第230話
「五分? それなら、私達がゴブリン側に加われば楽勝じゃない」
「……ジーク、どうして、フィーナはここまで頭が悪く育ったんだろうね?」
「……俺に聞くな」
戦力を聞き、何も考えずに勝てると言い切るフィーナ。その様子にカインは大きく肩を落とし、ジークは眉間にしわを寄せた。
「何よ。戦力が五分なら、私達が入るんだから勝てるじゃない?」
「……勝てる可能性は高いな。ただ、どれだけの被害が出るかわからないけどね」
「フィーナ、俺達の目的の第1はギドを助ける事だぞ。それなのに力攻めで行ったら、ギドは殺されるぞ」
「……」
フィーナはバカにされている事に不満げな表情でジークとカインを睨みつける。その様子にジークは改めて、ギドの命が優先だと言うとフィーナは黙り込んでしまう。
「話を戻すぞ。人質を取って、戦争を後送りにしている可能性が高い。直接のぶつかり合いだと自分達にもどれだけの被害が出るかわからないからね」
「戦力を温存したいって考えるのが妥当って事か?」
「そうだね。ギドはゼイの話を聞くとゴブリン達に慕われている。彼を殺すと怒りに任せて攻撃を受ける可能性があるからね。そうなると人族との戦争もままならなくなるからね」
「……戦争」
ジークとカインの口から出る戦争と言う言葉がノエルの胸を締め付けて行く、彼女は平和的に解決できる術を探したいようだが、何も考え付かないようで唇をかむ。
「本来なら力で優位性を見せつけて、傘下にするのが妥当。だけど、リザードマン達はそれをしていない。これは何度も言うけどギドってリーダーの下でゴブリン達に統制が執れているから、そんな、リーダーを殺してしまえば」
「……オレ、ユルサナイ」
ギドがリザードマンに殺されてしまえば彼を慕っているゴブリン達から、どのような反撃があるかわからないため、ギドを簡単に殺す事はできないと言う。
「そう考えるとギドは今のところ安全って事で良いんだよな?」
「まあね。それとギドの重要性を理解しているって事は、リザードマンの中にも戦略に明るい者がいると推測できるね。それもおかしな小競り合いも起きている様子もないから、リザードマン側もある程度の統制は執れている」
「それが話になんの関係があるんだ?」
カインは推測ではあるが、リザードマンも統制が執れていると言うとジークはリザードマン側の指揮の事はあまり関係ないと思っているようで首を傾げた。
「ここからは希望的な推測。俺達はゼイからの話でリザードマンが戦力を拡大していると考えていた。それこそ、人族との戦争をするために」
「そりゃ、そうだろ。普通に考えればな」
「だけど、考えても見ろ。リザードマンとゴブリン総数で合わせても200人にも達しないんだ。そんななかで戦争を仕掛けても勝てる見込み何かない。戦争を仕掛けるなんて自殺行為だ」
「確かに、ここからもっとも近い宿場町まで丸2日、そこからワームまでで馬車で1日か? 殺してくださいって言ってるようなもんだな……でも、今のリザードマン達が先遣隊って事はないか? 全勢力がそろうまでの時間稼ぎ、全勢力がそろえば、ゴブリン達だって言う事を聞くしかないと思うから」
ゴブリンとリザードマンの戦力では人族へと戦争を仕掛けるほどでもないと言う。ジークはその言葉に納得はできたようだが、それでも魔族側の戦力が整っていないだけではないかと聞く。
「まぁ、その可能性も否定はできないけどね。そうなるとちょっと大変だね」
「あの、カインさんは人族と魔族の間では戦争にならないと思っているって事ですか?」
「そうだね」
カインの口ぶりからノエルは疑問を抱いたようで首を傾げるとカインは小さく頷いた。
「どう言う事だ?」
「ジークは今のリザードマン達は先遣隊かも知れないと言うけど、先遣隊だとしても戦力が五分の集落を攻めるほどバカじゃないだろ。仲間に引き込みたいなら、ゴブリンの集落を見つけた時点で本隊に使者を出し、増援を頼むべきだろ」
「それって、リザードマンに増援はないって事?」
「無いとは言わないけど、可能性は低い。だから、それをギドに確認してくる」
カインはリザードマンの戦力がこれだけの可能性が高いと言うとギドが何かをつかんでいる事が考えられると答える。
「はい。お願いします」
「確認してくるって言うなら、さっさと行きなさいよ。時間を無駄にしないでよ」
カインの言葉にノエルは戦争を回避できると思ったようで胸をなで下ろすが、フィーナはカインが遊んでいるようにしか思えないようで速くギドと話をしてこいと言う。
「なぁ、カイン、ギドに接触しなくても、リザードマンの方から話は聞けないのか?」
「無理」
「何でだよ?」
「リザードマンの言葉を使えないから」
「……冗談だろ?」
ジークはゴブリン側からしか情報を得る事しかしていないカインの様子に1つの疑問を持つ。
カインはその疑問にもの凄く簡単に答えるとジークはその答えは予想していなかったようでカインのいつもの悪質な冗談だと思ってようで眉間にしわを寄せた。
「リザードマンは文字を持たないから、なかなか、彼らの言葉の文献はなくてね。魔族間だとそれなりに交易があるから。ゴブリンとリザードマンは話が通じるけど、なかなか、リザードマンの人族は意思疎通って言うのは難しいんだよ」
「そうなのか?」
「あぁ。魔法学園にもいくつか文献があったけどね。リザードマンは王都やワームを中心にした地方ではあまり見ないから、必要性を感じてなかった。それ以外にも覚える事はたくさんあるからね」
カインはリザードマンの言語を学ぶ余裕はなかったと答え、ジークはどこか納得がいかないのか彼の眉間のしわはさらに深くなって行く。
「と言う事で、状況を確認するためにもギドに接触したいと思います。彼の考えも聞いて、状況によっては和平交渉に移れるかも知れないからね。80人程度だったら、全滅したくなければ騒ぎを起こすなって圧力も掛けられる」
「圧力って、お前、そんな権力ないだろ?」
「そこはほら、ハッタリで」
「……なら、そんな風に笑うな」
カインはハッタリでもリザードマンの戦意を削ぐ事を考えているようで口元を緩ませるが、その笑みには何か邪悪な物が見え隠れしており、ジークは彼の様子に大きく肩を落とした。