第181話
「妄想ではありませんわ!!」
「いやいや、カインは私の右腕になって貰うんだから、そう簡単に上げられないんだな」
「ひゃう!?」
「……また、厄介事が増えた」
カルディナの中ではすでにカインとの結婚は決定事項のようで声を上げた時、彼女の背後からエルトの声が聞こえる。エルトの声にカルディナは驚きの声を上げ、ジークは眉間にしわを寄せる。
「厄介事って言うのは酷いね」
「エ、エルト様、なぜ、このようなところに? それより、どう言う事ですか? 私とカイン様は愛し合っているんです。それを引き裂くなんて、あんまりですわ!!」
「……あんた、本当にこの子に手を出してないわよね?」
「……出してない」
ジークの表情の変化に苦笑いを浮かべるエルト。カルディナは妄想のなかでカインと相思相愛になっているようであり、エルトでも2人の愛は邪魔できないと叫ぶ。
その隣でフィーナはカインに変質者を見るような視線を送り、カインは無罪を主張している。
「カルディナ、何度も言っているが、カインをオズフィム家に婿入りさせるわけにはいかないよ」
「なぜですか?」
「それは私がアンリの婿にカインを考えているからだよ」
カルディナに詰め寄られるが、エルトは表情を変える事なく、更なる問題発言を落とす。
「カインさんがアンリ様と結婚したら王族になるって事ですか?」
「……おい。カイン、あれは流石に冗談だよな? いくらなんでも笑えないぞ」
「そうだな。冗談だと思いたいな」
「目を逸らすな」
エルトの口から出た爆弾発言にジークの眉間にはくっきりとしたしわがより、カインはあまり返事をしたくないようでジークから視線を逸らした。
「あんた、まさか、本気でそんな事になってたり、しないわよね?」
「流石に現状で言えば、その気はないけどね。カインの名前を挙げておくのがアンリにとっても安全でね」
疑いの視線を向けたままのフィーナ。エルトは実の妹に疑われるカインが哀れに思ったようでネタばらしをする。
「安全ですか?」
「そう。王族ともなると色々と面倒でね。アンリはまだ小さいのに王族と縁を作りたいと思っている人間が近づいてくるからね。カインも同じ、既にカインは私の側近として名前が知れ渡っているから、覚え良くするために近づいてくる人間も多くてね」
「そんな人間達に私のカイン様は渡しませんわ!!」
アンリの婚約者候補にカインの名前を挙げておく利点を話すエルト。カルディナはそんな下心がある人間と一緒にしないで欲しいと叫ぶ。
「……愛されてるな」
「もの凄く、迷惑な話だけどね」
カルディナの様子にジークはどう反応して良いのか、困っているようで眉間にしわを寄せ、カインは大きく肩を落とした。
「カルディナ、こんなところで何をしているんだ?」
「……また、厄介な人間が」
「きましたね」
その時、背後からラースの声が聞こえ、さらに問題が増えたと考えたようでその場には微妙な空気が流れる。
「キツネ!! 貴様、カルディナにまた色目を使っているのか!!」
「……そんなつもりは微塵もないです。ラース様、ご息女様をお連れ下さい。私はまだやるべき仕事が残っていますので」
カルディナのそばにいるカインを見つけて、ラースはカインを怒鳴りつける。カインはあまりオズフィム親子と関わり合いたくないようで、冷たい口調でラースにカルディナを連れて行くように言う。
「キツネ、何だ。その態度は!!」
「ラースも落ち着くんだ。カインは私の指示のこのイベントの総指揮を執っているんだ。カインの言う通り、カルディナは準備を進める上で邪魔でしかない。父親なら、それぐらい言って聞かせろ」
「エ、エルト様!?」
カインの態度が気に入らないのかラースは彼の胸倉をつかもうとするが、エルトがカインとの間に割って入る。エルトがこの場所にラースは気が付いていなかったようで、エルトの顔を見て驚きの声をあげた。
「な、なぜ、このようなところに?」
「おっさん、あんた警備の担当だろ。エルト様も特別席に連れて行ってくれ。昨日から何度も逃げ出しててレインが困ってるから」
「……そうか」
暑苦しいラースと面倒事しか持ってこないエルト。ジークは2人の相手をするのが面倒なため、ラースにエルトを連れて行くように言う。ラースはエルトがこのような場所にいる事は当然、好ましくないため頷く。
「エルト様、特別席にお戻りいただきます。カルディナ、お前もだ」
「まぁ、仕方ないか」
「イヤですわ。私はカイン様のお手伝いをしますわ。なぜなら、夫を支えるのが妻の役目だからですわ!!」
ラースは騎士としてエルトの警護をするため、表情を引き締める。彼の表情の変化を見て観念したのかため息を吐くエルト。だが、カルディナはカインのそばにいると言い、カインの腕に抱きつこうとする。
「なぜ、避けるのですか!?」
「必要ないからです。それと何度も言いますが、私とカルディナ様はなんの関係もありません」
カルディナの腕を交わし、カインは冷たくカルディナと自分は無関係だと言い切った。
「……ずいぶんとばっさりと言ったわね」
「それくらいしないと話が平行線っぽいからな」
「で、でも、カルディナ様は傷つかないですか?」
冷たいともとれるカインの拒絶の意思にノエルはカルディナがかわいそうだと思ったようでジークの服を引っ張る。
「カ、カイン様のバカぁぁぁぁぁ!!」
「……カイン、どうするんだ?」
カインからの拒絶があまりにもショックだったようでカルディナは泣きながら、駆け出して行ってしまい、いきなりの事で、その場にいた人間の空気は固まってしまい、ジークは唖然としながらもカルディナを追いかけなくても良いのかと聞く。
「……取りあえず、観客席を監視しているメンバーに話を通しておく。後は見回りをしている騎士とアズ様の私兵団にも」
「そうだね。騎士の方は私の口から伝えておこう。ラース、お前はカルディナを探しに行け」
「ありがとうございます。エルト様」
ここで追いかけてはカルディナを甘やかす事になると判断したカインは形式的な指示を出す。カルディナを追いかけたいラースの気持ちを察したようでエルトはラースに声をかけ、エルトから許しを得たラースはカルディナが向かった方向に駆け出す。
「あ、あの。カインさんが追いかけた方が良いのではないでしょうか?」
「必要ないよ」
「あの。ジークさん」
ノエルはカルディナを放っておけないようで、カインに声をかけるがカインは必要ないと言い切った。しかし、やはり、カルディナが気になるノエルはジークの服を引っ張る。
「一応、良家のお嬢様だし、何かあったら困るだろ。ちょっと、ノエルと行ってくるわ。フィーナはどうする?」
「私はこっちに残るわ。何か、あの子、苦手」
「そうか? ノエル」
「はい」
ジークはノエルの頼みを断る事もできず、2人で駆け出して行く。