第220話
「アノエルフ、スゴイ」
「ハーフエルフだけどな……しかし」
「ジーク、鼻の下を伸ばさない」
アーカスの魔法は当然のように成功すると邪魔だと追い出され、4人はジオスへ向かって歩く。
ゼイは自分の姿が人族へと変わった事に興奮しているが、その姿はノエルより少し小さい少女の姿をしており、フィーナはゼイの姿を見ているジークを睨みつける。
「別に鼻の下を伸ばしているわけじゃない。ゼイって、女だったんだと思ってな」
「イワナカッタカ?」
「聞いてない。それにアーカスさんだってゼイの事を小僧って言ってたしな」
先ほどまで見ていた姿へのギャップもあり、ジークは戸惑っているのか困ったように笑った。ゼイはジークの反応の意味がわからないようで不思議そうに首を傾げている。
「まぁ、これで今日はどうにかなりそうだけど、問題は……」
「す、すいません!?」
「いや、気にしなくて良いけど、店に戻ってからにしないか? 危ないし」
「そ、そうですね」
ゼイの様子にジークは苦笑いを浮かべるとアーカスから借りた魔法書とにらめっこしながら歩いているノエルに視線を移した時、タイミング良く、ノエルは転びそうになり、ジークは彼女を抱きとめてため息を吐く。
「……」
「フィーナ、ドウシタ?」
「な、何でもないわ。そうよ。何かあるわけがないわ!!」
ノエルがジークの腕の中にすっぽりはまった事に不機嫌そうな表情をすると、状況を理解していないゼイは上目使いの彼女の顔を覗き込んだ。
ゼイの上目使いはフィーナはおかしなツボに入ってしまったようで直ぐに視線を逸らすと全力で何もないと叫ぶが、その姿は酷く滑稽にも見える。
「とりあえず、ゼイにかかってる魔法の効果がいつ切れるかわからないから、ノエルとフィーナはゼイを連れて店に戻ってくれ。俺はアーカスさんから預かった魔導機器をシルドさんの店に置いてくる。ついでに他に情報が入ってないかを聞いてくるから」
「わかったわ」
「それじゃあ、任せる」
ジークはシルドからのお使いを終わらせる必要があるため、3人と別れて再び、シルドの店に向かう。
「あー、そう言えば、村を開けるんだから、他にもやる事があるんだよな?」
「他にもやる事? それはどんなプレイだい?」
「……何で、ジオスにいるんだ?」
1人になり、しばらく、歩いているとジークは村を開ける事で自分達の旅の準備以外にも必要な事がある事を思い出してため息を吐いた。その時、ジークの独り言に反応した人物がおり、ジークはその声に聞き覚えがあり、眉間にしわを寄せる。
「いやね。カインが出立前にジオスに取りに行く物があるって言うからね。ちょっと息抜きがてら付いてきたんだよ。それにジーク達がいるから、セスにジオスを転移魔法のマーキング位置にしておいて貰うのも必要かと思ってさ」
「……なぜ、私がこんな田舎にまで? 可愛い子もいないし、田舎くさいし」
声の主は先日、知りあったこの国の第1位王位継承者であるエルトであり、そのそばには先日、カインに代わりエルトの側近の地位を手に入れたセスが不本意な表情で立っている。
「……俺をおかしな事に巻き込むな」
「そんなつもりもないんだけどね」
「俺達平民はあくせく働かないといけないんだ。王子様の相手をしてるほど、ヒマじゃないんだよ」
「ジーク、私の扱いが粗雑だけど、これでも王位継承者なんだけど」
エルトの相手などしているヒマはないと先を進んで行くジーク。エルトはジークの反応に嫌われたものだと思ったようで苦笑いを浮かべた。
「それだけの被害を受けてるんだよ。と言うか、本当に時間がないんだ。コーラッド様、早く、エルト王子を王都へ連れて帰ってください」
「エルト王子、ジーク=フィリスの言う通りです。早く王都に帰りましょう」
「うーん。そうなんだけどね。ジークが何か面白い事に巻き込まれている気がするんだ」
「お、王子、待ってください!?」
足早に歩くジークをエルトは追いかけ、さらにその後をセスが続く。
「ジーク、今度は男にも手を出したか?」
「……違う」
「そうだな。美少女も連れて歩いているからな」
結局、エルトとセスはジークの後に付いてシルドの店に顔を出し、初めて見るエルトとセスの姿にシルドはジークをからかうように笑う。
「いや、私もセスもジークとはそんななかじゃないよ。ただ……ここのところ、セスとカインが怪しいんだ」
「何? いくらなんでもカインはないだろ。あいつの性格の悪さは……マゾか」
「そう言う事ですよ」
その言葉にエルトは悪のりを始めたようでシルドにカインとセスの様子が怪しいと耳打ちをする。カイン相手に恋愛感情を持つ人間などいないとシルドは言いかけるが、彼の頭は1つの答えを導き出した。
「何を言っているんですか!?」
「……コーラッド様、あいつは止めておいた方が良いぞ」
「誰が、あんな性悪など、絶対にあり得ませんわ!! おかしな事を言わないでください!!」
カインの性格の悪さを幼い頃から知っているジークはセスに向かい、考え直すように言うとセスは全力で否定する。
「あー、悪かった。悪かった。ジーク、この2人はカインの友人か?」
「あー」
「王都の魔法学園でカイン=クロークとともに学んでいる者です。今回は彼の里帰りと言う事で同行させていただきました」
「なるほどな。カインも楽しくやってるもんだ」
シルドはエルトを王子だとは思っていないため、2人にカインの友人かと聞くとセスはカインとは同窓だと強調し、その姿にシルドは口元を緩ませた。
「……なぁ、本当にカインとコーラッド様ってそう言う関係じゃないんだよな? 反応を見ると微妙な感じがするんだけど」
「まぁ、あれだね。カインも王都に来た時は見た目は可愛い子供だったからね。それにフィーナみたいに素直になれない娘って言うのは割とどこにでもいる物だよ。カインは優秀な魔術師が集まる魔法学園でも最高峰の人間。そんな人間がすぐそばにいたら、セスの湧く感情は憧れ? 嫉妬? なんだろうね」
「愛情と憎悪は裏表ってヤツか? ……イヤな事を聞いたな」
セスの反応にジークはエルトにセスの心の内を確認するとエルトは楽しそうに笑う。しかし、その答えにジークは純粋に応援できないのか眉間にはくっきりとしたしわが寄って行く。