第193話
「……納得がいきませんわ」
「で、今度は何が有ったんだ?」
ジーク、ノエル、フィーナの3人は会場に戻り、休みもなく運営席改め本日も盛況の迷子センターで子供達の相手をしていると不機嫌そうな表情をしたカルディナを連れてエルトとレインが現れる。3人の姿にジークは嫌な予感しかしないようで眉間にしわを寄せた。
「いや、流石にカルディナがカインの周りで暴れると仕事にならなくてね。ジーク達に預かって貰おうかと」
「流石にエルト様の命令にはカルディナ様も逆らえませんから」
ジークの表情に苦笑いを浮かべるエルト。彼はジークの意見など聞く気はないようでカインの仕事を優先するためにカルディナを押し付けるつもりであり、対照的にレインは申し訳なさそうに頭を下げた。
「……おっさんに面倒を見させろよ。あんなんでも親だろ」
「あんな存在、親などを認めませんわ!!」
「……いや、そっくりだから」
朝からカルディナのせいで厄介事に巻き込まれる羽目になったジークにとってはたまったものではなく、却下しようとするが、ジークとカルディナの会話はかみ合いそうにもない。
「と言う事で、任せるよ。ジーク、ノエル、フィーナ。レイン、私達は視察に戻ろう」
「エルト様、お待ちください」
どうやらエルトもカルディナの相手をするのは疲れたようで足早に逃げ出し、レインはエルトから目を離すわけにもいかないようで慌てて彼の後を追いかけて行く。
「……押し付けられたわね」
「そうだな」
「あ、あの。そう言う言い方もどうかと思いますよ。実際、きちんとカルディナ様と話したわけでもないですし」
完全に面倒事を押し付けられたと判断し、眉間にしわを寄せるジークとフィーナ。ノエルは何となく2人の気持ちもわかるようだが必死にカルディナをフォローしようとしている。
「まぁ……正直、少し大きな迷子が増えたって感じだよな?」
「そうね。いろいろ、迷走してるわね。よりにもよってあんな性悪相手に」
「どこをどう勘違いしたら……吊橋効果か?」
ジークとフィーナはノエルの言葉で1度、カルディナへと視線を向ける。カインへと恋愛感情を持つ事が信じられないようで彼女へと向ける視線は珍しい物を見るようなかなり失礼なものである。
「……これだから、下賤の者は」
「そりゃ、悪かったな。俺だって血だの家名だのって騒ぐ奴は嫌いなんだ」
カルディナは2人の視線が気に入らないようで、庶民であるジークを見下すように睨み返すが、勇者と言われる両親の血を引いたジークに取っては血も家名も嫌悪の対象でしかないため、その言葉を鼻で笑う。
「オズフィムの者をバカにする気ですか。無礼者!!」
「悪いな。家名を誇る前に自分で何かをして見ろよ。そんな風に自分のわがままを押し付けて、他人に迷惑しかかけない人間があいつの目に映るわけないだろ」
カルディナはジークを見下しているため彼を罵倒するが、ジークは彼女の態度ではカインと並んで歩く事などできないと言い切るとカルディナの相手をしたくないのか運営席を出て行こうとする。
「ジークさん、どこに行くんですか?」
「ちょっと、トイレ。悪いけど、少しの間、よろしくな」
「ジーク、逃げる気?」
「逃げないって、さっきも言ったけど、子供が1人増えただけだろ」
運営席を出て行こうとするジークの姿にフィーナはカルディナを押し付けるつもりだと思ったようだが、ジーク自身はカルディナを子供だと切り捨てると少し席を外すと言って運営席を出て行く。
「……来る頃だと思ったよ」
「そう思うなら、あんなものを押しつけるな」
ジークは運営席を出て、観客席に出ると上空を飛んでいるであろうカインの使い魔を探す。そんなジークの視線に気が付いたのか、1羽の小鳥がジークの肩に乗る。
「流石に名家の人間を蔑ろにするわけにもいかなくてね。まったく、面倒な事、この上無い」
「はっきり、言えば良いだろ」
「はっきりと言っても、あのおっさんの血を継いでいるわけで話をまったく聞いてくれなくてね。それも、母親の方も思い込みが激しいときてる」
「……何で、そんな人間ばかりが集まるんだ?」
カインもラース、カルディナ親子の相手に心底疲れているようで大きくため息をつき、ジークは眉間にしわを寄せた。
「調べるとおっさんは大恋愛だったみたいだぞ。それも情熱的な」
「……それはお互いの勘違いで大恋愛になったんじゃないか?」
「その可能性は否定できないね」
カルディナの思い込みの激しさは父親のラースだけの血ではないようであり、カインは力なく笑う。
「と言うか、お前は何であの娘にあんなにラブコールを喰らってるんだ? いくら、思い込みが激しくてもきっかけがないとあそこまで執着しないだろ? ……と言うか、それなりに年が離れてるよな? 魔術学園に通ってると言っても接点がないだろ?」
「まぁ、俺が19でカルディナ様が13だからね」
「6つも違うのか? エルト王子は」
「21、ちなみにライオ様はジークと同じ17ね」
ジークの目から見てもカインとカルディナの年はかなり離れており、2人がどこで知り合ったかと言う話しに進みかけるが、なぜか話は年齢の事に変わって行く。
「……ライオ様と同じかよ」
「あぁ。ライオ様は同年代で対等に相手をしてくれるから、懐いているんだろうね」
「いや、酷くそれも迷惑な話なんだけど……違う。話をすり替えるな」
ジークはライオにも巻き込まれているため、大きく肩を落とすが、今知りたいのはカインがカルディナに一方的なラブコールを受けている理由であり、誤魔化すなと言う。
「正直、これと言った記憶がないんだよな。ジークも言った通り、年も離れてるし、得意とする魔法も違うから学園内でも接点はない。何より、子供に手を出すほど飢えてない」
「……なんか、発言が生々しいな」
カインも本当にカルディナに好意を受けている理由がわからないと言う。
「まぁ、ジークはノエルと一緒に住んでる事で毎日、悶々と過ごしてるとは思うけど、昨日も言ったけど俺は俺のやりたい事をやってるから、そっちは後回しで良いと思ってるんだよな」
「お前はどうして、そっちの話に持って行こうとするんだ?」
カインはカルディナだけではなく、今は恋愛事に興味がないようであり、自分の事よりジークとノエルの関係の方が気になるのかジークをからかうように笑う。




