第228話
「まぁ、探すべきはギドってゴブリンだよな? となるとまずは見張りか警護が居そうなところ……単純に言えばあの建物だよな。リザードマンとゴブリン、ゼイには悪いけどあまり頭は賢くないだろうしね」
カインから放たれた光は集落内で情報を集めるために、小鳥や野ネズミと言った物に形を変え、ゴブリンやリザードマンの気配を探っている。
カインはまずはゴブリンのリーダーであるギドの生死を確認しようと集落全体を見るために上空に飛ばした使い魔の目には中心に他の建物に比べて、少しだけ立派に見え、建物の入り口には2人のリザードマンが立っている事もあり、カインはその建物に当たりを付けたようで使い魔の1つをそのそばへと飛ばす。
「リザードマンのリーダーがいるか、ギドって言うゴブリンのリーダーが捕らわれているか? 両方はないか?」
建物に使い魔を近づけてはみたものの、ゴブリンの住処は人族の住居に比べると小さく、リザードマンが拠点にするには手狭にも見え、人質を取っておく事と両方を行う広さはない。
「……となるとここにはいないだろうな。ここ以外にリザードマンが警護している場所か?」
この建物内にリザードマンのリーダーがいるのではないかと推測できるが、第一優先事項はギドの安否確認であり、カインは使い魔をこの場から離そうとした時、建物の入口が開き、5人のリザードマンが現れる。
5人のうち4人のリザードマンは1人を警護するように動いており、警護されている1人がこの集落を占拠し、ゴブリンを配下にしようとしているリザードマンのリーダーもしくはその位置に準ずる1人だと思われ、カインは使い魔に後を付けさせる。
リザードマン達が進む先には小さな建物があり、そこにも2人のリザードマンが立っており、そのリザードマンの様子は何かを警戒しているようでかなりピリピリとしているようにも見え、その建物の中には重要な物が置かれている事は察しが付く。
「……単純にここだとしても、この使い魔じゃ、潜入は無理だな。もう少し、様子を見るか? ギドと接触するのは夜だな」
5人のリザードマンが建物の中に入るが、小鳥が続けて建物内に潜入するの不自然であり、カインはギドと接触する時間を取ろうとしたようで建物のそばで使い魔を待機させると他の使い魔へと精神を集中させる。
「カイン、ウゴカナイ」
「ゼイ、突っつくな。そんな事をしていると後が怖いぞ」
「……ワカッタ。ヤメル」
使い魔での情報収集のために集中しているカインはぴくりとも動かず、ゼイは微動だにしないカインの様子に興味深そうに覗きこむとどうしたらカインが動くか気になったようで指でカインの頬を突く。
ジークはその姿にため息を吐くとゼイを引き離そうとするとゼイはカインにどこか恐怖を抱いているようで素直に頷いた。
「いつもは使い魔を出しながらぺちゃくちゃ話してるのに今日はどう言う事なのよ」
「……フィーナ、お前も遊ぶな」
「そうですよ。カインさんはギドさんや他のゴブリンさんを助けるために一生懸命に情報を集めているんですから、そんな事をしたらダメですよ!?」
ゼイを引き離すと今度はフィーナが日頃の恨みと言いたいのか、カインの頬を引っ張り始め、ノエルは慌ててフィーナに止めるように言う。
「ですけど、フィーナさんの言う通り、今日はどうしたんでしょうね? いつもは使い魔で情報収集もして、わたし達と会話もしているんですけど」
「さあな。使い魔を放った時、光が5つに分かれたし、本体で相手をしてるヒマがないんじゃないのか?」
ノエルもフィーナと同じ疑問を抱いており、ジークは情報収集をカインに一任している事もあるようで投げやり気味に答えた。
ジークの考えは正しく、カインは5つの使い魔からもたらされる情報を処理するために集中しており、目の前の情報はシャットアウトしているのである。
「仮にジークの言葉が本当なら、やりたい放題よね?」
「フィーナ、おかしな事をすると後が怖いぞ。と言うか、さっき、やられたばかりなんだから止めろ。連帯責任なんて言われたら、俺やノエルはたまったもんじゃないからな」
フィーナはまるで仕返しをするなら、まさに今だと思ったようで口元を緩ませるが、ジークは先ほど叩きのめされた事を忘れているフィーナの様子に肩を落とす。
「ジークさん、どうしましょうか? そろそろ、夕飯の準備でもしましょうか?」
「いや、今日は味気ないかも知れないけど保存食だな。集落も近いわけだし、火なんか使ったら、攻撃してくださいって言ってるようなもんだからな」
「確かにそうですね」
ノエルはフィーナの様子に苦笑いを浮かべると辺りが暗くなってきた事もあり、夕飯の準備をしようとするがゴブリンやリザードマンへの警戒もあるため、火を使う事はできないとジークは首を横に振った。
「俺的にはやっぱり、温かい物が食いたいね」
「反応したわ」
「……」
その時、カインは情報収集に一段落ついたようで目を開き、フィーナは先ほどの仕返しの件が聞かれていた事も考えられるため、警戒するようにカインから距離を取り、ゼイも頬をつついた事もあり、フィーナに続きカインとの距離を取った。
「フィーナもゼイも何かしたのかい?」
「まぁ、気にするな。それより、温かい物って言っても火は使えないだろ? 火なんて焚いたら、ここに俺達がいる事をばらしているようなものだろ?」
「そんな事もないだろ。一応、この場所はゼイから集落の警備の見回りを考えて、その範囲から外れてるしね。さっき、リザードマンの部隊の配置も確認してきたから、ここまでは来ないと思うよ。それに火を焚かないと獣からの襲撃が怖いからね。ジーク、のどが渇いたよ。真面目に働いていた人間にお茶の1つも出てこないのかい?」
「ジーク、私の分もね」
「……水でも飲めよ」
カインが野宿をする場所は考えてあると言い、ゴブリンやリザードマンからの襲撃への対処も行っていると答えるとジークに飲み物を要求し、フィーナもカインに続く。
ジークは2人の態度に呆れたようにため息を吐くも、荷物から簡易コンロを取り出して湯を沸かす。