第233話
「本当に大丈夫なのかよ?」
「まぁ、一応はゼイをゴブリン達の説得に向かわせたし、大丈夫じゃなかいかな?」
カインとギドが接触した翌日、ゼイを早朝にゴブリン達に説得に向かわせ、ジーク達はリザードマン達の警戒をかいくぐりながらギドが捕らわれている建物を目指す。
「……何で、疑問形なのよ?」
「そこはほら、お約束」
「お約束って」
カインは昨日、使い魔で見たリザードマンの見回りルートを覚え、ゴブリン達の話から見回りの時間帯まで押さえているようであり、リザードマンと接触する事はない。
「と言ってる間に到着だけど」
「あの2人をぶっ飛ばして、ギドを助け出せば良いのね?」
「落ち着け」
「ちょ、ちょっと、ジーク、何するのよ!?」
カインは1つの建物を指差すとリザードマン2体が建物の入口のそばに立っており、4人はリザードマンに見つからないように建物の影に隠れた。
フィーナ1人は短期決戦だと言いたげにリザードマンの姿を確認すると剣を抜いて駆け出そうとするが、ジークは呆れたように肩を落とすとフィーナの首根っこをつかみ、彼女を引き止める。
「……どうして、平和的に収めようとしているのに腕力で決着をつけようとするかな?」
「……計画に乗ってくれたギドやゼイより、フィーナの方が行動が魔族っぽいぞ」
「えーと、ジークさん、魔族全てが腕力で解決しようとするのと言うのは偏見ですよ。フィーナさんも落ち着きましょう」
フィーナの様子にカインは眉間にしわを寄せ、ノエルは苦笑いを浮かべるとフィーナをなだめる。
「なら、どうするのよ? あんたの使い魔で近づいて、また、眠らせる気?」
「いや、昨日、爆睡してしっかりとリーダーに怒られてるみたいだから、流石にそう簡単にかからないでしょう。それにそう言うのにはとっておきの物があるでしょ。トカゲって変温動物だし、体温下げれば冬眠するかも知れないぞ」
「……リザードマンとトカゲを一緒に考えて良いのか?」
3人から落ち着くように言われたフィーナは不機嫌そうな表情をする。カインは何度も同じ方法は取れないと言うとジークの肩を叩く。
「まぁ、それは冗談だとしても、動きを止めるには最適だろ?」
「はいはい。そう言うのは俺の役目だな」
「ジークさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫なんじゃないのか? 見る限り、遠距離系の武器は持ってないし」
「そうですけど、危なかったら直ぐに退却してください」
ジークはカインが何を言いたいのか理解したようで、腰のホルダから魔導銃を抜くと1人でリザードマンに向かって行こうとするが、ノエルはジークの身の安全を心配しているようで不安そうな表情をする。
ジークはノエルの不安を取り除くためか、彼女の視線をリザードマンに向けさせ、ノエルは頷くものの、危ない時は無理をしないようにと言う。
「わかってるって、と言うか、そこまで、近付かないしな」
「まぁ、基本的に遠距離用の武器だからね。それより、ジーク、そろそろ、リザードマン側のリーダーも現れるから、早く済ませよう」
「へいへい。わかってますよ」
カインに促され、ジークは建物の影に隠れながら、リザードマンに近づいて行く。
「大丈夫ですかね?」
「フィーナが行くよりは間違いなく安全」
ジークの背中を心配そうな表情で見ているノエル。彼女の姿にカインは苦笑いを浮かべるが、2度にわたって小バカにされているフィーナは面白いわけもなく、不機嫌そうにしている。
「……武器を捨ててくれると助かる」
「……」
ジークはリザードマンの手足を凍らせると、2体のリザードマンの頭部に銃口を向け、言葉は通じないながらも降伏勧告をする。リザードマンは目の前に立つ、人族であるジークの姿に殺意を込めた視線で睨みつけた。
「ノエル、通訳してくれ」
「は、はい。カインさん、フィーナさん、行きましょう」
「はいはい。ジーク、攻撃を受けると危ないから一応、縛るぞ」
リザードマンからの視線にジークは苦笑いを浮かべて、ノエルに助けを求める。ノエルはその声に直ぐに返事をすると駆け足でジークの元に向かい、彼女の後ろから手にロープを持って楽しそうに笑うカインが続く。
「……どうして、そこでおかしな事をするんだ?」
「まぁ、立場上は捕虜になるだろうしね。この2人が話に賛成してくれるかはわからないけど、危ない橋を渡る必要はないだろ。フィーナ、遊んでいるなら、ギドを呼んで来い」
「わかったわよ……ねえ、昨日、罠とか仕掛けてないでしょうね?」
嬉々としてリザードマンを縛りつけるカイン。そんな彼の様子にジークは大きく肩を落とすもカインは気にする事なく、フィーナにギドを救出してくるように言う。フィーナは頷き、建物のドアを開けようと手を伸ばすが、昨晩、カインの使い魔が侵入している事もあり、疑いの視線をカインへと向ける。
「そんなヒマは流石になかったよ」
「本当でしょうね?」
「……どこまで、信用ないんだ?」
「それは日頃の行いのせいだろ。フィーナ、俺が行くから、こっちの警戒よろしく」
罠など仕掛けていないと言うカインだが、フィーナは信用をしていないようでドアを開ける事はなく、時間もないため、ジークはフィーナに警戒を任せて建物のドアを開け、奥に入って行く。
「ギド、居るか?」
「……ジークカ? アノオトコハ、ホントウニフィーナノアニダッタノダナ」
建物内は薄暗く、ジークはギドの名前を呼ぶと暗闇のなか、2つの光が浮かび上がった。その光はギドの目であり、ジークを見つけたギドはそこでカインとフィーナが本当に兄妹だと信じたようである。
「疑ってたのかよ」
「アノフィーナニ、マホウヲツカウカゾクガ、イルトハオモワナイ」
「……それを言われると納得しかけるな」
ギドの反応にジークはため息を吐くが、ギドははっきりとフィーナをバカにし、ジークはギドの言葉に苦笑いを浮かべた。
「とりあえずは、外に出よう。ギドはずっと閉じ込められてたんだ。日の光も浴びたいだろ?」
「ソウダナ」
ジークはギドの元まで歩くと手足を縛っている縄を解く。ギドは長い間、縛られていた事もあり、手足を軽く動かし、感覚を確認するとジークと一緒に建物の外へと向かう。