第213話
「お前達は何をしていたんだ!!」
「まぁ、ラース、少し落ち着きなよ」
カインが襲撃事件の説明を舞台上で終えるとエルト、ライオの両王子が無事だった事もあり、騒ぎにはなるものイベントは無事に終わった。
しかし、メインイベントでカインが狙撃された事やエルトの指示でレイン達少数の若い騎士達、魔術学園の生徒達が動き回っていた事がラースに知られてしまい、カインとレインだけではなく、ジーク、ノエル、フィーナ、セスまでもがラースから怒号を受けており、エルトは自分の指示のため、ラースに説教はそこまでにしろと言う。
「落ち着けるわけがありません。だいたい、エルト様、自分から囮を買って出るとはどう言う事ですか? お2人に何かあったら、どうなさるおつもりだったのですか!!」
「いや、カインを狙ったのはまた別の人間だったみたいでだしね。他人に恨みは買いたくないものだね」
エルトが場を収めようとするがラースが収まるわけもなく、もっともな進言をエルトにするがエルトは苦笑いを浮かべている。
「……と言うか、俺達、完全に被害者なんだけど」
「まったくよ」
「で、ですけど、わたし達もカインさんとエルト様の作戦を知っててお手伝いしたわけですし」
無理やり参加させられたジークとフィーナは説教など受ける理由がないとため息を吐き、ノエルはラースに作戦を秘密にしていた事を申し訳なく思っているようでしゅんと肩を落とす。
「……私はその作戦も聞かされていませんでしたけどね」
「まぁ、一応、襲撃者達もシュミット様からの指示だと言う事を吐いたし、襲撃者から両王子を守ったと言う事で名前も売れたし、良いんじゃないかな?」
完全なとばっちりだと言いたいようでカインを睨みつけるセス。カインは彼女の視線を緩く交わすと目的は達したと笑っている。
「だいたい、キツネ。お前は何をしている。王子に危険が及ばないように策を練るのが貴様の仕事だろ。こんな目に王子を遭わせているなら、貴様がそこに立つ意味などない事がわからんか!!」
「……それに関しては何も言う事はありません。今回は私の失策であり、全ての責任は私にあります」
ラースはイベントや襲撃事件対策の責任者であるカインを怒鳴り付ける。その言葉にカインは一切反論する事なく、頭を下げる。
「……珍しい物を見たな」
「あれは偽物ね」
「あ、あの、ジークさん、フィーナさん、それは失礼じゃないかと、そ、それに今はそんな事を言っている場合じゃないと思います」
カインの様子にジークとフィーナは眉間にしわを寄せた。ノエルは自分達は冗談を言っている場合ではないと言う。
「……キツネ、今回の件でお前に何かしらの処罰がある事は理解しているな?」
「はい」
カインがあっさりと自分の非を認めたため、ラースはそれ以上何も言えなくなってしまったのか、1度、深呼吸をした後に真っ直ぐとカインへと視線を向ける。その視線から目を逸らす事なくカインは頷く。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。この男は確かに人間のクズだけど、今回は処罰されるような事はしてないでしょ。それを言うなら、真っ先に2人の襲撃を企んだシュミットって言う小者を処罰しなさいよ!!」
「黙れ。小娘!!」
「黙る必要なんてないわ!! あんたも黙ってないで何か言いなさいよ!!」
カインに処罰があると聞き、フィーナはラースに不満をぶつける。ラースはフィーナを恫喝して黙らせようとするが彼女が止まる理由はなく、カインの胸倉をつかみ、反論して見せろと叫ぶ。
「……まったく」
「カ、カインさん、何をしてるんですか!?」
「……少しは礼儀と言う物を覚えろ。お前は冒険者だろ。何度も言わせるな。オズフィム様、愚妹が失礼をして申し訳ありません」
フィーナの身体は宙を舞い、その様子にノエルは慌ててフィーナに駆け寄るが、カインはフィーナの非礼をラースに詫びる。
「……良い。エルト様、この件はしっかりと王様に報告させていただきます」
「そうだね。シュミットの件も包み隠さず、報告してくれ。流石に狙われた人間からだと主観も入ってしまうからね」
「わかっています」
ラースは騎士として王への報告をする事をエルトに伝えるとエルトは迷う事なく頷いた。
「それじゃあ、話はここまで、カインの治療もあるしね」
「キズは治癒魔法で治ってるんだろ。治療って輸血でもするのか?」
エルトはカインの出血量から、長時間の拘束は良くないと判断したようで今回の件はこれで終わりにしようと言い、ジークはカインの治療と言われても何をするのかわからないようで首を傾げる。
「いや、肉を食う」
「……それは治療なのか?」
「それも血が滴るような肉を」
「すいません。私はしっかりと焼く派なんで」
エルトは迷う事なく言い切り、ジークは突っ込んで良いのかわからないようで眉間にしわを寄せ、カインは苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、着替えだな……このままで帰ったらジルさんに怒られるか?」
「はい。カインさんの血で真っ赤ですし」
「まぁ、このまま、戻ったら、店に帰る途中で色々と問題になりそうだね」
「まったく、カイン=クローク、あなたに関わるとロクな事がありませんわ」
ラースの説教も終わったため、ジルの店に戻ろうとするもののジーク、ノエル、カイン、セスの服は血で真っ赤に染まっており、セスはカインを睨みつける。
「まぁ、着替えは用意させるよ。着替えたら、1度、ジルさんの店に帰ると良い。セスもそれで良いね」
「エルト様がそう仰るのでしたら……」
「カイン様、このカルディナがあなた様のキズを癒しますわ」
エルトがカインとセスの間に割って入った時、勢いよくドアが開き、色々な治療薬を手にしたカルディナが乱入してくる。
「いえ、コーラッドさんに治癒魔法をかけていただいたので結構です」
「少なくとも、今のカインに必要な薬はないな。増血効果がある治療薬は1つもない」
「ジークさん、カインさん、もう少し優しい言葉を」
カルディナの乱入をジークとカインはバッサリと切り捨て、2人の様子にノエルは苦笑いを浮かべた。