第192話
「と言う事で、誘拐犯と子供達はアズさんの屋敷にいます」
「そうですか? ご苦労様でした。魔術学園の生徒達に使い魔で外に出ている捜索隊に撤収の指示を」
ジークとノエルはアズの元へ戻ると事件の解決を報告するとアズはルッケルの外に出ている捜索隊へ撤収指示が出る。
「とりあえず、これで俺達の仕事は終わりか?」
「そうですね。会場に戻りましょうか? 迷子の子供達もまたたくさん出ているでしょうし」
「そうだろうな。結局、ずっと、子供達の世話か」
「そう言わないでください」
「カイン様はどこですか!!」
アズが指示を出す姿を横目に子供達の相手があまり得意ではないジークは大きく肩を落とす。ノエルはそんな彼の姿に微笑みかけた。その時、飛び交う指示が耳に届いたようでカインが戻ってきたと思ったのかカルディナが勢いよく飛びこんでくる。
「カルディナ様?」
「カイン様はどこですか!! まさか、カイン様を守る事ができなかったなどと言いませんよね!!」
「く、苦しい。は、放してくれ」
カルディナの登場に戸惑うノエル。カルディナは周囲を見回し、カインがいない事でジークの胸倉をつかみ、カインの安否確認をするが首を絞められたジークには答える事などできるわけもない。
「それで、カイン様はどこにいるんですか?」
「カインさんなら、お仕事に戻ると言って会場に戻りました。あの、ジークさんを放していただいても良いでしょうか?」
「カイン様、今、あなた様のカルディナが会いに行きますわ」
ジークの顔が青白くなって行く姿にカルディナに手を放すように言うノエル。カルディナはカインが会場に戻った事を知り、ジークを押しのけるとものすごい勢いで一直線に武術大会の会場に向かって走り出した。
「ジークさん、大丈夫ですか?」
「……何とか」
「アザになってます」
「ノエル、近いから、それにこれくらいなら何ともない」
ジークに慌てて駆け寄るノエル。ジークは彼女の顔が近くにある事に少し気まずいのか視線を逸らし、ジークの反応にノエルは気恥ずかしくなったようで顔を赤くする。
「小僧、小娘、カルディナを見なかったか!!」
「ひゃう!?」
「……グッジョブ、おっさん」
2人の間に微妙な空気が漂った時、それをぶち壊すように今度はラースの声が響き、ノエルは背後から聞こえた声に驚いたようでジークに抱きつき、ジークはノエルの感触に小さく拳を握った。
「……ジーク、鼻の下、伸びてるわよ」
「そ、そんな事はないぞ。おっさん、カルディナ様なら、武術大会の会場に向かったぞ。迷子にはならないと思うけど、ただでさえ、カインの仕事が増えてるんだ。娘をさっさと保護しろよ」
「あぁ。キツネに私の娘を任せるわけにはいかん。レイン、会場に行くぞ!!」
ラースに遅れて現れたフィーナはジト目でジークを睨みつける。彼女の冷たい視線にジークは声を裏返すもノエルの感触を手放すのは惜しいようで彼女を抱きしめたまま、ラースにカルディナの居場所を話す。
しかし、ラースはジークの言葉を最後まで聞かずにレインを連れて走り去る。
「……おっさん、本当に話を聞いてるのか?」
「わ、わかりませんね。あ、あの。ジークさん、そろそろ、放していただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、悪い……」
小さくなって行くラースとレインの背中にため息を吐くジーク。ノエルは顔を赤くしてジークに放して欲しいと頼み、ジークは名残惜しそうに彼女を放す。
「それで、ジーク、何で、街の中から戻ってきてるのよ?」
「あー、俺達も会場に戻らないといけないから、戻りながら話そう。あまり遅くなると迷子達の相手が大変そうだ。ただでさえ、今日は人手が多く取られたわけだし」
「そうですね。アズさん、すいませんが、わたし達は会場に1度戻ります」
「そうですか? 事件の事をまとめないといけませんので、後で詳しい話を伺いに行くと思いますのでその時はご協力お願いします」
不機嫌そうな表情のフィーナは説明を求めるが、ジークは武術大会の会場も心配のようでアズに許可を得ると3人で会場に向かって歩き始める。
「それで、どう言う事?」
「カインの転移魔法でアズさんの屋敷に飛んできたんだよ。子供達の体力もつきかけてたから、歩けないって判断してな」
「確かに子供達には歩くのはきついわね」
フィーナの疑問にジークはカインの転移魔法を使った事を話すとフィーナはカインの使い魔からの報告で巨大ミミズの横穴を抜けた話は知っているようで大きく頷いた。
「それで、そっちは? カルディナ様のカインへの誤解は解けたのか?」
「誤解と言うか何と言うか、わからないけど、一応、森で迷子になってたわけだからね。それを助けたのがあのクズだし……勘違いはいっそう強くなりそうよ。あの勘違いをどうにかしないとまた問題が起きるわよ」
「……思い込み激しいだろうしな。おっさんの娘だけあってな」
「そうですね。もう少しお話を聞いてくれると良いんですけど」
森でフィーナ達と別れた後にカルディナ捜索はどうなったのかと聞くジーク。フィーナはカルディナを見つけた時の事を思い出したようで、カルディナの一方的なカインへの愛情はより一層強くなったとため息を吐く。フィーナの様子になんとなくだが、その時の状況が目に浮かんだようでジークとノエルは眉間にしわを寄せる。
「まぁ、会場でおかしな騒ぎになってない事を祈るか? これ以上、厄介事に巻き込まれるのはゴメンだからな」
「そうね。ただでさえ、エルト様とライオ様の兄弟ゲンカに巻き込まれてるんだから、これ以上の面倒事はイヤよ」
「でも、そう言う事を言っているとまた巻き込まれそうな気がしますね」
会場でカルディナがまた騒ぎを起こしている気しかしないようでジークとフィーナは肩を落とす。2人の様子にノエルは苦笑いを浮かべる。
「変な事を言わないでくれ……そう言えば、今回のって一応、事件解決の協力したわけだし、報酬出るのか?」
「ジーク、そこにがっつくのはどうかと思うわよ?」
「そうです。子供達が無事だったんですから、そう言うのは二の次です」
「じょ、冗談に決まってるだろ。子供達が無事で本当に良かったよな」
ジークは成り行きとは言え、誘拐犯を捕まえる事に協力したため、報酬が出るのかと言うが、その言葉はノエルとフィーナには不評であり、2人からは冷たい視線が向けられた。2人の視線に若干、居心地が悪くなったのかジークは声を裏返す。