第183話
「ジークさん、アズさんです」
「お、本当だ。アズさん、ちょっと良いですか?」
「ジーク、ノエル? ラース様までどうかしましたか?」
ジーク達3人がアズの屋敷に近づいた時、護衛を連れたアズを見つける。ジークはアズに向かい手を振り、アズは3人に気づく。
「アズさんは視察ですか?」
「はい。カインやエルト様は武術大会中心になっていますので、それ以外にもバザーなど、多くの人が集まってきていますので、必然的に問題も多くて」
イベントは成功しているようではあるが、それでも、問題は発生しているようで苦笑いを浮かべるアズ。その姿にジークとノエルは釣られるように苦笑いを浮かべた。
「それで、ジークとノエルはデートですか? せっかくのデートなんですから、気が付かないふりをしても良かったのに」
「ち、違います。あ、あの、アズ様、カルディナ様を見ませんでしたか?」
「カルディナ様ですか? 何かあったんですか?」
「いや、ちょっとイヤな事があったみたいで、武術大会の会場から出て行ったみたいなんですよ。おっさんの娘なら、何か問題があっても困るだろうしな」
アズはジークとノエルの顔を交互に見た後、変に勘ぐったようで優しげな笑みを浮かべる。その言葉にノエルは顔を真っ赤にして否定し、アズにカルディナを見てないかと聞く。しかし、アズはカルディナとは会っていないようで首を傾げた。
「それで、カルディナの乗ってきた馬車は領主様の屋敷に置いてあったのでな。戻ってないかと思ったんだ」
「そうですか? 少なくとも馬車は残っていました。部屋に戻っているかはわかりませんが」
「そうですか? ……どうする。おっさん、アズ様の屋敷の部屋をのぞいてくるか?」
アズが言うにはカルディナが屋敷に戻っている様子はなく、ジークはラースに屋敷まで行くか確認を取る。
「そうだな。しかし、街中を探した方が良い気もするな……」
「おっさん、かなり動揺してるな」
「そ、それは娘さんがいなくなったわけですし」
「屋敷の方はこちらで確認を取りましょう。確認を終えたり、屋敷に戻ったら、使いの者を出しましょう」
ラースはカルディナが見つからなくて心配なようでそわそわしており、答えが出す事ができず、アズは護衛の1人を屋敷に確認に走らせる。
「それじゃあ、俺達は街中か?」
「ルッケルの入口にも行ってみましょうか? ルッケルの外に行ってしまうと危ないですし」
「そっちは門番がいるから、女の子1人くらいなら、引きとめてくれるだろ!? な、何の音だ!?」
役立たずと化しているラースの様子にジークとノエルは苦笑いを浮かべるとカルディナ探索場所を決めようとした時、ジークの耳に爆発音が届き、ジークは何かあったのかと思い、周囲を見回す。
「イベント向けの花火か何かではないんですか?」
「花火はありませんね。この時間に打ち上げる予定はありません」
「誤爆とかは?」
「ないとは言えませんが、花火を保管しているの場所とは違う場所での爆発音だったと思います」
花火の可能性も考えるが、アズは領主だけあってイベントの計画書すべてに目を通しているようでその可能性を否定する。
「となると……なぁ、おっさん、カインから聞いたんだけど、あんたの娘って魔術学園に通ってるんだよな?」
「あ、あぁ。そうだが、それがどうかしたか?」
「……ノエル、俺、あまり考えたくない事が頭をよぎったんだけど」
ジークは爆発音の原因を考えようと首をひねった時、あまり良くない答えが導き出されたようで眉間にくっきりとしたしわが寄った。
「えーと、それって……あの爆発がした場所にカルディナ様がいるって事でしょうか?」
「ああ。それもあっちはルッケルの入口がある方向だよな?」
「そうですね……それも煙が上がり始めましたね」
ノエルもジークの言いたい事が理解できたようで顔を引きつらせてルッケルの入口がある方向に視線を向けると上空に煙が昇り始めている。
「ジーク、ノエル、どう言う事ですか?」
「カインが言うにはカルディナ様の魔法構成は10割攻撃魔法らしい。あいつの口ぶりから考えるとそれも火力はかなりのものだと思う」
「そ、それはカルディナがルッケルを出て行こうとしていると言う事か?」
「た、たぶんですけど」
ジークとノエルが出した答えはカルディナが爆発の原因であり、その答えにその場には微妙な空気が漂い出す。
「と、とりあえず、状況の確認に向かいましょう。ジーク、ノエル、付いてきてください」
「それはまぁ、付いていきますけど、おっさん、呆けてないで行くぞ。ルッケルの外だといくらなんでも不味すぎる」
「そ、そうだな。急ぐぞ」
直ぐに現場確認に向かう流れになるが、ラースは現状について行けないようであり、ジークは彼の肩を叩いた。ラースは思考回路が動き出したようで慌ててルッケルの入り口に駆け出そうとする。
「待て。おっさん」
「何だ?」
「行くなら、ノエルを担いで行ってくれ。絶対に体力持たないから」
「そうか。急げ。小娘」
「あ、あの。ラース様、落ち着いてください!? ジ、ジークさん、助けてください!?」
ノエルの体力が不安なため、ジークは軽い冗談でラースにノエルを背負うように言う。その冗談を受け流す余裕などラースにはなく、ノエルを小脇に抱えて駆け出して行き、ノエルは悲鳴にも似た声でジークとアズに助けを求めるが、耳に届くその声はどんどん小さくなって行く。
「……冗談だったんだけど」
「流石に、その冗談は時と場合を選んだ方が良いと思いますよ」
「……反省します。それより、アズさん、俺達も行きましょう。それとできれば」
「わかってます。武術大会の会場に行ってカインに現状の報告をお願いします」
小さくなって行くノエルとラースの姿を見て、顔を引きつらせるジーク。アズはそんな彼の様子に小さくため息を吐くと護衛の1人にカインへの報告を指示する。
「それでは行きましょうか。ジーク」
「了解しました。と言うか、俺は先にノエルとおっさんを追いかけます。あの2人だと何かあっても対処ができないと思いますから」
「そうですね。任せます」
ジークはノエルと距離が離れてしまい、彼女の正体を隠している魔導機器が機能しなくなっては困るため、慌ててノエルとラースの2人を追いかけて行く。