第188話
「どうして、こんなトンネルがあるんですか? ルッケルでのイベントはカインさんの思いつきのはずなのに」
「……確かにそうだね」
地下の食糧備蓄庫に降りると壁が割れて床に落ちており、そこには高さ2メートルくらいの横穴があり、かなり奥深くまで続いているように見える。このサイズの横穴が何のために作られたかわからずにノエルとエルトは誘拐犯の用意周到さに焦りが見える。
「行くぞ。考えてるヒマはない。これを使ってるなら、下手したら全員生き埋めだ」
「ま、待ってください!?」
「ジークはこの横穴に心当たりがあるんだね」
「あぁ。ただ、止まって説明している時間もないから、追いかけながら説明する」
ジークだけはこの横穴が何か理解したようで一刻を争うと判断しており、備蓄庫の天井にかけてあるランプを手にすると直ぐに横穴の中を進み始める。ジークの様子にエルトとノエルは慌てて後に続いて歩く。
「……広いね。これを掘るとしたら、かなりの労力が必要だね」
「あぁ。掘るとしたらな……」
「その言い方だと、ジークはこの横穴を掘ったのが誘拐犯だとは思っていないようだね」
横穴を進むなか、ジークは誘拐犯とは違う何かを警戒しながら先頭を歩いており、エルトはジークの様子から、横穴を掘ったのは誘拐犯ではない事を察する。
「それって、どう言う事ですか?」
「ノエルはこれと同じものを知ってるはずだぞ」
「知ってると言われても……あの、ひょっとして、ミミズさんですか?」
「あぁ。たぶん、ここはミミズの作った道だ。食糧漁りに食糧備蓄庫に降りたら、地震でもろくなってた壁が崩れて見つけたんだろ。その道の1つがたまたま外に繋がっていたんだろう。1本しか道がないとは言えないし、分かれ道でもあったら、追いつけない可能性もあるぞ」
ジークの言葉でノエルもこの横穴の正体に気が付いたようであり、顔を引きつらせる。ジークの胸騒ぎはまだ収まっていないようで、真剣な表情で横穴の奥を見つめている。
「ここに横穴があるって事はミミズさんはやっぱり1匹ではなかったって事ですよね?」
「あぁ。ここら辺の地震の原因は本当に巨大ミミズの大発生の可能性もあるぞ」
「それは……今更ですけど、フィーナさんがいなくて良かったですね」
先日のルッケル騒ぎでジークとノエルは2匹の巨大ミミズの死にぎわに立ち会っており、新たに見つかったミミズの穴に後どれだけの数がルッケル周辺に生息しているか心配になったようで眉間にしわを寄せた。
「……巨大ミミズの通った後だとすると、この道で巨大ミミズに遭遇する可能性もあるね?」
「あぁ。俺とノエルは1度、その場面に遭遇している。倒せなくはないが、あの体当たりはかなりきつい。子供達が遭遇したらかなり危険だ」
「誘拐犯が子供達を守るとは思えないしね。急ごう。子供達を連れているんだ。誘拐犯の歩は遅い。追いつくぞ」
子供達が誘拐される可能性の他に巨大ミミズとの遭遇と言う新たな危険性も現れ、エルトは真剣な表情をすると急ぐように言う。
「ジークさん、どっちに行きましょうか?」
「……静かにしてくれ」
しばらく、1本道を進んでいたのだが、ジークが危惧していた分れ道にぶつかってしまい、焦るノエルの隣でジークは立ち止まると耳をすませて横穴内の音に集中する。
「ジークさん?」
「ノエル、静かに、ジークは音を聞いて何かを情報を得ようとしているんだから」
ノエルはジークが何をしているのかわからずに、彼の名前を呼ぶがエルトは彼女の腕をつかむと少し静かにするように言い、自分も耳をすませる。
「……風の流れから言えば、こっちだな?」
「……おい。お前はいつもの事だけど、どこから湧いて出てくるんだ?」
「何を言ってるんだよ。せっかくで、全力で追いかけてきたんだから、もう少し優しい言葉が欲しいな」
その時、ジークとエルトの集中を遮るように背後からカインの声が聞こえ、ジークは眉間にしわを寄せて振り返ると珍しく息を切らせたカインが立っている。
「悪い。今は遊んでいるヒマはない。悪かったな」
「いや、これに関してはジークを責める理由はない。俺もこんな事は考えてなかった。今、使い魔をアズさんのところに戻して状況説明をしてる。魔術学園使い魔と捜索隊でこの横穴の出口を探している。ジーク達が偵察と勘違いした2人組と俺の進行ルートから計算してある程度の当たりを付けてきたけど、まずは子供達の確保だな」
カインといつものノリに移る余裕はないため、ジークはカインに謝るとカインが選んだ方向へ進み始め、カインもジークと同じように責任を感じているようで彼を責める事はない。
「……近いな。ノエル、灯りを落とすぞ。転ばないように気をつけろよ」
「わかりました。ジークさん、急ぎましょう」
「わかってる」
4人の視線の先には小さな灯りが見え、その先からは子供達の泣き声と子供達を怒鳴り散らす声が聞こえ、ノエルはジークを急かすように言う。
「待った。ジーク、少し落ち着け。誘拐犯の配置くらいは確認しないと仕掛け用がない」
「……あぁ」
ジークは直ぐに駆け出そうとするがカインが1度、ジークを引き止め、ジークは自分の頭に血が上っている事を理解しているようで大きく1つ深呼吸をする。
「……普通に考えれば先頭、真ん中、最後尾に誘拐犯がいるはずだけど、偵察の2人が合流していると最大5人か?」
「そうだな……ジーク、魔導銃の連射は何発まで行ける?」
「流石に1人で鎮圧は無理だぞ。子供達を盾にされたら、どうしようもない」
誘拐犯と子供の配置までは薄暗い横穴のなかでは確認できず、カインはジークの魔導銃で先制攻撃をしようと考えてはいる物のさらわれた子供達の安全を考えると強硬手段に出る事は出来ない。
「とりあえず、ノエル、支援魔法を頼めるか? 俺とエルト王子に素早さをあげるヤツ」
「そうだね。ジークは魔導銃で奥と真ん中の誘拐犯を狙う。手前は私が鎮圧するよ」
「は、はい。わかりました」
結局は、迅速に誘拐犯を鎮圧するしか手はなく、ノエルに支援魔法を頼み、彼女は大きく頷くと直ぐに支援魔法に移り、魔法は問題なく発動し、ジークとエルトの身体は淡い光を放ち始める。