第219話
「……変わらないですね」
「そうだな」
「まぁ、しょせんはジークの思いつきよ。期待なんかしてなかったわよ」
魔導機器を受け取ってみたものの、ゼイの姿はゴブリンのままであり、苦笑いを浮かべるジーク。フィーナは期待して損をしたと言いたげにため息を吐いた。
「そりゃ、悪かったな。しかし、そうなると……」
「この中から探さないといけないのよね? 何か他に方法ってないかしら?」
フィーナの言葉にジークは一瞬、むっとするものの、何かを言って無駄な時間を過ごすわけにもいかず、書庫の魔法書を見て肩を落とし、フィーナはすでに限界がきているため、何かないかと首をひねり始める。
「せめて、関連するもので並べててくれれば探し用があるのに、ぐちゃぐちゃだからな」
「はい。精霊魔法関係や神聖魔法関係、他にも魔導機器の製作に関するもの、他にも市販で売られていない魔法書もありますから、どこに何が書いてあるかわかりません」
「市販で売られてない物?」
「はい。たぶんですけど、表に出ていない高位の魔法の論文だと思います。難しすぎて、わたしにはよくわかりませんけど」
ジークは適当に魔法書を手に取り、わかる範囲で選別を行うなか、ノエルはアーカスの蔵書の豊富さに苦笑いを浮かべた。
「魔法の論文ね? どこで手に入れるんだ? アーカスさん、世捨て人なのに」
「ホントよね……ねえ、ジーク、そう言えば、アーカスさん、おっさんの事を小僧扱いしてたわよね? おっさんとお父さんと面識ありそうだったし、昔、王都の魔法学園にいたりして」
「……ありそうで怖いな国王様にも顔が利きそうな気がする」
フィーナはアーカスがいつから、ジオス村近くに住みついたか、聞いた事もないため、アーカスの過去を冗談めかして推測する。しかし、ジークはその冗談は笑えないと眉間にしわを寄せた。
「でも、気にならない?」
「気にならない事はないけど、深入りするのが面倒なんだよ。それを知ると何かある度にあそこに行ってこい。今度はあっちだ。って言われそうでな」
「確かにそれはありそうね」
「と言う事で、この話はここで終わり」
「わかったわ」
アーカスの過去は気になるものの、聞いてしまえば、今以上に無理難題を押し付けられそうであり、ジークとフィーナはこれ以上はアーカスの過去を気にしないと決めたようで大きく頷く。
「安心しろ。必要なものがあれば、どんなところにも行ってこい言うが」
「アーカスさん!? いつの間に!?」
「えーと、国王様に顔が利きそうってところからです」
その時、ジークとフィーナの耳にアーカスの声が聞こえ、ジークは驚きの声をあげるがノエルはアーカスが書庫に入ってきていた事に気が付いていたようで苦笑いを浮かべた。
「そんなところから?」
「そ、それで何かあったんですか? 必要な資料でも取りにきたんですか?」
「1つ思い出した事があってな。ゴブリンの小僧、こっちへ来い」
少し居心地が悪くなったのか話を逸らそうとするジーク。アーカスは何かあったのかゼイを呼ぶ。
「ナンダ?」
「お前達の集落があるのはどの辺だ?」
アーカスは書庫にある机の上に近隣の地図を広げ、ゼイにゴブリンの集落の場所を聞く。
「……」
「アーカスさんはゼイやギド達の不利になる事はしないと思うぞ」
「はい。アーカスさんなら大丈夫です」
「ソウカ……ココダ」
ゼイはアーカスに集落の位置を教えて良い物か悩むもジークとノエルの事は信頼しているようで2人の返事を聞いてから、地図の1個所を指差す。
「ほう……」
「……ジーク、何があると思う?」
「さあな。ただ、あの顔はろくでもない事を考えている気がする」
ゼイが指差した位置とジオスから、集落までのルートを確認し、口元を緩ませ始めるアーカス。彼の様子にジークとフィーナの眉間にはくっきりとしたしわが寄った。
「小僧共、行きでも帰りでも良いから、ここによって、これを買って来い」
「……アーカスさん、今の状況を理解していますか?」
「ノエル、言うだけ無駄だから、アーカスさん、行ってくるのはかまいませんけど、その代わり、さっき言ってた魔法が書いてある魔法書を探してください」
アーカスは何かメモのようなものを書くと一方的にジークにお使いを押し付け、ノエルはお使いなどしているヒマはないと頬を膨らませるが、ジークはどこか諦めがあるのか小さくため息を吐くと魔法書が見つからないため、交換条件を出す。
「何だ? まだ、見つかっていなかったのか?」
「仕方ないでしょ。こんなにあるんだし、何が書いてあるかだってわからないんだから、だいたい、掃除くらいしといてよ。こんなグチャグチャじゃ、探しようだってないでしょ」
未だに魔法書を見つけていない4人の様子にアーカスは鼻で笑うと、フィーナは頬を膨らませてアーカスに突っかかる。
「……掃除に関してはフィーナは言える立場じゃないだろ」
「え、えーと、だ、大丈夫ですよ。きっと、フィーナさんもお掃除ができるようになりますよ」
先日、ルッケルでジルから掃除洗濯に関して戦力外の評価を受けているフィーナがいて良い事ではなく、ジークは眉間にしわを寄せ、ノエルは慌てて彼女のフォローを始める。
「まぁ、魔法書が多すぎて、見つけるまで時間がかかりそうなんで、アーカスさんなら、どこに何があるかわかるでしょうし、お願いします。ここで手間取ってると、出発まで時間がかかりますから、まだ、何1つとして準備も終わってないんで」
「アーカスさん、お願いします」
ギドが人質に取られている事もあり、時間がない事を再度、説明するジーク。ノエルはジークに続いて頭を下げた。
「……」
「あ、ありがとうございます」
2人の様子にアーカスは小さくため息を吐くと本棚に手を伸ばし、1冊の魔法書を手に取ると目的の魔法が乗っているページを開いてノエルに渡す。
「……ノエル、使えそうか?」
「えーと、1度、お手本が見えたら良いんですけど」
魔法書を覗き込むジークとノエル。ジークはまったく魔法書が読めないようでノエルに聞くとノエルは読む事はできるようだが、せっかくなのでアーカスにお手本を見せて欲しいと言う。
「……仕方ない」
「ありがとうございます」
アーカスはため息を吐くと魔法の詠唱を始め出し、その様子にノエルは深々と頭を下げた。