第173話
「小僧、舐めるな!!」
「……別に舐めてるつもりはない」
ジークが自分の向かい一直線に駆け出してくる姿にラースはジークの頭を狙って剣を振り下ろす。
その1撃は鋭く、騎士対一般人と言う事もあり、観客の多くは1撃で勝負が決まったと思ったようだが、ジークは魔導銃の銃身を重ね、その1撃を受け止める。
「ふん」
「……つう」
しかし、ラースの1撃はジークが予想していたより重くジークは弾き飛ばされる。ラースの剣を受け止めた両手はかなりのダメージを受けたようで、ジークは痛みに顔を歪めるも再び、ラースに向かい駆け出す。
「何やってるのよ!!」
「まぁ、魔導銃が使えないんだ。近づくしかないよね」
「カインさん?」
ジークの行動はフィーナには意味がわからないようで席から立ち上がり叫んだ時、疲れた表情のカインが現れ、空いている席に座る。
「カイン、休憩かい?」
「はい。あまり試合を観戦する時間も取れないんですが、大部、落ち着いてきましたし、少しだけ休憩する時間が取れそうです。しかし、まぁ、少しくらい策を考えろと言うべきか、何か企んでると思うべきか微妙な状況だね」
「あ、あの。カインさん、ジークさんが近づくしかないって言うのはどう言う事ですか?」
武術大会の運営側も、少しずつだが落ち着いてきたようで朝から走りまわっていたカインの事を気づかい休憩が与えられたようであり、カインは何度弾き返されてもラースに向かい駆け出すジークの姿にため息を吐き、ノエルは弾き飛ばされるジークの事が心配なのか祈るように手を合わせながら聞く。
「ジークは元々、魔導銃を使った遠距離攻撃がメインだからね。攻撃の手段がない」
「で、でも、ジルさんがカインさんに教わった体術があるって」
「だとしても、攻撃範囲の差、ジークは魔導銃が使えない状況じゃ、ラースのおっさんの懐に入らないと何もできない。簡単に言えば、その距離に入れなければ、ジークの負け確定」
ノエルの疑問にカインは表情を変える事なく答える。ジークは攻撃範囲を埋めるためには何度弾き返されても真っ直ぐに進むだけでしかないようであり、ノエルは不安そうな表情で舞台の上のジークへと視線を戻す。
「ちょっと、クズ、ジークがあんなおっさんに負けるって言うの? ジークは私より、強いんだから、あんなおっさんに負けるわけないでしょ」
「……フィーナ、言葉使いには気をつけろよ。だから、言ってるだろ。攻撃の距離の問題だって、フィーナとラースのおっさんは同じ系統の武器だから、得意な距離同士でかみあう。この間の事も聞いたけどスピードではフィーナの方が分が良いから押してたように見えただけだ。1撃の重さや耐久力じゃ、ラースのおっさんに分がある。それもわからないから、冒険者として1人立ちもできないんだ」
フィーナはラースと剣を交えた事で完全にラースを自分の下に見ているが、カインは彼女に向かい思いあがるなと言い切った。
「カインはラースが勝つって予想かい? そう思うんなら、魔導銃を解禁させてあげれば良かったんじゃないか? 確かにこのままだと、一方的にジークがやられて終わってしまうよ」
「そうとは言っていません。実際、ただ弾き飛ばされているだけのように見えますが、ジークはきちんと急所を外して、ダメージを軽減して行ってますか」
冷静に2人の戦力を分析しているカインの様子に、エルトはジークに厳しくしすぎではないかと苦笑いを浮かべるが、カインは別にラースが有利だと言ってはいないと首を振る。
「そこは経験の差かな?」
「経験なら、ラース様だって、負けていません」
「そうだね。ただ、死が近い場所での戦いを繰り返している方が、戦闘能力は引き上がると言うよ。ラースは毎日、剣の鍛錬は続けているが、王都はわりと平和だから、命をかけた戦いと言うのはあまりないだろうしね」
エルトもジークの勝機は充分にあると思っているようであり、視線を舞台に戻す。
「ジークは現状では命に危険を感じていないから止まらない。そこに何か感じてしまったら、ラースのおっさんに勝機はなくなる」
「確かに、いくら攻撃をしても向かってくる姿は不気味だね」
カインとエルトは何度もラースに弾き飛ばされているもののジークが受けているダメージ自体は弾き飛ばされている派手さほどないと言う。
「後は、あまり言いたくないけど……ジーク、狡賢いからな。どこで罠を仕掛けてるか」
「まぁ、派手に弾き飛ばされてるのも、ラースの油断を誘うものって可能性もあるね」
「……それはあんたに言われたら終わりね」
ジークがワンパターンな攻撃しかしないのは考えがある事だと思っているカインは小さくため息を吐き、エルトは頷くがフィーナはカインへと疑いの視線を向けている。
「小僧、しつこい。いい加減に負けを認めたらどうだ? たかだか、小さな村の薬屋風情が騎士には歯が立たない事がまだわからんか!!」
「……言っただろ。守らないと行けない者を見下すような。思いあがった奴には負けてやらねえよ」
ラースは何度も立ち上がるジークの姿に苛立ってきたようで、声を張り上げるがジークはそんな彼の様子をあざ笑うかのように言い、その姿はダメージなどまるでないと言いたげである。
「さてと、そろそろ、おっさんの攻撃に付き合ってやるのも飽きてきたから、本気で行かせて貰うかな?」
「その強がりごと、叩き伏せてくれる!!」
今までは本気など出していなかったと挑発的な笑みを浮かべるジーク。その姿にラースはジークを見下している事もあるためか、今度はラースがジークに向かい一直線に駆け出し、剣をジークの頭に向かい一直線に振り下ろす。
「……しっかりと釣られたね」
「まぁ、あそこまで簡単に釣られるとジークも気持ち良いだろうな」
「ジ、ジークさん、避けてください!!」
ラースの姿にカインとエルトは呆れたようなため息を吐くが、ノエルはあの1撃を喰らってしまえば、ジークがただで済まないと思ったようで席から立ち上がり、ジークに避けるように目一杯の声で叫ぶ。
「……まぁ、この状況を見てれば心配するか?」
「ぐっ」
しかし、ジークはこの瞬間を狙っていたようであり、振り下ろされる瞬間の剣を握っているラースの指を狙って魔導銃の銃身を叩きつけ。ラースは指に走る痛みに顔を歪めた。