第222話
「良いじゃないか。政治をわからない人間が悪政をするよりはずっと良いよ。それじゃあ、行こうか?」
「いや、勝手に話を進めるな」
ジークの店に戻ろうとするエルト。しかし、ジークはゴブリンであるゼイとエルトを関わり合わせたくないため、エルトの腕をつかむ。
「何か問題があるのかい?」
「王子がこんな片田舎をうろついている事が大問題だ。それにウチの店は村の年寄り連中が集まるんだ。バレたらどうするんだよ。エルト王子の命を狙う暗殺者が村をうろつくようになるのは俺はイヤだぞ」
「そんな事にはならないと思うけど、私もジークもそんなへまはしないだろ」
ジークが自分を店に連れて行きたくない理由を聞きたいエルトは首を傾げる。ジークは王子であるエルトが警護と言う物とは程遠いジオスを歩きまわっている事が知れる事が不味いと言うが、当の本人であるエルトはあまり気にしてないように見える。
「忘れるな。ウチにはノエルがいるんだぞ。絶対に口を滑らせる。後は無神経なフィーナもいるんだからな。気にする事なく王子って呼ぶぞ」
「確かにぼろを出しそうだね。だけど、ジルさんの店ではバレなかったし、大丈夫だろ」
現在、ジークの店にはゼイだけではなく、ノエルやフィーナと言った注意力に欠ける人間しかおらず、エルトは少し考え込むもルッケルでバレなかった事もあり、楽観的に考えており、ジークの店に向かって歩き出す。
「とりあえず、中に入ろうか? ノエル、カギを開けてくれるかい」
「あ、あの。カインさん、落ち着いてください」
「大丈夫だよ。話を聞くまでは八つ裂きにはしないから、それより、いつ、魔法が解けるかわからないから、早く店の中に移動した方が良くないかな?」
ジークがエルトを店に行かないように頑張っているなか、既にジークの店では手遅れの状態になっている。
ノエルとフィーナが店にゼイを連れて帰ったのだが、何か用事があったようでカインが店の前に立っており、彼はゼイの姿を見つけると直ぐにゼイが魔族である事を察したようで眉間にしわを寄せた。
カインの様子にノエルは彼を落ち着かせるように言うが、カインは笑顔でもおう1度、カギを開けるように言う。
「は、はい。わかりました」
「……フィーナ、アイツ、テキカ?」
「……落ち着きなさい。下手に戦うのは危険よ。スキを付いて、一気に仕留めないとダメよ」
ノエルはカインに逆らう事ができず、慌てて店のカギを開けようとするが、慌てているせいもあるのか、なかなか、カギを開ける事ができない。
自分より、上位種の魔族であるノエルが怯えている姿にゼイはカインを敵とみなし、武器の斧に手を伸ばそうとした時、フィーナはタイミングを見計らうべきだと彼女を止める。
「それで、どう言う事か教えて貰おうか?」
「フィ、フィーナさん!? だ、大丈夫ですか!? カ、カインさん、やり過ぎです。せめて、話を聞いてからにしてください」
店に入るとカインはフィーナを店の床に叩きつけ、彼女を見下ろしながら状況を説明するように言う。ノエルは慌てて、フィーナに駆け寄り、彼女を抱き起こす。
「これは話を聞くまでに先に仕掛けてこようとした事へのしつけだから問題ないよ。それで、ジオスはいつから魔族が入り込むようなところになったんだい? これがノエルの影響で、人族に仇をなす場合はわかっているよね?」
「そ、そんなつもりはありません!?」
「オレ、タタカウキナイ」
カインは口調は穏やかではあるが、その彼の背後には3人を威圧する気配が漂ってあり、ノエルは顔を青くし、ゼイは完全に威圧されてしまったようで首を大きく横に振った。
「それじゃあ、話を聞かせて貰おうか?」
「は、はい」
「ノエル、待ちなさいよ。こんな奴に話すと何が起きるかわからないわよ」
カインに威圧されているノエルは状況をかいつまんで話そうとするが、床に叩きつけられたフィーナは面白くないという感情もあるのか、カインに話す必要はないと主張する。
「で、でも、カインさんなら、しっかりと話をすれば、わかってくれると思うんですよ。わたしが魔族だと知っていても分け隔てなく、接してくれてますし」
「わかってないわね。この男はノエルに利用価値があると思ってるからだけであって、人としての情があるわけじゃないわ!!」
ノエルはカインを話のわかる人間だと思っているが、実の妹であるはずのフィーナは絶対に話すべきではないと声をあげる。
「フィーナ、いい加減にしないとぶちのめすよ」
「ニ、ニンゲン、コワイ」
カインは笑顔でフィーナに黙るように言うが、既に彼は持ち歩いている杖で彼女の頭を勢いよく殴りつけており、物理的に黙らせたようでフィーナは白目をむいて床に倒れ込み、ゼイにとってはすでにカインは恐怖としての対象になったようでノエルの背中に隠れてしまう。
「……と言う事なんですけど」
「ゴブリンの集落にリザードマンがね」
ノエルは白目をむいているフィーナを奥で休ませるとカインに状況を説明し、カインは魔族であるリザードマンの進行に眉間にしわを寄せる。
「で、ゴブリンは今のところ、人族と戦う気はないと」
「そうです。ゴブリンの集落の代表のギドさんは人族と争いを起こす気はないって言ってます。だから、リザードマンに捕まってしまったわけですし」
「ノエル、俺はゼイに聞いているんだ」
ノエルはリザードマンを追い払えば、何も問題ないと主張するが、カインが聞きたいのはノエルからではなくゼイからであり、真っ直ぐと彼女へと視線を向けた。
「オレ、ムズカシイコトワカラナイ。デモ、ギドサマ、ヒトゾクトタタカワナイイッタ。オレ、ノエルサマ、ジーク、フィーナ、タタカイタクナイ」
「……」
「カインさん、信じてください」
ゼイは集落の代表であるギドの言葉に従うと言い、カインはその言葉を見極めようと眉間にしわを寄せており、ノエルは懇願するようにカインを呼ぶ。
「……ノエルはこれが罠だとした時にジークとフィーナがどれだけ危険か理解しているかい?」
「大丈夫です。わたしはゼイさんやギドさんを信じてます」
魔族の集落にジークとフィーナを送り出す事はカインにはやはり不安のようであるが、ノエルは彼から視線を逸らす事なく言う。
「わかった。その代わり、何かあった時は理解してくれ」
「……ワカッタ」
カインはノエルの様子に折れたようでため息を吐くが、ゼイに2人の安全を保証するように釘を刺し、ゼイは大きく頷く。