第224話
「で、どうして、お前達は厄介事を抱え込むかな?」
「……それに関しては厄介事を持ってくるお前に言われたくないよ」
エルトをセスに引き渡し、店に戻ってきたカインはゴブリンに協力する羽目になった事にため息を吐く。
ジークは眉間にしわを寄せながらシルドの店に運ぶ商品をまとめている。
「あの、ジークさん、まずは落ち着きませんか? お茶を用意しますから」
「ノエル、ありがとう。ジークも休憩にしないか?」
「そうだな」
2人の様子にノエルは苦笑いを浮かべるとお茶を置き、彼女の後ろからは未だに少女の姿のままのゼイが顔を覗かせている。
「そう言えば、カイン、領地を貰ったって割にはこんなところに居ても良いのか?」
「そ、そうです。ラース様が管理するには大変な土地だと言ってました」
ノエルが淹れたお茶を口にしたジークは自分達の事は一先ず置くとカインの事を聞き、ノエルはラースから聞いた事もあるため、心配そうな表情をして聞く。
「まぁ、就任まで少し時間があるしね。まだ、そこにも行ってないから、何とも言えないね」
「そんなんで良いのかよ?」
「良いの。良いの」
2人の心配を余所にカインは楽観的に言い、ジークは大きく肩を落とす。
「まだ時間があるっていつまで時間があるんですか? 移動日数とかも考えるとそんなに時間はないんじゃないですか?」
「まぁ、それなりに仕事を持ってたからね。コーラッドさんへの引き継ぎにその他モロモロ有って、来月辺りには出立しないといけないね」
「……その他モロモロって割にはお前はほとんどをすでに終わらせている気がするのは何でだ?」
「いや、後任のコーラッドさんが優秀でね。特にやる事がなくなっちゃったんだよね。流石は魔法学園が誇る才女様だよね」
カインは口では忙しいと言いながらもすでにかなりの仕事をセスに押し付けたようであり、楽しそうに笑っている。
「……あれだな。1番の貧乏くじを引いたのがコーラッド様の気がするな」
「そ、そうですね」
「そんな事もないと思うけどね。実際、コーラッドさんもそれなりに名の知れた家名だけど、衰退して行っているし、家名を上げる良い機会だと思うんだけどね。エルト様の側近となれば、充分に得があるだろ。それにエルト様もそろそろ、色々と考えて貰わないといけないしね」
カインの姿にジークは眉間にしわを寄せ、ノエルは苦笑いを浮かべるがカインはそんな事はないと言うだけではなく、エルトのそばにセスがいる事で何かを期待している節が見える。
「……それはコーラッド様の気持ちを考えてくれ」
「ジークは何を言ってるんだい?」
ジークはエルトからセスのカインへの気持ちを聞いているためか、カインのお節介に大きく肩を落とす。しかし、カインはジークが何を言いたいのかわからないようで首を傾げる。
「いや、とりあえずは俺が言う事でもないから良い。それより、カイン、お前はいつまでジオスに居るつもりだ?」
「うーん。そうだね。まだ、時間もあるし、せっかくだから、ジーク達と一緒にギドってゴブリンを助けに行こうかな?」
「ま、待った。お前はいきなり、何を言い始めるんだ!?」
カインはどこかでゴブリン達を信用しきっていないようであり、ジーク達に同行すると言い始め、カインの突然の言葉にジークは驚きの声を上げた。
「ギドって人質になっているゴブリンを助けるんだろ? 戦術、戦略面を考えれば必要だろ。実際、人質を助けないといけないのにゴブリン達で作戦を立てられるのかい? こっちには単細胞までいるんだぞ」
「そ、それは確かにそうかも知れないけどな」
ジークの反応に口元を緩ませるカイン。ジークはギドを無事に助けると考えた時にフィーナと言う足手まといがいる事を不安に思い始めたようで考え込み始める。
「オレ、コイツ、キライ」
「ゼイさん、落ち着いて下さい。カインさんは信頼できる方です。きっと、そ、そうだと信じたいです」
「……」
ゼイはカインに恐怖を抱いている事もあり、ノエルの背中に隠れながら反対の意思を見せるがノエルは彼女に落ち着くように声をかけ、ゼイはノエルの言葉に頷きはするもののカインを警戒するように視線を送っている。
「……カイン、お前、何をしたんだよ?」
「別に何もしてない。元々、人族と魔族の関係なんてこんなもんだろ。それで、そのゴブリンの集落って言うのはジオスからどれくらいの距離なんだい?」
ゼイのカインへの敵意にジークはため息を吐くがカインは気にした様子はなく、ゼイやギドが暮らす集落の位置を聞く。
「待て。お前が入るとゼイとの連携も取れる気がしなくなるんだ」
「問題ない。口で何か言うより、態度で示すのが1番だろ?」
ジークはカインにゴブリンの集落の場所を教えて良いのか悩んでいるようで険しい表情をするがカインにはカインの考えもあるようで任せておけと言う。
「まぁ、確かにそうなんだけど、実際、カインが入るとゼイ達ゴブリンだけじゃなく……フィーナとの連携が1番心配だ」
「ん? それに関しては逆らうようなら徹底的にしつけるから問題ない」
「オ、オレ、サカラワナイ」
ジークの心配事はカインとフィーナの連携であり、大きく肩を落とすがカインはそれこそ問題ないと笑うがその背後には真っ黒な気配が漂っている。
ゼイはそんなカインの様子に完全に怯えているのか、ノエルの背後で震え始める。
「ゼイも納得したようだね。ジーク、それでゴブリンの集落の位置は?」
「……納得と言うか恐怖で抑えつけた感じだけどな」
カインとゼイの間におかしな信頼関係が出来上がり、ジークはため息を吐くと地図を広げた。
「変な言いがかりは止めてくれないかい。それで、どこら辺なんだ?」
「えーと、この辺だったかな?」
「1番近いのはワームの1つ手前の宿場町か? ……ワームまでなら転移魔法で飛べるな」
ジークが指差した場所は先日からシュミットが治める事になったワームと言う都市の近くであり、カインが居れば転移魔法で飛べると言う。
「それは……なぁ、おっさんがワームにいるって事はその娘も一緒にいるのか?」
「いや、カルディナ様は魔法学園があるから、王都にいるよ。おっさんの奥方様も田舎にはいけないと言っておっさん単身赴任だし」
「……そうか。それなら、ワームに移動して、あの暴走娘に見つかって逃げるって事はしなくて良いんだな」
「まぁ、そう言う事だね。流石にカルディナ様に見つかると厄介だからラッキーだった」
ジークはカルディナの相手はしたくないようで安心したようで胸をなで下ろし、カインは苦笑いを浮かべる。