第187話
「ジークさん、子供達は無事です……か?」
「カイン、カルディナの方は無事なのかな?」
ジークがノエルとエルトの元に戻るとノエルは直ぐに子供達の事を聞こうとするが、その視線はジークの頭の上に止まっているカインの使い魔に移る。エルトはその様子に苦笑いを浮かべるとカインにカルディナを保護できたかと聞く。
「はい。森で迷子になっており、顔をのぞかせたイノシシを黒焦げにしていただけでケガはありません。一先ず、私以外の3人にカルディナ様をルッケルまで連れ帰って貰います。私は直ぐにそちらに合流します」
「……黒焦げか?」
「それはまた」
カルディナの無事を報告すると1人でこちらに合流する旨を伝えるが、話の途中で聞いたカルディナの火力にジークとノエルは顔を引きつらせている。
「合流はカインだけかい?」
「はい。すでにこの小屋に向けて捜索隊は向かっていますし、問題はないです。エルト様達はそのまま見張りをお願いします」
「あ。そうだ。カイン、こっちから偵察が2人、そっちに向かったんだけど、遭遇したか?」
戦力的にはあまり差がなさそうに思えたようではあるが、既に誘拐犯の確保に捜索隊は動いており、ジーク達にカインから待機指示が出る。その時、ジークは先ほど見た偵察に出た2人の事を思い出す。
「偵察? いや、まだ、遭遇はしてない」
「援護に行くか? 俺とお前で挟めばすぐに決着が付くだろ?」
「大丈夫だろ。この程度の誘拐犯風情」
「あの。油断するのは危ないと思うんですけど」
カインの言葉はフィーナには警戒するように言っていたものの、自分は誘拐犯を舐めているようにも思え、ノエルはカインに警戒して欲しいと言う。
「まぁ、あれだな……偵察の2人、死ななければ良いな」
「カイン、くれぐれもやりすぎないように、誘拐犯はアズさんに引き渡す義務があるからね」
「不慮の事故と言うのもありますよね」
しかし、ノエルの心配を余所にジークとエルトは偵察しに行った誘拐犯2人の命を心配しており、ノエルの顔は引きつっている。
「あ、あの。それはそれで危険ではないでしょうか?」
「ノエルが心配する事じゃないよ。それより、合流するまでの間、小屋の警戒を任せるぞ」
「あぁ。わかってる」
カインは改めて、3人に小屋の見張りを頼むとカインの使い魔はジークの頭の上から飛んで行く。
「……と言うか、カインの使い魔が窓の外から小屋の中を見張るのが1番安全な気がするんだ」
「小鳥さんですからね」
森の中に戻って行くカインの使い魔を見て、ジークとノエルはどこか納得がいかない気分になったようで苦笑いを浮かべるも直ぐに視線を小屋に戻す。
「ジーク、カインがきたから、話は流れてしまったけど、中はどうなってるんだい?」
「子供達も職人も現状では無事。職人は最初に捕まった時にケガをしたみたいだけど、命に別状はなさそう」
「本当ですか。一先ずは安心ですね」
小屋の中の様子を説明するジーク。ノエルはジークの見立てを信じたようで胸をなで下ろした。
「となると問題は救出後の子供達の心のケアだね」
「まぁ、誘拐されてるわけだしな。でも、そこまで正直は面倒を見切れない。お祭り騒ぎとは言え、子供から目を離した親の責任だ」
「ジークは冷めてるね」
「悪かったな」
ジークは両親とまともに生活した事がないため、子供から目を離した両親に責任があると言い切る。その姿にカインからジークの過去を聞いているのかエルトは少しだけ悲しそうに笑う。
「あの。心のケアと言うんでしたら、直ぐにでも助けに移らないといけないんじゃないですか? きっと、怖い思いをしていると思います」
「ノエル、カインの話を聞いていたか? 俺達がやるべき事は誘拐犯が子供達を連れて逃げるのを阻止する事……なぁ、今更だけど、あの誘拐犯って何で逃げると思う?」
「何って? 子供達を連れて逃亡するんだから、徒歩じゃきついだろうから、馬車かな?」
子供達が心配になったようで、直ぐにでも行動に移そうと言い始めるノエル。ジークは彼女の様子に小さくため息を吐くが、その途中で誘拐犯の逃走手段と言う1つの疑問が頭をよぎる。
「そうだよな。普通は馬車だよな。でも、馬車がないんだよな。これが」
「確かにそうですね」
「エルト王子の言う通り、子供を連れて徒歩で移動なんて、捕まえてくださいって言ってるようなもんだろ?」
ジークは小屋の周囲に馬車が繋がれていなかった事を思い出し、誘拐犯の逃走手段に首を傾げた。
「ジークさん、転移魔法の可能性は?」
「いや、中を見た限り、魔術師風の人間はいなかった……なんかイヤな予感がする」
「ジークがイヤな予感と言うと当たりそうでイヤだね」
「変な事を言わないでくれ。だけど、もう1度、様子を見てくる」
小屋の中の様子を思い出すが転移魔法を使うような人間の姿はなく、転移魔法での逃走の可能性を否定する物のジークは胸騒ぎがするようであり、小屋に向かって歩き出す。
「……どう言う事だ? ちっ、やられた」
ジークは小屋の窓の下まで移動するとそこで違和感を覚える。先ほど来た時に感じた中の人間の気配が少なくなっており、ジークは中を確認すると縛りあげられて床に転がされている2人の職人以外の姿はない。
ジークは自分の目を疑ったようで1度、目をこするが人数が変わるわけもなく、ジークは慌てて小屋のドアを開け、中に入った。
「おい。子供達はどこに行った?」
「ジ、ジークさん、どうしたんですか?」
「何が有ったんだい?」
ジークは小屋に入るなり、職人達の縄を解き、ここで何があったかと聞くとジークの様子に何かあった事に気が付いたノエルとエルトが遅れて小屋の中に入り、ジークに状況を確認する。
『地下の食糧備蓄庫にトンネルが掘られているんだ。そこから逃げたんだ。頼む。子供達を助けてくれ』
「ジークさん、どう言う事ですか?」
「最初の2人は偵察に行ったんじゃない。偵察だと見せかけて他の場所に置いている馬車の準備をしに行ったんだ。頭が回る奴が混じってるとは思わなかった……カギをかけてるな」
ジークが職人に付けられていた猿ぐつわを外すと、彼は直ぐに誘拐犯の逃走経路をジークに話す。ジークは自分が下手を打った事に苛立っているようで舌打ちをすると備蓄庫のドアを開けようとするが内側からカギがかけられており、直ぐに腰から魔導銃を引き抜くと魔導銃でドアを破壊する。
「ジーク、行くぞ。ノエルも急げ」
「は、はい。わかりました」
「あぁ。わかってる。良いか。もうすぐ、ここにもう1人くる。そいつに俺達が先に行くことを伝えてくれ」
ドアが破壊されるとエルトとノエルは直ぐに備蓄庫に降りる。ジークは職人にカインへの伝言を頼むと直ぐに2人の後を追いかけて行く。