第182話
「カルディナ様、いませんね」
「まぁ、これだけ、人がいれば、簡単には見つからないよな」
カルディナを探して観客席まで移動するが、既に視界に認識できる場所に彼女の姿はない。ジークとノエルはカルディナを探しながら通路を歩く。
「と言うか、魔術学園の人の使い魔に見つかってないのか? ラースのおっさんの娘なら、騎士連中や王都にいる人間なら顔も知れてるんじゃないのか? もしかしたら、もう見つかってるかも知れないぞ」
「確かにそうですね。誰かに話を聞けたら良いんですけど」
「昨日、1日、手伝ってたわりには魔術学園の人間と知り合ってないんだよな」
「そうですね」
しばらく、観客席を探しながら歩くが、カルディナは見つからない。ジークはカルディナを探しているのは自分達だけではないため、他の人間に状況を確認したいと思うが、声をかけるつてはなく、ノエルは首を傾げる。
「まぁ、話を聞く方法はいくらでもあるんだけどな」
「そうなんですか? ちょ、ちょっと、ジークさん、何をする気ですか!?」
「いや、そこら辺を飛んでるのは魔術学園の人間の使い魔だろうから、撃ち落として話を聞こうと思って」
「ダ、ダメですよ。そんな事したら危ないです!?」
ジークは腰のホルダから魔導銃を引き抜くと上空を飛ぶ鳥へと銃口を向けた。ジークの行動を見てノエルは慌てて声を上げ、ジークの腕に抱きつく。
「冗談だ。だけど、情報が欲しいのは本当なんだよな。1度、戻るか? 見つかっていればカインの耳にも届いているだろうし」
「そうですね」
「今のところは見つかっていないよ」
ノエルの反応にジークは冗談だと笑い、魔導銃を腰のホルダに戻すとカルディナが見つかっている可能性もあるため、1度、戻る事を提案し、ノエルはその言葉に頷いた時、ジークの頭の上にカインの使い魔が降り立つ。
「……どうして、わざわざ、頭の上に乗るんだ?」
「気にするな」
「カインさん、カルディナ様は見つかりましたか?」
「ノエル、近い!?」
ノエルはカインの使い魔を見て、直ぐにカルディナの事を聞くが、カインの使い魔はジークあの頭の上にいるため、ジークは目の前に現れたノエルの顔に慌てて距離を取った。
「す、すいません!?」
「いや、なんて言ったら良いか。初々しいね」
ジークの反応にノエルは自分も恥ずかしくなったようで顔を赤くしてジークに謝る。カインは使い魔の目を通して見る2人の反応に茶化すように言う。
「カイン、おっさんの娘が見つかってないって言ってたけど、本当なのか?」
「露骨に話を変えようとしてるな」
「いや、こっちが本筋だ。それで、目撃情報とかは上がってないのかよ?」
「教えてください」
カインにからかわれるのを避けたいジークは直ぐにカルディナの事を聞き、ノエルは真剣な表情でカインの次の言葉を待つ。
「一応、おっさんの娘だけあって、カルディナ様の名前と顔は騎士、魔術学園の生徒にも認知されてる。魔術学園の生徒にいたっては年は離れてるとは言え、後輩に当たるから所属している研究室によっては懇意にしている人間もいる。けど、残念ながら、まだ、見つかってないんだよね」
「見つかってないんですか?」
「なぁ、ひょっとして、武術大会の会場から出た可能性はないか?」
カルディナはまだ見つかっておらず、ジークは1つの可能性が頭をよぎった。
「可能性がないとは言えないね」
「あの。カルディナ様が魔術学園に所属しているなら、転移魔法で王都に帰った可能性もありますよね?」
「そうなると俺達だと探しようがないな。カイン、そっちはわからないのか?」
会場にいない可能性に気づき、ノエルはカルディナが王都に戻った可能性はないかと聞く。
「王都に帰ろうとするのはあるかも知れないけど、転移魔法はないね。カルディナ様は……攻撃魔法特化型だから、他は発動するかも怪しい」
「……火力重視か。さっき、魔法をぶっぱなされなくて良かったな」
「そ、そうですね」
カルディナの魔法では王都に帰る事は出来ないと言うカイン。カルディナの魔法構成に先ほどのやり取りを思い出したジークとノエルは顔を引きつらせた。
「ジーク、ノエル、悪いんだけど、アズ様の屋敷に行ってみてくれる? カルディナ様は馬車でルッケルまできてるから、王都に帰るつもりなら、そっちにいる可能性が高い。会場は引き続き、こっちで受け持つから」
「そうだな」
「わかりました」
「小僧、小娘、カルディナを見なかったか?」
カルディナが会場からいなくなっている可能性は否定できず、カインはジークとノエルに会場外を見てくれと言う。その言葉にジークとノエルは頷き、この場所から離れようとした時、息を切らせたラースが2人に声をかける。
「おっさん?」
「今、わたしとジークさんでアズさんのお屋敷まで足を運んでみようかと」
「そ、そうか」
ラースの顔を見て、ジークは面倒な事になりそうだとノエルの腕を引っ張り、ラースの前から逃げようとする。だが、ノエルはジークの考えに気づく事なく、ラースに今の状況を説明してしまい、ラースはその言葉に頷いた。
「ラース様も心配でしょうから、ジークとノエルとご一緒してはどうですか?」
「な!? おい。カイン、こっちにこのおっさんを押し付けるな」
「ノエルとのデートの邪魔をして悪いとは思うけど、今の状況でこのおっさんは使えないだろうし、変に騎士達に迷惑をかけるよりは良い」
ラースの落ち着かない様子にカインはこのままでは仕事にならないと判断したようで、ジークとノエルにラースを押し付ける。押しつけられた方はたまったものではなく、カインの使い魔に顔を近づけて不満を漏らす。
「そ、そうか。それではアズ様の屋敷に戻ろう」
「は、はい。ジークさん、行きましょう。カルディナ様はルッケルには初めてきたんでしょうし。迷子になってしまっても困りますし」
カインに敵意を見せているラースでも今は悪態を吐く余裕もないようで直ぐにその提案に頷くと会場の出口に向かって歩き出す。ノエルはラースの同行に反対する理由もないため、ジークの腕を引っ張り、ラースの後を追いかけ始める。
「ジーク、一応はカルディナ様は良家のお嬢様だから、厄介事に巻き込まれている可能性も高いから、任せるぞ」
「あー、わかってるよ。しかし、何で、お前に関わるとこんなに厄介事に巻き込まれるんだよ」
「それは俺のせいじゃないから、何かあったら、直ぐにアズ様に話をして、私兵団でも冒険者でも動かす許可を貰え」
「は? いくらなんでも俺にそんな事ができるわけないだろ?」
ノエルに引っ張られるジークに向かい、カインはカルディナが面倒事に巻き込まれている可能性も否定できないため、その時はジークの判断で動くように言う。その言葉は現実味などなく、ジークは呆れたようなため息を吐く。
「何か問題があったら、ラースのおっさんに押し付ければ良いから」
「あー、確かにそれなら行けそうだ」
「あ、あの。それは良いんでしょうか?」
「少なくとも俺が指示を出すより説得力があるだろ」
カインは無責任にも問題が起きたら全ての責任をラースに押し付けるように言い、それにはジークも納得ができたようで返事をする。ノエルはその言葉に顔を引きつらせるがジークとカインが気にする事はない。