第232話
「……ナンノヨウダ?」
暗闇の中、扉が開いた事に気が付いたギドは扉からの珍入者に視線を鋭くする。
「元気そうで何よりです。ギドさん」
「……オレニハヒトゾクノマホウツカイニシリアイハイナイ」
カインの使い魔はギドを見つけて挨拶をするが、ギドはジークもフィーナも魔法が使えないため、カインの使い魔を警戒しているようでカインとの使い魔と距離を取っている。
「そんなに警戒しないでくれると助かります。こんな格好で失礼します。カイン=クロークと言います。先日はジークと愚妹がお世話になったようですね」
「フィーナノカゾク? ウソヲツクナ。アノフィーナノカゾクニツカイマヲツカエルヨウナマホウツカイガウマレルワケガナイ」
カインは警戒を解くために名前を名乗り、ジークとフィーナとの関係を話すが、フィーナとカインが兄妹だとは信じられないようでギドの警戒はさらに強くなって行く。
「……本当にうちの愚妹が迷惑をかけたみたいで申し訳ありません。ですが、嘘は吐いていませんので信じていただけると助かります」
「……ハナシヲキイテカラオマエガフィーナノカゾクカカンガエヨウ」
「そう言ってくれると助かります」
ギドのある意味間違ってはいないフィーナへの信頼感にカインは本当に申し訳なくなったようであり、その様子にギドは本当にフィーナの兄なのではと思ったようで話を聞くと言う。
ギドの譲歩にカインは納得がいかないものを感じながらも礼を言い、ギドを慕ったゼイがジオスのジーク達のところまで助けを求めにきた事を話し、話の中でギドは話が本当かを精査しているのか眉間にしわを寄せて聞く。
「ゼイガノエルサマニタスケヲモトメニカ?」
「そう言う事です。俺は下手をすれば、人族と魔族の戦争になりそうなので様子を見に来ました。最悪はゴブリンとリザードマンを皆殺しにするつもりで」
「ホウ……ヒトゾクノジョウダントイウモノハワラエナイナ。ワレラハソノヨウナアクシツナジョウダンハコノマヌ。ココロニモナイコトハイウナ」
カインは明るい口調でゴブリンとリザードマンを皆殺しにすると言うが、ギドはその言葉を嘘だと判断したようで小さくため息を吐く。
「あれ? 効果なし?」
「……ワレワレ、ヒトゾクガマゾクトイワレルモノハハラゲイトイウモノハコノマヌ」
「そりゃ、残念」
「オマエハセイカクガワルイトイワレナイカ?」
カインはギドの反応を楽しみにしていたようでつまらなさそうに言い、ギドはカインが性格が悪い事を言い当てる。
「よく言われますね。まぁ、冗談はこれくらいにしましょう。時間もあまりないですからね。あまり遅くなるとゴブリン達がリザードマンに奇襲をかけてもおかしくないですし」
「ソウダナ」
夜目が利くゴブリンは深夜のリザードマンへの奇襲が最も効果的であり、このまま無駄に時間を過ごしているとゴブリン達がリザードマンへと攻撃を仕掛けそうなため2人は真面目な話に移ろうと視線を合わせた。
「改めて、私はゴブリンとリザードマンの和平交渉の調停役を受け持ちたいと思いますが、ゴブリン側としてはどのように考えていますか? リザードマンとの和平は成ると思いますか?」
「……カイントイッタナ。オマエハドコマデミエテイル?」
「ゴブリンは腹芸がお嫌いと言いませんでしたか?」
カインの提案にギドはカインの思惑の裏を読もうとしているようで視線を鋭くするがカインはその言葉をさらりとかわす。
「まずは確認しておきたい事があります。リザードマンとの戦闘は最初にギドが捕まった時の後は行われていませんね?」
「アア、ワレラガカリニデテイルトキニキシュウヲウケテワレガヒトジチニナッタ。ソノアトハワレノイノチヲウバウトイッテドウホウヲダマラセテイル」
「私の推測で言えば、先日からの地震はリザードマンの集落をも襲った。彼らは集落に住む事が出来なくなり、新たな移住地を探している途中で、この場所を見つけたと言ったところでしょうか? 力攻めでこないのは集落を捨てた時に戦える者達の数を減らしてしまった。数で戦力を互角と判断させてはいただきましたが、リザードマン達の戦士が不足していると考えれば」
「……ナルホド、ソレナラ、サイショノヒトアテデオレヲトラエテカラタタカイガナイノハウナヅケル。ソレナラ、リザードマンヲオイハラウコトガデキルトイウワケダナ。ワルイガダッシュツヲテツダッテクレルカ?」
ギドもリザードマン達の行動に疑問を覚えていたようであり、カインの話に合点も行ったようでリザードマンと矛を構えると言う。
「脱出に協力するのはかまいませんが、戦いは控えていただけませんか?」
「ナゼダ? アノトカゲハワレラノトチヲウバオウトシテイルノダ。マケルワケニハイカヌ」
ゴブリン達を指揮し、リザードマンを追い払うつもりのギドにカインは落ち着くように言うが、ギドは同朋を守るためにも引く事はできないと答える。
「彼らも住む地がなくなったわけですし、受け入れるわけにはいきませんか?」
「トカゲトトモニイキルナドアリエン」
「そうですか? しかし、それではノエルが望むものは見えてこないのではないですか? 彼女が望むのは種族が争う事がない世界。それは人族と魔族だけではない。ゴブリンやリザードマンと言った魔族同士でも同じものではありませんか?」
「……」
ギドはリザードマンとの共存はあり得ないと首を横に振るが、その様子にカインはノエルの主張を上げ、あの日、ノエルやジークとともに遺跡の奥を見たギドはその言葉に声を詰まらせる。
「少なくともあなたはジークやノエルと同じ想いを夢見てしまった。志を同じくするものとしては同志が他種族の命を奪う場所には立ち会いたくありません。それにそれができないなら、あなた達は私にとってはただの忌むべき魔族でしかありません」
「……ワカッタ。オマエノカンガエヲキコウ」
使い魔であるはずのカイン相手でも、ギドは怯んでしまったようであり、カインの言葉と遺跡から出て時にノエル達と別れ際にした約束を思い出したようでギドはカインの指示に従うと言う。