第214話
「失礼する。小僧は居るか?」
「店じまいなんで出て行ってください」
「ジ、ジークさん、何を言ってるんですか!?」
ルッケルのイベントを終え、1ヵ月が過ぎ去った時、ジークの店になぜかラースが顔を出す。珍客の登場にジークは関わり合いたくないため笑顔で追い返そうとするがノエルは慌ててジークを止める。
「……まったく、礼儀がなっていない小僧だ」
「その言葉、そっくり返す。騎士だって言うなら、もう少しましな態度を取れよ」
「あ、あの。ジークさんもラースさんも落ち着いてください。ジークさん、プレートを準備中にしてきますね」
ジークとラースの視線の間には火花がバチバチとなっているが、ノエルはラースがジオスまで足を運んだ事に意味があると思ったようで2人の間に割って入ると取りあえず、2人を席につかせて店のドアにかけているプレートを準備中に変えに行く。
「それで、ラースさんはどうしたんですか?」
「あぁ、先日の件の事を報告してやろうと思ってな」
「おっさんがか? カインが転移魔法を使えばおっさんが来る必要がないだろ」
ラースがジオスを訪れたのはルッケルでの事に一先ずの決着がついたようであり、その報告のためだと言うが、ジークはカインが転移魔法でジオスに来れば済む問題のためにラースが来た意味がわからないようで眉間にしわを寄せた。
「キツネにはキツネの役割があるからな」
「……そうか。それで」
カインに何かしらの処罰があり、説明のためにジオスを訪れる事はできないと察したジークはラースに説明を求める。
「シュミット様と協力をした貴族数名は領地縮小と領地の変更」
「別にそいつらはどうでも良い」
「そうです。カインさんは大丈夫なんですか!!」
ラースの口から出たシュミットの処罰などジークとノエルにとってはどうでも良いようであり、早くカインの処罰を教えろと言う。
「キツネは……ルッケルのイベントを成功させた功績はあったものの、エルト王子とライオ王子を危険にさらした事により、エルト王子の側近の任を解かれて、辺境の地の統治をするように命を受けた」
「……それは、領主になったと言う事か?」
「そうだ。だが、かなり荒廃した土地だからな。キツネと言っても簡単にはいかないだろう。実際、多くの人間がその領地の統治の任を命じられたが、誰も成功させたものはいないからな。領地管理の失敗を持って、処罰をするつもりなんだろう」
カインには領地が与えられたようだが、その領地を管理する事はかなり難しいようであり、ラースはカインの処罰に納得がいっていない部分もあるようで眉間にしわを寄せた。
「領地管理の失敗ね……ないな」
「はい。カインさんなら、問題ないです」
「下手したら城砦都市とかになってそうだぞ」
「そうですね……もの凄い物が出来そうです」
ラースの様子など気にする事なく、ジークのノエルはカインなら上手くやると結論付けたようであり、カインがさらにおかしな力を付けるのではないかと苦笑いを浮かべる。
「お前達は事の重大さをわかっているのか? 性格に目をつぶれば国にとっては必要な人材が潰されるかも知れんのだぞ!!」
危機感のないジークとノエルの姿にラースは憤慨しているようでジークとノエルを怒鳴りつけた。
「なぁ、おっさん、実はカインの事を気に入ってるのか?」
「何を言っている。そんな事、あるわけがないだろ」
ラースの反応にジークは頭を1つの疑問がよぎったようでラースへと疑問をぶつけると彼の目はわずかに泳ぐ。
「まぁ、そうだよな。くだらない事を言った。それでカイン以外で俺達が関わった人間はどうなったんだ? レインとかあのセスって人とか?」
「うむ。レインはエルト様の指示に従ったため、処罰はなかったのだが、本人立っての希望でキツネに付いて行く事になった。コーラッド家の娘はキツネに次ぐ、魔術師としての才能を認められ、キツネが抜けた穴を埋めて貰う事になった」
ラースの様子に彼がカインの事を認めている事に気づくもジークはそれ以上、何も言わずにレインとセスがどうなったかと聞く。ラースは1つ、咳をすると2人の処遇を答える。
「レインさんが一緒なら、カインさんもあまりおかしな事はしませんね」
「……取りあえず、セスって人はエルト様に振り回されるだろうな」
セスがカインの後釜に付いた事にジークはセスの胃が心配になったようで頭をかく。
「まぁ、それに関しては同意だ。後、お前達はどうでも良いと言ったが、シュミット様が領地変更でワームを統治する事になった」
「は? 何で、両王子の襲撃を計画立てた奴がのうのうと領主をできるんだ?」
ラースはジークは興味はないと言ったが、重要な情報だと思ったようでシュミットの統治地を話すとそこはジオスとルッケルの近くにある地方都市であり、ジークの眉間にはくっきりとしたしわが寄った。
「そして、私がシュミット様の教育係として、あの腐った根性を叩き直すように命を受けた」
「……おい。それはどう言う事だ?」
ラースの性格上、シュミットの行いは許されるものではなく、徹底的にシュミットを鍛え直す事を宣言するがジークはラースの言葉にイヤな予感しかしないようである。
「エルト様とキツネ、そして、ルッケル領主であるアズ様より、何かあった時はお前達を使うようにと許可が出たのでな。それを伝えにきたんだ」
「おい。ふざける!!」
「ふざけてなどいない。これは次期国王のエルト様からの勅命である。わかったな」
「……何なんだよ。俺はただの薬屋だぞ。どうして、こんな厄介事ばかり舞い降りてくるんだよ」
ジークのイヤな予感は今回も的中しており、ジークは自分の巻き込まれ体質にかなりショックを受けているのか力なく肩を落とす。
「ジ、ジークさん、落ち込まないでください!?」
「エルト様の方針でな。使える優秀な人間を遊ばせておくのはもったいないと言うんでな。何かあった時はしっかりと報酬も出す。しっかりと働け。それでは私はシュミット様がおかしな事をしないか見張る必要があるのでな。これで失礼する」
落ち込むジークを励まそうとするノエル。そんな2人の姿にラースは小さく表情を緩ませるも、直ぐに表情を引き締めると店を出て行く。