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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
お家騒動?
212/953

第212話

「……お前か?」


「……魔法で姿を消していたはずなんだがな。それなのに認識するとはこれがさいのうか?」


黒衣のフードの人物は観客席と会場の入り口を繋ぐ廊下へと移動しており、ジークはカインが狙撃されて倒れた事に浮足立っている会場の観客の声を背後に男性へと魔導銃を構えた。

背後から聞こえるジークの声に返ってきた声は落ち着いた感じの男性の声であり、まるでカインの命になど興味もないようにも見える。


「大人しくつかまれ。あいつを狙った理由、雇い主、全てを吐いて貰うぞ」


「……」


「……ちっ」


捕縛のためにジークは冷気の力を宿した魔導銃の引鉄を引き、男性の動きを封じようとするが男性は何かの魔法の恩恵を得ているのか、冷気は男性に届く前に霧散してしまう。

魔導銃の銃口からは何度も冷気が放たれるが男性まで冷気が届く事はなく、ジークはその様子に舌打ちをする。


「まぁ、俺の事を認識できた事に敬意を表して教えてやろう」


「……ドレイク?」


男性は振り返り、ジークと向き合うと被っていたフードを外す。フードの下からは『赤い髪』の隙間から『2本の角』が見え、その瞳の片方は『金色こんじき』に輝いている。

その姿からジークは男性がノエルと同じドレイクだと理解するが瞳の色が片方だけ金色だと言う事に疑問を抱いたようでその視線には疑問が残っている。


「俺があの男を狙ったのは目障りだからだ。ただ、それだけだ」


「目障りだから?」


「あぁ。くだらない理想を持った人間ほど目障りなものだ。そして、その理想を実現させれるかどうかを考えた時、王子より、あの男の方が邪魔だった」


ドレイクの男性は楽しそうに口元を緩ませる。だが、対照的にジークの表情には怒りの色が濃く現れて行く。


「まぁ、お前の声で身体をわずかに動かしたせいで一命は取り留めたのが残念な所だ。ここで死んでいれば理想が砕け散る時に立ち会わなくて済んだのにな……」


「悪いね。砕け散る時に立ち会う覚悟もないなら、理想なんか追いかけない」


「ド、ドレイクが、こんなところにまで?」


ジークの表情の変化に彼をあざ笑うドレイクの男性。その時、彼の背後から近づいたカインの使い魔が男性に向かい炎を放つが炎はジークの冷気と同様に霧散してしまう。

それに遅れてセスに支えられたカインが現れ、死にかけた事など気にも留めていないのか口元には不敵な笑みを浮かべている。


「ほう。死の淵に立ってまで笑うか? やはり、この場所で息の根を止めておくべきか?」


「それは、美少女に支えて貰ってるから、柔らかい物が当たっているからね。男としてはだらしなく顔を緩ませるところだろ?」


「……カイン、お前は時と場合と言う物を考えてくれ」


カインの表情にドレイクの男性は面白くないようで眉間にしわを寄せる。カインは真面目な空気など気にする事なく、冗談めかして笑い、カインのいつもの空気に完全に毒気が抜かれたようでため息を吐くジーク。そんな彼の表情からは怒りの色は薄くなっているようにも見える。


「まったく、人が心配していれば」


「せっかくの感触だったのに残念だ……で、どうする? ここで始める?」


カインの言葉で腹を立てたセスはカインから身体を放し、カインは悪ふざけをしていたものの、しっかりと次の手は講じていたようでドレイクの男性の足元には魔法陣が浮かび上がった。


「……いや、今日は顔合わせにしておこう。お前の理想が砕け散る瞬間に立ち会いたくなったんでな」


ドレイクの男性はカインの言葉に小さく首を横に振ると転移魔法を発動させたようで、彼の姿は光の球に変わって飛び去ってしまう。


「……助かった」


「……カイン=クローク、あなた、勝機も何もないくせに張ったりをかけましたわね?」


「いや、あそこは強気に攻めないといけないでしょ。正直、勝てる気は全くしなかったね。今だと血が足りてないから、1番、最初に殺されてただろうし」


光の球が飛び去った事でカインは安心したのか腰を下ろす。セスは呆れたような表情をするとカインは苦笑いを浮かべた。


「……その状態で相手を挑発するな」


「まぁ、俺にも色々とあるんだよ」


「……あの、挑発はそう言う事ですか」


呆れ顔でため息を吐くジーク。カインはそんな彼の様子にくすりと笑うとセスはカインの行動に意味があった事を感じ取ったようで小さくため息を吐いた。


「それより、戻るよ……説明、面倒くさい」


「まぁ、それは任せる。そう言うのは俺には関係ないし、俺だと説得力も何もないからな」


イベントの途中だったため、舞台に戻らないといけないが状況説明など厄介な仕事が残っているカインはため息を吐く。そんな彼が立ち上がるのを手伝うためにジークは手を差し出す。


「ジークより、美少女のコーラッドさんに支えて貰いたい」


「……お前は良くこんな時に冗談ばかり言っていられるよな」


カインはジークの手を取り立ち上がるが、口からは余計な事しか出てこず、ジークはため息を吐くものの手を放す事はなく、彼の身体を支えて歩き出す。


「カイン、そう言えば、ノエルはどうしたんだ?」


「あー、ノエルは観客席に上がるのに舞台からだと段差があるだろ? ……そこを登れなくて置いてきた」


「……本当にノエルの運動神経は大丈夫なのか?」


舞台に戻る途中で、ノエルがいない事に気が付いたジークはその疑問をカインにぶつける。カインはノエルの姿があまりに衝撃的だったようで視線を逸らし、ジークは色々と鈍いノエルが心配になったきたようで大きく肩を落とした。


「何を言っているんですか? あれが可愛いのではないですか!!」


「……カイン、この人、本当に大丈夫なのか?」


「まぁ、優秀ではあるし、大丈夫じゃないかな?」


ノエルが観客席に登れなかった姿を思い出し、興奮したようで拳を握り締めるセス。彼女の姿にジークは眉間にしわを寄せるとカインは苦笑いを浮かべる。


「後、コーラッドさん、それに関しては誰よりもジークが知ってるから」


「お、お前は何を言ってるんだ!?」


「すでに誤魔化す必要性もないと思うんだけどね」


「……こんな男がどうして、あの美少女に好意を持たれているのですか?」


セスの意見に誰よりも賛同しているのはジークだと言うカイン。ジークはその言葉に慌てるもすでに誤魔化すだけ無駄であり、セスからはジークに向かって嫉妬の視線が向けられている。


「……早く戻ろう」


「そうだね」


セスからの突き刺さる視線に居心地が悪くなったジークは歩く速度を上げ、セスを置いて行く。


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