第204話
「カインとの関係を考えるとこうなる事も考えられたね」
「半強制だったけどな」
「……半じゃないわよ。強制よ」
対戦時間になり、ジーク達は舞台まで移動するとすでにライオのチームは待ち構えており、ライオはジーク達の姿を見て苦笑いを浮かべた。その言葉にフィーナは無理やり、参加させられた事を思い出したようで怒りがこみ上げてきたのかカインを睨みつける。
「フィーナさん、落ち着きましょう」
「とりあえず、始めないか? このままだと、フィーナがカインに襲いかかって返討ちに遭うから、わざわざ、戦力を減らす必要もないだろ」
フィーナを落ち着かせようとするノエル。その姿にジークはフィーナの暴走で対戦が始まる前に彼女が退場してしまう様子が目に浮かんだようで、エルトに開始時間を早めるように言う。
「いや、流石にそれはないんじゃないかな? ……ないよね?」
「……自信がない」
苦笑いを浮かべながら、フィーナへと視線を向けるエルト。視線の先のフィーナの顔は頭に血が昇り始めているのか真っ赤に染まり始めており、エルトの眉間にはくっきりとしたしわが寄る。
「まったく」
「おい。カイン、何をするつもりだ?」
「カ、カインさんも落ち着いて下さい」
目的を忘れ始めているフィーナの様子にカインは小さく肩を落とすと彼女との距離を縮めて行き、その様子にジークとノエルはイヤな予感しかしないようでカインに落ち着くように言う。
「ジークもノエルも何を言ってるんだい? 俺は落ち着いてるよ」
「待った!? どうして、杖を振り上げる?」
「決まってるだろ。これをこう?」
カインは笑顔で持っていた杖を振り上げると、そのまま、フィーナの頭へと振り下ろした。
「フィ、フィーナさん、大丈夫ですか?」
「……カイン、君は何をしたいんだい?」
カインの攻撃は打ち所が良かったようで、フィーナは白目をむいて膝から崩れ落ち、慌ててノエルはフィーナを支える。流石に何が起きたかわからないようでエルトはエルトの眉間のしわはさらに深くなって行く。
「いや、こうなったら、邪魔かと思って」
「……だからと言ってわざわざ、数的不利を作り出すな」
迷いなどないようで笑顔でフィーナを足手まといだと言い切り、不利な状況になった事にジークはため息を吐くとライオチームへと視線を向ける。
「仲間割れ?」
「……兄妹間のしつけらしい」
ライオは目の前で起きている状況に彼の頭はついて行けないようで顔を引きつらせるとジークは大きく肩を落とした。
「それではエルト様、ライオ様、時間ですし、始めましょう」
「は、始めるって、フィーナさんをこのままにして良いんですか?」
「良いよ。邪魔だし」
舞台上や観客席が状況について行けずに唖然としているなか、カインは気にする事なく対戦時間だと言う。ノエルは1人早く、正気を取り戻したようで気を失ったままのフィーナをそのままにできないとカインに声をかけるが、カインはフィーナを舞台上に転がせておけと笑う。
「ジークさん」
「あー、言っても無駄だし、フィーナが目を覚ますまで待つ時間もないし、良いんじゃないか? 正直、早く終わらせて解放されたい」
ジークに援護を頼むような視線を向けるノエル。しかし、ジークは襲撃の件もあるため速く舞台上から撤退したいようで、腰のホルダから魔導銃を引き抜く。
「ジーク、わかってると思うけど」
「言われなくても、わかってる」
ジークが魔導銃を構える様子にカインは何かあるのか、彼の名前を呼ぶとカインの言いたい事を理解しているのか、ジークは小さく頷いた。
「そ、それでは、ルッケル復興イベント、エルト王子チーム対ライオ王子チームの対戦を始めます」
進行役は状況について行けないようだが、フィーナが目覚めるまで待つ時間もないため、開始の宣言をする。
「ジークの魔導銃に気を付けるんだ。あの魔導銃は動きを封じる魔力が込められている。今は、数的にも有利だ。一気にたたみかけろ」
「まぁ、そうくるよな」
「ジ、ジークさん、どうしたら、良いんですか!?」
開始の合図にライオはすでに立てていたであろう作戦はすでにフィーナの退場で崩れ落ちているものの、直ぐにチームに指示を出し、その無難な指示にジークは小さく口元を緩ませるがノエルはフィーナが心配のようで慌ててジークに指示を求めた。
「そこはほら、カインの仕事? 俺は前を抑えるのが忙しい」
「ノエル、支援魔法は任せるよ」
ライオのチーム編成は剣を装備した前衛が2人、弓使いが1人、後衛にエルトと魔導師風の男が1人であり、ライオの指示で前衛2人はエルトチームに向かって駆け出してくる。フィーナが何もせずに退場したため、エルト1人では2人の相手もできないため、ジークはエルトと並び、前に駆け出す。
「カインさん、わ、わたしはどうしたら良いんですか?」
「とりあえず、支援魔法で良いんじゃない? いつもジークと一緒に動く時はどうしてる?」
「そ、そうですね」
完全に流れについて行けていないノエルはカインに指示を求めるが、カインは緩く答え、ノエルは慌てて頷くと杖を構えて魔法の詠唱に移る。
「それじゃあ、俺は俺の役目を全うしましょうか?」
「……なんか、背後から、邪悪な気配を感じる。エルト王子、カインの攻撃に気を付けた方が良いかも知れない」
ノエルが支援魔法に移った事に口元を緩ませるカイン。その気配を察したようで、ジークはエルトに後方からの攻撃に注意をするように言う。
「いや、いや、それはないって」
「……あいつの事だ。敵味方全部を巻き込んだ。攻撃魔法もあり得る」
「それは流石にないと思うけど、性格の悪い攻撃はするだろうね」
「それに関しては間違いない」
エルトはジークの言葉は杞憂だと笑うもカインがろくでもない事を考えている事は信じており、ジークと意見は合致している。
「す、凄い信頼感ですね」
「それを信頼と言って良いかは微妙だけどね。でも、その信頼には応える義務はあるよね」
その時、ノエルの支援魔法が発動したようでジークとエルトの身体を淡い光が包み込み。魔法の発動を終えたノエルはジークとエルトの言葉に苦笑いを浮かべた。カインはその言葉に気分を悪くする事なく笑うが、その笑顔はどこか禍々しい。
「あ、あの。そう言うなら、もう少し笑い方を」
「ノエル、攻撃魔法の準備。使うかは別として、魔力を待機させておいてくれ」
ノエルはカインの笑顔にどこか寒気を感じたようで顔を引きつらせが、カインは気にする事なく、ノエルに指示を出す。