第200話
「……フィーナはあり得ると思ったけど、ジークまでか」
「私もジークまで忘れているとは思わなかったよ」
朝食を終えて、エルトチーム対ライオチームの準備のために会場へと移動するとエルトからジークとフィーナがシュミットの事をすっかり忘れていたと聞いたカインは呆れたようで大きく肩を落とした。
「ちょっと、私はあり得るってどう言う事よ!!」
「……悪い。まったく記憶にないんだ」
カインの反応に逆切れをするフィーナ。ジークは若干、申し訳なくなったようでカインから視線を逸らす。
「まぁ、仕事を押し付け過ぎたし、仕方ないか」
「そう言ってくれると助かる」
「良いか? シュミットは現国王の王弟であるラング様の息子で第5位の王位継承権を持っている」
カインからしつけと言う名の体罰も若干、視野に入れていたようでカインの反応にジークは胸をなで下ろす。カインは簡単にシュミットの事を説明する。
「おお。そうだった。そうだった。それでエルト王子、ライオ王子を暗殺して、親父に王位を継がせて次の王になるって考えてた小者だ」
「あ、あの。ジークさん、もう少し言葉を選んでください」
カインの説明でシュミットがラングの息子だと思いだすもジークのシュミットへの評価は変わらない。ノエルはどう対応して良いのかわからないようで苦笑いを浮かべている。
「まぁ、小者として認識しているのは別にかまわない」
「……カインさん、お願いですから、あなたも言葉を選んでください。いくら、気心の知れたメンバーだとしてもどこに他人の目があるかわかりませんから」
「いや、こんな見え見えの罠に引っ掛かるのは充分な小者だ」
シュミットが小者だときっぱりと言うカイン。レインはその様子に大きく肩を落とすがカインが言葉を直す事はない。
「で、実際、どうするんだ? 襲撃者の確保は任せて良いんだよな?」
「あぁ。そっちはレインに任せてあるから、私達はライオとの勝負に集中して良いよ」
「はい。会場を建設する段階ですでに狙撃しやすい場所をわざとらしく作っています……それもシュミット様の手の者と思われる人間が何度も姿を見せています」
改めて、対戦の時の自分達の役割を確認するも、シュミットは短慮のようであり、カインの手のひらの上で踊っており、レインは眉間にしわを寄せている。
「自分が策士だと勘違いしている人間って言うのは滑稽だね」
「……正直、こんなに簡単な罠に引っ掛かるなら、重要なポストにも就かせられないよな?」
「そうだね。正直、思いとどまってくれれば良いんだけど、これで実行してくるようなら、叔父上に養子縁組を考えて貰う事も提案しざる負えない。叔父上に後継ぎがいないで現領地を没収するわけにもいかないからね」
シュミットの迂闊さに楽しそうに笑顔を見せるカイン。ジークは王位継承権も持っている人間が無能な事に心底心配しているようであり、エルトもシュミットの事をどうするか困っているようで眉間にしわを寄せた。
「断絶できれば楽なんだけど、ラング様の功績があるからね。そう言うわけにもいかないんだよね。まぁ、今回の襲撃犯とシュミットの繋がりがはっきりすればそれなりに大人しくする方法はいくらでもあるから」
「……まぁ、その辺に関しては俺は聞かない事にする。正直、言われてもわからないしな」
「そうですね」
楽しそうにシュミットを追い詰める事を考えているカイン。その姿に背中に冷たい物が伝ったようでジークとノエルはこれ以上は聞きたくないと言う。
「まぁ、ジークとフィーナの役目は不測の事態が起きた時のエルト様とライオ様の身を守る事。襲撃でもっとも確率が高いのは銃での狙撃。これは殺傷力が高いから、防ぐのは必須」
「それは私達の方で事前に押さえます」
「上空から使い魔を使って他にも怪しい動きをしている人間は押さえるから、特に心配はないと思う」
襲撃で1番危険なものへの対策はすでに行われており、かなり多くの人間が投入されている。
「その中に裏切り者っていないのよね?」
「……ジーク、どうする? フィーナがまともな事を聞いたぞ」
「……エルト王子、何が起きるかわからないから、対決は中止にしないか? ルッケル鉱山が爆発するかも知れないぞ」
カインの協力者の中の人間は信用出来るかと聞くフィーナ。彼女が珍しくまともな事を言ったため、ジークとカインは不吉な事が起きる前触れだと言う。
「あ、あの。それは言い過ぎじゃないでしょうか?」
「……私はキレても良いのよね?」
完全にバカにされているため、フィーナは額に青筋を浮かべて剣を握る。
「まぁ、フィーナも落ち着きなよ。カイン、時間もないし、説明を続けてくれ」
「はい。現状で言えば、裏切り者の有無はわからない」
「あの。それって良いんですか? 危なくありませんか?」
あまり遊んでいる時間もないようでエルトはカインに説明を続けるように指示を出す。カインは隠す事なく裏切り者がいる可能性が否定せず、ノエルは心配そうな表情をする。
「まぁ、そこはあまり重要視されてないね。こう言う警護は各人の思惑が混じってくるからね。裏切り者がいないと思うより、居て当たり前と思った方が良い」
「居て当たり前ですか?」
「……そこで私を見られるとあまり良い気分ではないんですが」
どこかで割り切っているのかエルトは裏切り者が居て当たり前だと言い切る。ノエルはその言葉に首を傾げた時、運悪くレインと目が合ってしまい、レインはノエルに疑われたと思ったようで表情をしかめた。
「す、すいません!? レインさんが裏切っていると思っているわけではありません!?」
「レインもノエルをいじめない。ノエル、私は狙撃場所へ向かう騎士は誰1人として疑っていない。それだけ、信用出来る人間を向かわせているからね。もちろん、ジーク、ノエル、フィーナの3人もね」
レインの表情にノエルは慌てて頭を下げ、彼女の様子にエルトは苦笑いを浮かべた後に迷う事なく言い切る。
「そこまで信用される理由がわからないんだけどな」
「そうね」
エルトの迷いない瞳にジークとフィーナはどう反応して良いのかわからないようであり、戸惑ったような表情をする。
「簡単に言うとバカが付くくらいのお人好しだからだね」
「……確かにそうですね」
カインはエルトが3人を信じると言った理由を『お人好し』だと言い切り、レインはこの1週間で見てきた3人の様子で3人の人となりを理解しているため、大きく頷いた。