第184話
「……何があったんでしょうね」
「おい。大丈夫か? ノエル、治癒魔法、おっさん、ノエルを降ろしてくれ」
「あ、あぁ」
「は、はい」
ノエルはラースに抱えられたままルッケルの入口に到着すると門番は地面に倒れ込んでいる。カルディナの魔法の影響なのか、門番が倒れている近くの地面はえぐれ、木々はなぎ倒され、焦げた臭いがしている。ノエルはその様子に顔を引きつらせており、次にどうしたら良いのかわからないようにようだ。
2人の到着に少し遅れてジークが到着すると直ぐに倒れている門番の身体を抱き起こすとノエルに指示を出す。
「大丈夫か?」
「何があった? カルディナはどこに行った?」
「……おっさん、落ち着け。それだと話せないだろ」
「そ、そうか。すまん」
ノエルの治癒魔法で傷が癒えた門番にラースは胸倉をつかむ勢いで話しかける。ジークはラースをいさめるとラースは門番から少し距離を取る。
「……どうして、こういやな予感ってのは当たるんだ?」
「そ、そうですね」
門番から聞かされた話は1人の少女がルッケルを出て行こうとしたため、引き止めたところ攻撃魔法を喰らって吹き飛ばされたとの事であり、カルディナの特徴を門番に伝えると間違いなく、ルッケルを出て行った少女はカルディナであるようでジークは眉間にしわを寄せた。
「ジーク、ノエル、どうでしたか?」
「アズさん、いや、予想通りでどうしようかな? と」
「そうですか」
その時、アズが遅れて現れ、現状を確認する。ジークは乱暴に頭をかきながら言った一言アズは全てを理解したようで難しい表情でどうするか考え始める。
「あの。ジークさん、カルディナ様を探しに行かなくて良いんですか?」
「行きたいのは山々だけど、はっきりと言って、どこに向かったかわからないと探し用がない。王都に戻るつもりなら、馬車のあるアズさんの屋敷に行くはずなのに、ルッケルの入口にきたって事は何も考えてないだろ。街道にそって、他の街に向かってれば良いけど、街道からそれちまったら探しようがない。連携とかを考えると探索隊の編成を待った方が良い」
カルディナを探しに行こうと言うノエル。しかし、行く先に心当たりのないジークはどこを探して良いのかわからないため、個人で探すのは危険だと判断したようで乗り気ではない。
「ですけど」
「ジーク、大変な事になったわ」
「フィーナ? 手伝いはどうした?」
ジークの判断も間違いではないがノエルは直ぐにでも駆け出していきたいようでルッケルの外へと視線を向けた時、息を切らしながらフィーナが駆け寄ってくる。
「手伝いって言ってる場合じゃないのよ。ジークとノエルが会場を出て行った後、昨日から帰ってきていない子供がいるって言う報告が集まってきて」
「それって、どう言う事だ?」
「大量に子供が誘拐されているかも知れないって事だよ」
フィーナに遅れてカインの使い魔が現れ、短くジークの疑問に答えた。
「それって不味いよな?」
「あぁ。報告を受けただけで20人。こう言うイベントでは人さらいは視野に入れていたんだけどな。アズ様、探索隊の編成をお願いしたいと思います。魔術学園と騎士からも人員を出します」
「わかりました。すぐに動きます。ジーク、ノエル、フィーナ、すいませんが時間がありませんので」
事の重大さに眉間にしわを寄せるジーク。その隣でカインとアズの間で行方不明になっている子供達の捜索隊ができる約束が執り行われ、アズはジーク達にルッケルの外を探して来て欲しいと頭を下げる。
「あぁ。おっさん、あんたも行くだろ?」
「ちょ、ちょっと、ジーク、何で、このおっさんを誘うのよ?」
「カルディナ様が見つかってないんだ。おっさんとしては騎士として指示を出さないといけない身分だろうけど、それができる状態にないだろ」
「何? まだ見つかってないの?」
「あぁ。それに他の人間と組ませるとラースのおっさんに気を使ってどっちつかずになる可能性もあるからな。わりと蔑ろにするジークが一緒の方が良い。ラースのおっさんと一緒がイヤなら、フィーナはここに残り捜索隊に混ざれ」
捜索隊が編成されれば騎士としての立場で動きにくくなるラースの心境を思ってか、ジークはラースに声をかける。ラースにあまり良い印象を持っていないフィーナは猛反対を始め出す。
しかし、ジークとカインはそんな事を言っている場合ではない事を理解しており、フィーナを置いて行く判断をする。
「どうする? おっさん、人さらいが出てるなら、拠点はルッケルの外にある可能性だって高い。1人でルッケルの外に出たカルディナ様も捕まった可能性も出てくるぞ」
「そ、そうだな。私も同行しよう」
「フィーナさん」
「わかってるわよ。ここでわがまま言ってるヒマなんかないんでしょ」
同行を承諾するラース。ノエルはフィーナへと声をかける。フィーナはまだ納得ができないようだが、わがままを言っている状況でもない事は理解しているようで小さく頷く。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
「ジーク、わかってると思うけど、人命優先。誘拐犯を見つけても飛びこんで行った場合に誘拐された子供達に命が危険にさらされる場合は退却も視野に入れて動く事」
「そんな事は言われなくてもわかってる」
4人はルッケルの入口から外に出ようとするとカインは優先されるべきは子供の命だと釘を刺す。その言葉に振り返る事なく返事をするジーク。
「待ってください。この周辺の簡単な地図です。これを持って行ってください。先日からの地震で通れない道もあるかも知れませんが何もないより役に立つを思います」
「あ、ありがとうございます。アズさん」
ルッケルを出て行こうとする4人をアズは引き止めると門番の詰め所に置いてあった地図を渡し、ノエルはアズにお礼を言う。
「そうだ。カイン、何かあった時の連絡手段はどうしたら良い?」
「魔術学園の人間の使い魔を飛ばすから、定期的に接触するようにしておく。間違っても魔導銃で撃ち落とすなよ」
「わかってる……おっさん、1人で行こうとするな」
ジークとカインの間に連絡手段の取り決めを行うと1人で駆け出そうとするラースを押さえて4人でルッケルを出て行く。