第199話
「気にするな。俺も気にしないから」
「その方が身のためだね。聞くと酷く疲れるから」
フィーナから視線を逸らすジーク。エルトもあまりラースの過去の話には触れたくないようで苦笑いを浮かべた。
「いったい、何なのよ?」
「フィーナも気にするんじゃないよ。それじゃあ、あたしはちょっと、追加分を持ってくるよ」
「お願いします」
納得がいかないフィーナの様子にジルは苦笑いを浮かべて、彼女をいさめるとエルトとレインの分の朝食を取りに奥に戻って行く。
「しかし、朝食を一緒にって言うのは良いとしても。ここは粗雑な冒険者や庶民が食うものしかないんだぞ。王子や騎士が食いに来るようなもんじゃないだろ。と言うか、それなら、アズさんの屋敷に呼んでくれよ」
「アズ様のお屋敷に招待も考えました。アズ様も先日の誘拐犯逮捕のお礼もありますから、賛成してくれたんですが……」
ジークは運ばれてきた朝食を口に運び始めるとエルトとレインに少し皮肉を込めて言う。レインはその言葉に苦笑いを浮かべると3人をアズの屋敷に招待する事を考えた事を告げるが何かあったのか言葉を濁す。
「レインさん、どうかしたんですか?」
「い、いえ、何と言って良いのか……」
「まぁ、簡単に言うと、庶民と同じテーブルになどつけるかとシュミットが言い始めてね。カルディナの事で迷惑をかけた事もあるから、ラースが珍しく納得してくれたんだけどね」
レインの様子に首を傾げるノエル。レインは言って良い物か悩んでいるようで眉間にしわを寄せた時、隠す必要などないと思っているのかエルトは正直にシュミットが反対したと告げる。
「シュミット? ……誰だ? ノエル、フィーナ、知ってるか?」
「……シュミット? そんな名前の人間に知り合いがいたかしら、全然、記憶にないけど」
「あの。ジークさん、フィーナさん、それは酷いんじゃないでしょうか?」
しかし、ジークとフィーナはこの1週間が多忙だったため、不必要な情報は切り捨てたようでシュミットの名前に眉間にしわを寄せた。ノエルは2人の様子に苦笑いを浮かべる。
「ノエル、シュミットってヤツを知ってるのか?」
「あの……エルト様、ここで話しても良いんですか?」
「うーん。流石に本当に頭の隅からすっかりとなくなっているとは思わなかったね」
ノエルはシュミットがエルトとライオの命を狙っている事を冒険者の店で話して良い物かと思っており、エルトは2人の反応は予想外だったようで少し困ったように笑う。
「……そんなに重要な人物だったか?」
「思い出そうとして見たけど、全然、記憶にないわ」
エルトの反応にシュミットが重要な人物だとは気が付いたようだが、何者かは思い出せないようで首をひねった。
「まぁ、今日のライオとの勝負で重要なカギを握る人物ってとこだよ。後で説明する」
「重要な人物ね? ……その割には名前だけだけど小者臭がするんだ」
「そうね。何となくだけど小者っぽいわね。取りあえず、小者相手ならどうにでもなるわ」
流石に冒険者が多いこの場所で話すわけにもいかないため、シュミットの事は改めて説明すると言うエルト。ジークとフィーナはシュミットを小者と判断すると朝食を再開する。
「……それで良いんでしょうか?」
「……いえ、問題大有りです」
「まぁ、仕方ないよね。忙しかったし」
「そう思うなら、もう少し、カインと一緒に仕事をできる人間を見つけてあげなよ」
ノエルとレインはその認識はあんまりだと言いたげに肩を落とす。ルッケルのイベントでカインの補佐をして貰っていた事もあるのでエルトは2人を責められないと苦笑いを浮かべた時、ジルが2人分の朝食を運んでくる。
「そうだね。カインを補佐できる人間は必要だとは思うんだけどね。私が言うのもなんだけど……カインは優秀すぎるんだよね。カインが考えた物を直ぐに理解して動けるような人間って言うのは貴重なんだよ」
「あの性格破綻者が優秀ね……世も末ね」
カインを徴用しているエルトは必要ではあるが、なかなか優秀な人間はいないとため息を吐くエルト。しかし、フィーナは信じられないようで眉間にしわを寄せた。
「カインを補佐できる人間が居れば良いんだけど……」
「何だよ?」
「ジーク、王都に来る気ない? 必要なら、薬屋も調合室も用意するけど」
エルトの視線はジークに向けられ、その視線にジークは嫌な予感がしたようで顔をしかめる。エルトはジークの表情に怯む事なく真っ直ぐと彼を見つめるとジークを王都に誘う。
「……突然、何を言い出すんだ?」
「そ、そうです」
「前にも言った事がなかったかな? 優秀な人間は手元に置いておきたいんだよ。私はジークの能力の高さを買っているからね」
エルトの誘いにジークは眉間にしわを寄せ、ノエルは慌てるがエルトは冗談で言っているようには見えない。
「まぁ、言われたような気もするけどな」
「どうだい? ジークが知らない薬学の知識も調べられるよ」
「それはそうなんだろうけど……」
「ジークさんは王都には行きません!!」
薬剤師の腕を上げるためにも、王都に来るべきだと言うエルト。その言葉にジークが悩んでいるように見えたのか、ノエルが突然、声をあげる。
「ノ、ノエル、どうしたのよ?」
「ジークさんは王都には行きません。ジークさんは」
ノエルの様子に何があったかわからない様子のフィーナ。ノエルはジークがジオスに残る理由を聞いたためか彼の王都への気持ちを振り払うように声を上げようとする。
「……ノエル、余計な事を言わなくても良いから、別に王都に行くつもりもないし」
「本当ですか?」
「あぁ。俺は村の薬剤師で良いんだよ」
ジークはノエルの言葉を遮り、自分が王都に行く事はないと言い切った。
「それは残念。それに無理にジークを誘うと友との約束を違える事になるしね……ジーク、ノエル、フィーナ」
「な、何よ?」
ジークの答えにエルトは少し残念そうな表情をするが、予想通りでもあったようであり、直ぐに真剣な表情に切り替える。フィーナはいきなり自分の名前が呼ばれた事に驚きの声を上げた。
「変な事じゃない。何かあった時は力を貸して欲しい。王都ではなくても何かあった時は力を貸して欲しい」
「エ、エルト様、何をしているんですか? 頭をあげてください」
3人に向かい頭を下げるエルト。その姿に驚いたのはレインである。レインはエルトの立場もあるため直ぐにエルトに頭をあげるように言う。
「あんた達も偉くなったね」
「いや、特に何もした気はないんだけど」
ジルはエルトに頭を下げさせた3人の姿に感心したように言うが、ジーク達は心当たりもないため、顔を引きつらせる。