第207話
「相変わらず、性格、悪いな」
「タイミングを狙ってたジークに言われたくないだろうね」
「ま、参った」
カインとセスのやり取りにジークはため息を吐くも、魔導銃の銃口はエルトと対峙していた相手の剣に向けられており、ジークは引鉄を引く。
魔導銃から放たれた光は剣を弾き飛ばし、その瞬間を狙ったかのようにエルトの剣の切っ先は相手の喉元へと向けられる。
「これで人数は五分かな?」
「あの、フィーナさんの扱いはどうなってるんですか?」
「え? 魔導人形と同列?」
「それはちょっと酷いと思いますけど」
ライオチームの前衛の1人が降参した事で、人数的には五分になったと笑うカイン。彼にとってフィーナ人権などないに等しく、ノエルは顔を引きつらせる。
「それでフィーナが止まったけど、操作権はどっちが持ってるんだ?」
「現状だと集中力を乱してくれたから半々くらい?」
「くっ」
セスがカインの使い魔に炎を喰らった後のフィーナは壊れた玩具のように動きが鈍くなっており、ジークはどちらがフィーナを動かしているかと聞くとカインとセスでフィーナの操作権を取り合っているようだが、カインの方が優勢に見える。
「心理戦でカインに勝てるわけないよね」
「性格の悪さであいつに勝てる人間はいないよ」
エルトは現状、ライオの魔法を警戒しながらでも2対2の大戦になった事で動きやすくなったようで苦笑いを浮かべた。ジークはエルトの後方に下がると魔導銃でライオと弓使いを牽制している。
「なんだかんだ言いながらもジークも性格は良くないよね? ラースとの戦い方と今の戦い方を見て思ったよ」
「……俺の周りには自分勝手な人間が多くてな。ひねくれちまったんだよ」
ライオはカインの影には隠れているものの、ジークの人を食ったような戦い方に視線を鋭くするとジークは巻き込まれ体質のせいか、周囲のせいだと皮肉を言う。
「ノエル、ジークがあんな事を言ってるよ」
「わ、わたし、そんなにわがままを言ってますか!?」
「ノエルは良いんだよ。好きな娘のわがままを聞くのは男の甲斐性だから」
「緊張感がないね」
その皮肉でカインはまたもノエルをからかい、ノエルは声をあげるとエルトが彼女をフォローし、この緊張感のない戦いをどうにかできないものかとライオは眉間にしわを寄せた。
「と言うか、カイン、エルト王子もいい加減にしろよ」
「そ、そうです。真面目に戦いましょうよ」
ライオの様子にジークはそろそろ真剣にやらなければ、この対戦も組んだ意味がなくなると思ったようで2人に声をかけるとノエルは大きく頷く。
「それもそうだ……それなら、真剣にやらせて貰おうかな」
「お、おい。真剣にやるって言うなら、フィーナの操作権を取らせるな!?」
「いや、ちょっと、フィーナの操作をしてるヒマがないから、ジークに任せるよ。それにさっきも言ったけど、その魔法だけはコーラッドさんに勝てる気はしませんから」
カインは真剣な表情をするが、フィーナの操作権は完全にセスに移ったようで再度、フィーナはジークに向かって剣を振り下ろす。
その行動にジークは当然、声をあげるがカインは真剣な表情をしている割には反応は酷く軽い上にセスをおちょくっているようにも見える。
「ムカつきますわ。カイン=クローク。それでは私がこの魔法以外、全てあなたに負けていると言う風に聞こえるではないですか!!」
「……エルト様、セスさんってカインさんの事が好きなんじゃないでしょうか?」
「実は魔法学園では噂に上がった事もあるら良いんだけど、カインとセスを見てると何とも言えないね」
魔法学園の成績にコンプレックスがあるのかカインへと怒りの声をあげるセス。ノエルは女の勘なのかセスはカインが好きなのではないかと言い、エルトは難しいところだと苦笑いを浮かべた。
「ちくしょう。フィーナの剣がうざい。カインに気が殺がれてるせいか、動きは単調になってるけど……」
「ジーク=フィリス。そこをどきなさい。私はあなたより先にあの男を血祭りにあげると決めましたわ!!」
セスの怒りは頂点に達しているようであり、フィーナを使ってカインへの攻撃に切り替えたようだが、流石にフィーナをノエルとカインの元に行かせるわけにもいかないため、ジークは魔導銃の銃身でフィーナの攻撃を弾く。
魔導銃で冷気を放ち、フィーナから剣を奪い動きを止めようとも考えるがフィーナの剣は冷気を無効化するため、彼女を止めてしまうとライオの魔法の餌食になってしまう事もあり、行動に移す事はできない。
「ジーク、フィーナの剣を取れ」
「へ? そ、そうだな」
その時、カインからジークにフィーナの剣を奪うように指示が出る。ジークはその言葉に一瞬、何を言ってるのかと思うが直ぐにカインの考えを理解したようで魔導銃でフィーナの剣を弾く。
「ジークさん、何をしてるんですか!?」
「これで良いんだよ。エルト王子」
「あぁ」
剣を弾くと直ぐにジークは魔導銃から冷気を放ちフィーナの動きを止めた。ノエルはジークの行動に驚きの声をあげるがジークは直ぐに弾かれたフィーナの剣を拾い上げ、エルトに向かって投げるとエルトはフィーナの剣をキャッチする。
「ジーク=フィリス、美少女を氷漬けにするなんて、飛んだ変態ですわね」
「……本当にごめんなさい。一緒にしないでください」
セスは氷漬けになり動きを止めたフィーナを見て、口元から出たよだれを手でぬぐい。彼女の姿にジークは本気で関わり合いたくないようで敬語で謝った。
「……取りあえず、もう1人に退場して貰おうかな?」
その時、カインの魔法が発動したようで植物の根が舞台を突き破り、その根が弓使いをからめ取ると舞台上空まで弓使いを持ち上げる。
「悪いけど、こっちが本職なんだよ。ノエル、魔法」
「へ? 無理です。わたしの魔法は人に向けて放つのは危ないです!!」
「弓使いは狙わなくて良い。植物の根を斬り裂けって事だよ。大丈夫。魔法で地面には打ち付けられないようにするから」
カインは動けなくなった弓使いに向かいノエルに魔法を放つように言うが、ノエルは巨大ミミズを肉片にした記憶が思い浮かんだようであり、大きく首を横に振った。
その様子にカインは苦笑いを浮かべるともう1度、ノエルに魔法を放つように言う。