第217話
「リザードマンが領地拡大ね……これは大変な事になるな」
「人族と魔族で戦争になるわね。この辺で人族と魔族の大きな戦争って、私達が生まれる前でしょ。どんな事になるのよ?」
ゼイの口から持たされた情報はリザードマンが領地を拡大していると言う事であり、人族との戦争のために近隣の魔族の領地を占拠し、戦力を拡大させていると言う。
ジークとフィーナは事の重大さに何と言って良いのかわからないようで顔を引きつらせた。
「せ、戦争なんかダメです。どうにかしないと!?」
「ギドサマモハンタイシタ。トカゲ、ギドサマ、ツカマエタ。サカラウトギドサマ、コロス」
ギドはゼイ達の住むゴブリンの集落の代表に位置するようであり、リザードマンの領地拡大に抵抗したギドは捕えられ、ゴブリン達はギドを人質に取られた事でリザードマンの言う事を聞かざる負えなくなっている。
「……ギド、慕われてるんだな」
「ギドサマ、ヤサシイ。オレタチ、ギドサマ、タスケタイ。デモ、トカゲ、ツヨイ」
ジークの中には魔族はどこか、人質など気にせずに戦うと偏見を持っていたようでギドのために悔しい思いをしている事に感心したようで小さな声でつぶやく。
ゼイはリザードマンを追い払えなかった事が心底悔しいようでうつむいてしまう。
「ジークさん、直ぐに行きましょう!!」
「落ち着け」
「どうしてですか? ジークさんはギドさんの事が心配ないじゃいんですか?」
ノエルはギドを助けに直ぐに出発するべきだと主張するが、ジークは眉間にしわを寄せ、ノエルに落ち着くように言う。
「心配なのは心配だ。前に世話になってるし、ギドが良いヤツだって事は知ってるし、ただ……」
「ただ、何ですか?」
「ノエルはゴブリンに敵意を向けられる事はないと思うけど、俺とフィーナはきっと針のむしろだ。協力はできると思う。いや、協力したいけど、ゴブリン達が俺達を信頼してくれるかはわからないからな」
ジークもギドの事は助けたいようだが、やはり、ゼイとギドの集落のゴブリン全てが自分達を信頼してくれるかはわからないため、直ぐには頷けないようで頭をかく。
「そんな事は」
「無いとは言えないだろ。少なくとも人族と魔族の間には長い間でできた大きな溝があるんだ。人族が混じってゴブリン達がリザードマンに協力するとか言い出すかも知れないし」
「はいはい。話はそこまで、ジーク、どうせ、口でグダグダ言ったって、どうせ、行くんだから、文句を言わない。それに信頼されてないなら、信頼して貰うように努力するんでしょ。それが商売の基本だってような事を言ってたでしょ?」
最悪、ジークはゴブリンとリザードマンに挟み撃ちを喰らう可能性があると言った時、フィーナはパンパンと手を2回叩くと彼女はすでにギドを助けに行くと決めており、迷う事なくジークも行く事になると言い切った。
「……まぁ、確かにそうなるんだろうけどな」
「なら、グダグダ言わない。時間の無駄でしょ」
「……いつもの事だけど、フィーナ、お前、バカだけど、変なところで男らしいよな」
「誰が、男らしいですって!!」
「言葉のアヤだ。誉めてんだよ」
自分の性格上、文句を言ってもギドを見捨てられないジークは、背中を押してくれたフィーナの様子に小さくため息を吐くが、言葉は悪く、フィーナはジークを怒鳴りつけるがジークが気にする事はない。
「とりあえず、ギド、救出には協力するけど、別行動になると思うぞ」
「……ソレデイイ」
「それじゃあ、ジークさん、直ぐに出発しましょう!! ゼイさん、道案内をお願いします」
「……落ち着け」
ジークが頷いた事でノエルは直ぐに出発しようとゼイに詰め寄るが、ジークは彼女の首根っこをつかんで引き止める。
「どうして、止めるんですか!? ジークさんも協力してくれるって言ったじゃないですか?」
「行くのは構わないけどな。今は、俺達は手ぶら、ゼイ達の集落まで何日かかるかもわからない。移動分の食料の確保だってしないといけないし、今だって、シルドさんからのお使いの途中だしな。問題は……」
ノエルは気持ちだけが先行しており、実際は何も準備もできていないため、ジークは準備が必要だと言うと何かあるのかゼイへと視線を向けた。
「ジーク、何か問題あるの?」
「問題も何も俺達の準備だってそれなりに時間がかかるだろ。早くても明日の朝出発になるだろうし、準備ができるまでゼイにどこに隠れていて貰うかだな」
「確かに、見つかると問題になるわね」
準備の間にゼイに隠れていて貰う場所が必要であり、ジークとフィーナは眉間にしわを寄せる。
「オレ、カクレルノトクイ」
「あぁ、ここまで無事とは言わないけど着いた事は認める。でも、ここは人族の村のすぐそばだ。ゼイが冒険者に見つかって殺されたら、ギドだって助けられない」
ゼイは人族になど見つからないと胸を張るが、彼の意見は危うすぎるため、ジークは首を横に振った。
「そうですね。確かに危険ですね。どこかに安全に隠れられる場所はないですかね? ……あの遺跡はどうですか?」
「いや、出発前に遺跡の探索はしたくないから……」
「そうよね。どこかにないかしら、人間が近付かないようなところで、仮に魔族を見つけても動じないし、興味がないって言うような人しかいないところ……」
ノエルはゼイに遺跡の中に隠れていて貰う事を提案するもジークとフィーナに却下するが、直ぐに2人の視線はこの道の先に釘づけになる。
「……と言うか、今更だけど、アーカスさんなら、何も言わない気がする」
「……そうね。だけど、朝からここの罠も解除したくないわよ」
「罠の解除したくないって言ってもするのは俺だろ」
ノエルがドレイクだと気が付きながらも興味がないと切り捨てたアーカスの姿を思い出し、ジークとフィーナはアーカスなら問題はなさそうだと思うも、遺跡探索と罠解除、どちらが大変かと悩み始める。
「あの、とりあえず、アーカスさんの家に行ってみませんか? 何かおかしな魔導機器があるかも知れませんし。これと同じものが完成しているかも知れませんし」
「あー、確かにそれがあればゼイも家に泊めれるな。取りあえず、アーカスさんの家に行ってみるか?」
「そうね。取りあえず、行ってみましょう。と言う事で、ジーク、頑張って」
2人の様子にノエルは苦笑いを浮かべながら、首飾りにしていつも身に付けている青く光る魔導機器を取り出し、フィーナはアーカスの家までの道の罠を解除しろとジークの背中を押す。