノエルはジークに止められ、ギドに申し訳ない事をしてしまったと思ったようで深々と頭を下げ、ギドはそんなノエルの様子にバツが悪そうな表情をする。
「ノエル、ギドだけじゃなく、こっちのお2人も呆気に取られてるし、その辺にしないか?」
「は、はい。そうでしたね!? すいません。お話の途中でしたのに」
ドレイクであるノエルがゴブリン程度に頭を下げている姿に捕虜になったリザードマン2体は何が起きているかわからないようで目を白黒させており、カインはノエルに声をかける。
ノエルはその声に慌てて、今度はリザードマン2体に頭を下げ、リザードマンは先ほどのギドのようにバツが悪そうな表情をする。
「ノエルサマハ、アイカワラズダナ」
「まぁ、それがノエルの良いところでしょ。それより、ギド、捕まってたわりには元気そうで安心したわ」
「フィーナモアイカワラズ、ゲンキナヨウダナ」
ギドはノエルの様子に小さく肩を落とす。フィーナは苦笑いを浮かべた後、カインから無事とは聞いていたものの、心配していたようでギドの無事に笑顔を見せた。
フィーナの笑顔にギドは釣られるようも返事を返すが、その返事はどこかフィーナをバカにしているように見える。
「……あれって、相変わらず、フィーナはバカだって言ってるように聞こえるんだけど」
「まぁ、それは仕方ないだろ」
ジークはギドの様子にフィーナがバカにされていると気づき、大きく肩を落とすとカインは苦笑いを浮かべた。
「ギド、ノエルとリザードマンの話を通訳してくれないかい。言葉がまったくわからないから、どうなってるのかがわからないんだよ」
「アア……」
「どうかしたかい?」
「イヤ、イジガワルソウナカオヲシテルトオモッテナ」
ノエルがリザードマンと話をしている様子にカインは話の進展具合がわからないため、ギドに通訳を頼む。
その声にギドはそこで初めてカインの顔を見たようで、昨晩、言いくるめられた事もあるためか悪態を吐く。
「それはどうも、それより、通訳を頼むよ。ノエルだと、話が脱線して行きそうだし」
「……タシカニナ。ノエルサマ、カワリマス」
しかし、カインはギドの言葉に腹を立てる事などなく、改めて、通訳を頼み。
ギドにはノエルとリザードマンの話が一向に進んでいないように思えようで大きく肩を落とすとノエルでは話が進まないと思ったようで交渉役を交代する。
「ノエル、話って進んだのか?」
「い、いえ、それが……」
ギドとノエルが交代したため、ジークはどれくらい話が進んだかと確認するが、ノエルは交渉まで行けなかったようでジークから気まずそうに視線を逸らす。
「まぁ、予想の範囲内だな」
「そうだね。ノエル、リザードマンが仕掛けてこない理由まではいかなくても、何か聞けた?」
ノエルの様子に肩を落とすジーク。カインはその様子に苦笑いを浮かべるも、元々、ノエルには交渉役を期待していなかったのか、リザードマンの内部情報を聞かなかったかと聞く。
「あ、あの。やっぱり、あまり、戦いたくないみたいです。どうしてかはちょっと聞けませんでしたけど」
「そう……ギド、そっちは任せるよ。俺達は俺達で次に移るよ」
「アア、ソッチハマカセルゾ」
ノエルはあまり、リザードマン側の情報は聞き出せなかったと肩を落とし、カインは彼女に何か言うような事はなく、ギドに声をかけるとジーク、ノエル、フィーナの3人に移動するように言う。
「ギド1人に任せて大丈夫なのか? 2対1だぞ」
「大丈夫だよ。ノエルはドレイクだし、リザードマンがドレイクに逆らうとは思えないしね。ただ、ノエルがドレイクだとは思わなかったけどね」
「……忘れてた」
ジークはギドがリザードマン2体に今度は殺されないかと聞くが、カインは気にするなと笑う。
しかし、その笑顔の中には先ほど、ギドがさらりと口を滑らせたノエルがドレイクだと言う事をしっかりと聞いていたようであり、ジークはその笑顔に背中に冷たい物が伝ったようで顔を引きつらせる。
「す、すいません。別に隠していたわけじゃ!? い、いえ、隠していましてけど、別に悪気があったわけではなく」
「な、何を言ってるのよ。ノエルがあんな凶暴で血に飢えたドレイクのような魔族に見える? あんたの空耳よ。聞き間違いよ!!」
ノエルは慌てて言い訳を始め出し、フィーナはカインの気のせいだと主張する。
「別に今更、どうこう言うつもりは俺にはないよ。ただ……きちんと自分の身を守るように行動する事、ジーク、フィーナ、お前達はノエルの安全を考えて動く事、それだけは頭に入れて動く事」
「は、はい。わかってます」
「まぁ、それは気にかけてる。下手な事して、ジオスに殲滅隊とか来られても困るし」
「わかってるわよ」
カインは1つため息を吐くと、3人に言い聞かせるように言い、3人はカインの言葉に素直に頷く。
「まぁ、ジークが手綱を握っていれば大丈夫かな? あ、そうだ。ジーク」
「な、何だよ?」
「警戒しない。一応、ジオスに戻った理由にジークに渡す物があったんだ。今、渡して置く」
カインは3人の様子に苦笑いを浮かべると何かを思い出したようで、ジークに声をかける。ジークはカインに呼ばれた事にイヤな予感しかしないのか後ずさりして行き、カインに首根っこをつかまれ、逃げる事を阻止させる。
「これ、何だ?」
「これって魔導機器?」
「そうだと思います」
カインはジークの手の上に緑色に光る宝石のようなものを置く。ノエルとフィーナはその宝石が何か気になるようでジークの手を覗き込む。
「転移石。簡単に言えば、転移魔法の効果がある魔導機器」
「……そんなものを俺に渡してどうする気だ? と言うか、そんな凄い魔導機器を俺に渡すな。これ、絶対に高価なものだろ」
その宝石は3人の予想通り魔導機器であり、カインは簡単に魔導機器の説明をするがそれがどれだけ高価なものかはジークにも予想が付く。
「高価と言うか、非売品。お金には替えられません。俺と数名の研究チームが作ってたものだからね。実用化にはまだまだ時間もコストもかかるし、転移場所は5つまでしか覚えさせられないけど、充分だろ?」
「……真面目に研究とかしてたんだな」
「王都を離れる事になったから、研究からは抜ける事になったしね。試作品だけど、貰ってきたんだ。ノエルがドレイクなら、エルト様と連絡を付くようにしとくのは重要だろうし、無くすなよ。使い方は時間もないし、後でな」
「あぁ。わかった」
ジークはカインなりに自分達の事を気にかけている事が理解できたようで素直に魔導機器を受け取る。