第227話
「本当に野宿をするつもり?」
「……フィーナ、お前は人の話を聞いていたか?」
宿場町を出て、3日目、カインの提案通り、ゴブリンの集落の近くでテントを張るがフィーナは納得が行っていないようで頬を膨らませている。
「なぁ、ゼイは1度、集落に戻った方が良いんじゃないか? 協力してくれるヤツもいるかも知れないし、ゼイがいない間の話も聞きたいだろ?」
「確かにそうですね」
「ゼイは助けを求めるために集落を出たわけだし、状況次第では裏切り者だって言われてリザードマンに差し出される可能性もあるからね。戻るとしたら、もう少し様子を見てからだ」
フィーナの様子にジークは苦笑いを浮かべると集落の様子も気になるようでゼイに1度、集落に戻って貰おうと言い、ノエルはジークに賛同するがカインはゼイの身の安全を考えているようで首を横に振った。
「そんなに警戒する必要ってあるの? ギドがいるところのリザードマンを蹴散らしてギドを助ければ終わりでしょ?」
「少なくともギドってのが無事かどうかを確認してからだ。すでにギドが殺されてて、意見に従わないゴブリン達をリザードマンが皆殺しにしている可能性だってあるわけだからね。ゼイと意見を一緒にして俺達に協力的なゴブリンもいれば、人族の協力何か要らないって言って自分達でギドを助けようとするゴブリンもいる。最悪、リザードマンに同調して戦争を起こす気のゴブリンも居るかも知れないしね。最後のところにゼイが行ったら、どうなるかはお察しの通りだろ?」
「少なくとも、リザードマンに協力的なゴブリンがいるかどうかを調べ上げないといけないって事か?」
フィーナは何も考えていないようでギドを助ければ終わると思っており、彼女の短絡さにため息を吐く。
少なくともカインは自分達の安全だけではなく、先日知り合ったばかりのゼイの安全確保も必須だと考えている。
「そう言う事、安全確保は必須。それとも、フィーナ、お前は状況が変化しているなかで安全も確保できない場所にゼイを投げ込むつもりか?」
「そ、それは……できるわけないでしょ」
カインの問いかけにフィーナは自分が間違っている事を気付かされたようだが、素直に非をに止める事はできないようで視線を逸らす。
「まぁ、そう言う事で、俺はちょっと、集中するから、周囲の警戒を頼むぞ……後、ゼイが集落に戻らないように捕まえておいてくれ」
「オレ、モドル」
「ゼイ、待て!?」
「ナンダ?」
「お前は話を聞いてたか?」
「オレ、ムズカシイハナシ、ワカラナイ」
カインは集落の様子を偵察してこようとしているようで使い魔を呼び出そうとするがその視線には今にもテントから出て行きそうなゼイが映った。
ゼイはカインの話を全く理解できていなかったようで集落に向かって駆け出し始め、ジークは慌ててゼイの腕をつかむ。
「ノエル、ゼイに説明は任せるぞ。俺は少し集中する……」
「は、はい。わかりました」
微妙に意思疎通のできていないジークとゼイの姿にカインは苦笑いを浮かべると目を閉じ、精神を集中するとカインの身体を淡い光が包み込んだ。
その光はカインの胸の前に移動し、1つの光の球を形作った後、テントの外に飛び出して行き、外に出てから5つに分かれてバラバラに飛んで行く。
「……あれが使い魔になるの?」
「そうみたいですね」
カインの使い魔は何度も見ているが、呼び出す時には立ち会った事もなかったため、ノエルとフィーナは見慣れない光景に首を傾げる。
「ノエル、ゼイの説得、頼めるか? 話が通じない」
「は、はい。わかりました。ゼイさん、良いですか?」
「ナンダ?」
2人が首を傾げているが、ジークは未だにテントを抜け出して集落に戻ろうとしているゼイを取り押さえるのが手一杯のようでノエルに助けを求め、ノエルはジークに代わりゼイへの説明を受け持つ。
「……俺も他種族の言葉の1つくらい覚えようかな?」
「ノエルやアーカスさん、ついでにそのクズを見てるとちょっとだけ、使えると便利だとは思うわね」
「そうだよな……なぁ、ふと思ったんだけど、どうして、魔族の言葉がわかるんだ?」
言葉が通じない事に思いのほか労力を使う事を実感したジークは大きく肩を落とした。
フィーナもジークが考えている事と同じ事を思ったようで小さく頷くとジークは苦笑いを浮かべるが、彼の頭には1つの疑問がよぎる。
「何を言ってるのよ? それは魔族の言葉を勉強したからでしょ」
「何のために?」
「何のために? ジーク、あんたは何が言いたいの?」
フィーナはバカな事を言うなと言いたげに肩を落とすが、ジークの更なる問いに意味がわからないようで首を傾げた。
「いや、最初に他の種族の言葉を覚えようとした人間は何を思ってその言葉を覚えたんだ?」
「何を思ってって、話をするためにじゃないの?」
「そうだけど、何で話をしようと思ったんだって話だ。魔族は人族の敵のはずだろ。それなのに両種族にその言葉を理解して会話を成す者がいるのも事実だろ? その道が交わらないって言うなら、言葉なんか覚える必要性なんてない」
「そう言われればそうよね……戦争するのに降服勧告するためとか?」
ジークは敵対し続ける種族であれば意思疎通に必要なお互いの言語を覚える必要性などないと思ったようだが、そうなると現在までに人族に伝わっているゴブリン語のような魔族の言葉を使える人族がいるのはおかしいと言う。
フィーナはジークの言葉に頷くもやはりどこかで全ての魔族とは会い慣れないと思っているようで戦争のためではないかと答える。
「降服勧告とか話し合いが成立するなら俺達が子供の頃から教わっていた魔族は人族に危害をもたらす存在ってのはおかしいだろ? それこそ、やりたくはないけど、見つけたらすぐに殺せって感じだしな。それだと言葉は必要ないだろ?」
「確かに」
「それなのにこの土地にはゴブリンの集落があって、人族の街が存在している。はたから見れば、いつ戦争になってもおかしくないはずなのに今回のリザードマンが現れるまで生活地区の住み分けができてたって事だろ? それはいつ、誰が決めた?」
「そんな事、急に言われてもわからないわよ」
「確かにな」
ジークの疑問にフィーナは回答を持ち合わせておらず、ジークも自分で言ってはみたものの回答などはない。