第178話
「……どうして、そろいもそろって3回戦で負けるかな? ジークにいたってはラースにも勝ったのに」
「いや、元々、騎士やこの辺のトップクラスの冒険者だって参加してるんだ。一般人が勝てるわけないだろ。と言うか、そっちも同じだろ」
「いやぁ、まさか、あんな上位クラスの冒険者が出場するとは思ってなかったよ。あの人、王都でも名前が知れ渡ってる冒険者みたいだしね」
ジーク、フィーナ、エルトの3人は武術大会を勝ち残る事ができず、迷子センターと化している運営席で引き続き子供達の相手をしている。
そんななか、またも特別席から逃げ出して来たのかエルトは2人を見て呆れたように肩を落とすが、元々、どう考えても無謀な事であったため、ジークは何とも思っていないようで気にした様子はない。
「少しは悔しがりなさいよ!!」
「うんうん。フィーナの言う通りだよ。ジークはもう少し悔しがった方が良い」
「いや、今も言ったばかりだろ。それに戦い方にしたって完全に不利な状況なんだ。勝てるわけなんてない」
ジークとは反対に途中で敗退してしまった事が悔しいフィーナ。彼女がいかに声を上げようともジークは微塵も悔しいと思っていないようでため息を吐く。
「まぁ、元々、武器の事を考えてもジークが不利な状況だったのもあるしね。フィーナが負けたのはバカだからだけど」
「誰が、バカよ!!」
「攻撃している時に周りが見えなくなって、足元をすくわれるなんて、バカしかいないと思うけど」
その時、ジークの援護なのか音もなく、カインが近寄ってきてフィーナを小バカにする。その一言でフィーナの頭には一気に血が上るが、カインに気にする様子はない。
「あ、あの。カインさん、それは少し言い過ぎではないかと」
「そんな事もないと思うけどね。それで、ジーク。ノエルの防具はどうするつもりだ?」
「あー、そうだな。貰えれば儲けもの程度に考えていたけど、このままってわけにはいかないからな」
カインの言葉に苦笑いを浮かべるノエル。ジークはノエルの防具の件を思い出したようでどうしようかと首をひねった。
「まぁ、最終日前には何か探しておくさ。手持ちで買えるものくらいだろうけどな。精霊のマントよりは良い物はないと思うけど」
「そうですね」
「まぁ、精霊のマントは普通に考えて、買えるようなものじゃないからね。ジオスではできない。ノエルとの買い物デートを楽しんでくれ」
何か買わないといけない事は確かなため、商店街を見てくると言うジーク。ノエルがその言葉に頷いた時、カインは2人をからかう。
「か、買い物デートなんて、そんな事は!?」
「ノエル、反応するな。からかわれるだけだから」
「ジークはもうからかわれなれたって感じだね」
顔を真っ赤にして慌てるノエルとは正反対にジークは落ち着いており、彼女に落ち着くように言う。エルトは反応が真逆な2人の様子に苦笑いを浮かべる。
「ノエルがジオスに来てから、毎日のようにからかわれてるからな」
「まぁ、村には話題も少ないしね。若いのも少ないから、仕方ないんだろうけどね。最近じゃ、ノエルと比較されてフィーナを推す声は少なくなってるし」
げんなりとした様子で肩を落とすジークの姿に、村にほとんどいないはずのカインは現状での村のお年寄り達の意見がノエル推しに変わってきた事を告げた。
「……」
「睨んだって、結果は変わらないよ。元々、おかしな行動ばかりしているフィーナが悪いんだから、エルト様、そろそろ、特別席に戻っていただかないと困ります。本日の日程も終了に近づいていますので」
カインを睨みつけるフィーナ。しかし、カインは問題はフィーナにあると言い切るとエルトに特別席に戻るように言う。
「そうだね。ジーク、ノエル、フィーナ。おかしな事に巻き込んでしまって悪かったね。ライオとラースに代わり謝罪をさせて貰う」
「あ、あの。気にしないでください。頭をあげてください」
「あー、別に良い。エルト様に謝罪して貰うより、あの2人がこれから反省するかだからな。反省しない奴の見本がここにいるから、心から反省してくれる事を願うよ」
珍しくカインの進言に頷いたエルトは3人に向かって頭を下げた。その様子にノエルは慌て、ジークは王族であるエルトが自分達に頭を下げると言う行為に戸惑うも謝る人間はエルトではないと苦笑いを浮かべた。
「そう言ってくれると助かるよ。3人ともカインが今、言った通り、今日の予定はもうすぐ終わる。そうするとここはまた忙しくなると思うから、よろしく頼むよ。私は迎えがきたから戻るから」
「あぁ」
エルトが頭を上げた時、タイミング良くレインが運営席に顔を覗かせ、エルトはレインを連れて特別席に戻って行く。
「さてと、それじゃあ、3人はお仕事」
「まだ、やるのかよ?」
「まだやるも何も、たぶん、退場の時間が子供達が迷子になる1番の時間じゃないかな?」
「そうなのかよ」
「少なくとも王都でのイベントを手伝った時はそうだったね」
エルトが運営席を後にするとカインは3人に仕事に戻れと声をかけるが、これからが1番、忙しくなると聞き、ジークは大きく肩を落とす。
「ジークさん、頑張りましょう」
「あー、そうなんだけどな」
ノエルは武術大会に出場したわけでもないため、まだ、余力を残しているようでジークに笑顔を見せる。ジークは彼女の笑顔に少しだけドキッとしたようで顔を逸らして鼻先をかいた。
「まぁ、明日からは人員も増える予定だけど、3人が最初から最後までここに協力してくれるって事は助かるね」
「……ちょっと待ちなさい。どうして、明日もここを手伝う事になってるのよ?」
「慣れた人間がいると仕事の回転率が違うから、最初に言ったけど、ちゃんと働きに見合った対価もだす」
カインはどうやら武術大会が終了するまで3人をこき使う気のようであり、口元を緩ませるとフィーナは声を張り上げて抗議をするがカインが聞きいれる気がない事は明白である。
「まぁ、手持ちが増えれば、ノエルの防具で良い物が買えるかも知れないから良いけど、それになんかほっとけないってのもあるしな」
「そうですね」
ジークは悪態を吐きつつも、迷子になり不安そうにしている子供達を両親に置いて行かれた自分自身と重ねてしまっている部分もあり、小さくため息を吐くとジークの心境を感じ取ったのかノエルは彼に寄り添って頷く。