第208話
「ダメです。きっと……」
「……肉片くらい残れば良いな」
ノエルはぶんぶんと首を横に振り、ジークは上空の弓使いへと手を合わせる。
「ジーク、ノエルの魔法はそんなに凄いのかい?」
「あー、失敗した魔法で巨大ミミズの肉片が跡形もなくなくなった」
「肉片もなくなったのか……」
ノエルの様子にただ事ではないと察したエルトはジークにノエルの攻撃魔法の威力を聞く。その言葉に視線を逸らすジーク。彼の口から出た言葉は逃げ道のない弓使いには死刑宣告でしかない。
「大丈夫。魔力は1割程度しか溜めてないだろ?」
「えーと、ですね……とても言い難いんですけど、魔力をため時間を間違えまして、実は少し多めに溜まっていたりします」
カインはあまり魔力を溜めないように指示を出していた事もあり、心配しないで魔法を放つように言うがノエルはカインから視線を逸らす。
彼女の様子から少しとは言っているものの、実際はかなりの魔力が溜まっている事が予想でき、ノエルの魔法の威力を知っているジークはどうしたら良い物かと眉間にしわを寄せた。
「……エルト王子、事故で決着はつくか?」
「きっと、カインがどうにかしてくれるよ」
大会中の事故と言う事で済ませようとするジーク。エルトは今回のルッケル復興イベントの責任者であるカインに任せると無責任な事を言う。
「肉片も残らないし、お空の彼方に消えたって事で良いんじゃないかな?」
「待ってください!? 大問題です!!」
カインはノエルの攻撃魔法を放つわけにはいかなくなったため、弓使いの恐怖をあおって降参させる事を狙っているようで楽しそうに笑う。その言葉に弓使いとノエルの顔は真っ青になって行く。
「予想以上にノエルにダメージが」
「まぁ、そう言う娘なんで、それで、とりあえず、あの弓使いも氷漬けにするか? 動けなくしておけば良いだろ」
ノエルの反応に苦笑いを浮かべるカイン。ジークはその様子に小さくため息を吐くとライオ以外の敵の動きは止めても良い事を思い出したようで魔導銃を構える。
「そして、地面に落下して粉々に」
「いや、そこまでの威力はないから……ちっ、ぶつかっちまったか」
弓使いの恐怖をあおろうと植物の根を緩めたり、さらに上空にあげてみたりと遊び始めるカイン。ジークは植物の根の隙間から魔導銃でセスを狙うが魔導銃から放たれた青い光は植物の根に当たり、根の1部を凍りつかせる。
「ジーク、そっちはカインに任せて、まずはこっちの方を手伝ってくれるかい? 2刀流はどうもなれなくてね」
「いや、フィーナの剣だけを使えよ」
「フィーナの剣は軽くて攻撃に力がのらないんだよね」
「あぁ。ノエル、エルト王子に力をあげる支援魔法」
なれないフィーナの剣では実力が発揮できないようでジークに援護を求めるエルト。その様子にジークはノエルの溜まった魔力を使ってしまうように言う。
「そ、そうですね。エルト様、行きますよ」
「あぁ。頼むよ」
ノエルは溜めてある魔力の使い道を見つけて大きく頷くと魔力をいつまでも溜めているのが怖いようで直ぐに支援魔法に移る。
「そうなると……相手したくないな」
「そう言わないで、ジークに任せるよ」
「エルト王子、そっちも相手をしたくないだけだろ」
ジークはエルトの近くにいると支援魔法の効果範囲に入ってしまうため、エルトの脇を走り抜け、セスに向かって行く。
「降参してくれると助かるんだけど」
「降参? そんな事をするわけがありません。私に敗北と言う文字はありません」
セスにはあまりかかわり合いたくないジークは降参を促すが、セスは杖の先端を向けてジークへとの対決の意志を見せる。
「……カインに思いっきり負けてるだろ」
「その言葉を口にしたら首をかっ切りますわ」
「りょ、了解」
セスの敵意をひょうひょうと交わしているカインの姿を見ているせいか、ジークはセスではカインの相手ではないと言う。その言葉にジークが今まで感じた事のないほどの殺気込められた声でセスはジークを威圧する。
「それじゃあ、始めさせて貰う」
「かまいませんが、女性に手をあげるつもりですか?」
早期決着を考えるジークはセスに向かって駆け出そうとするが、セスはジークのノエルやフィーナへの対応に彼が女性に甘いところがある事を見切っているようで口元を緩ませ、ジークはその言葉に躊躇してしまったようで動きは鈍い。
「避けるなんて、卑怯です!!」
「卑怯って……と言うか、この人こそ、氷漬けにすれば良いんだよな……何!?」
「甘いですわ。ジーク=フィリス、そのような魔法攻撃を何度も見せれば、私のような優秀な魔法使いなら対策くらいできますわ」
セスは攻撃魔法は使えないのか杖を振りまわし、ジークを殴り付けようとするが、直接攻撃になれていないようでその攻撃ではジークに1撃も与える事はできない。攻撃を交わしながらジークは魔導銃を構えて冷気の弾を撃ち出すがセスを凍りつかせる事は出来ず、セスは高笑いをあげる。
「ジーク、今更だけど、コーラッドさんは支援魔法の防御系に特化してるよ。後はさっきの人の道から外れた魔法」
「誰が、人の道から外れているですか!! あなたにだけは言われたくありませんわ!!」
「……それに関しては話が合う気がする」
後方からカインがセスの得意魔法を説明するが、彼女を小バカにしており、セスの怒りはカインへと向けられ、ジークは少しだけセスが不憫に思えたきたようで眉間にしわを寄せた。
「まぁ、人の道から外れてるつもりはないけどね。ただ……やる事だけはやらせて貰ってるよ」
「セスさんって言ったか、気を付けてくれ」
「何を言っているんですか!? へ? ど、どう言う事ですか?」
怒りをあらわにするセスの表情に楽しそうに口元を緩ませるカイン。ジークは彼の表情に寒気がしたようで慌ててセスから距離を取るとジークが離れたと同時にセスの足元には魔法陣が浮かび上がり、セスは力が抜けて行ったのかその場に座り込んでしまう。
「何があったんだ?」
「……忘れていましたわ」
「悪いね。こっちの魔法が本業なんでね」
何が起こったかわからないジークだが、セスは自分に何が起きたか理解したようでカインを睨み返すがカインはくすりと笑う。