第169話
「で、フィーナに何をさせる気だ?」
「ジーク、まだ、逃げる気なら、ラースのおっさんを呼んで、ペアで見回りをして貰うぞ」
「……わかった」
それでも逃げようとするジーク。カインは彼の様子にため息を吐くともう1枚のカードを切り、ジークはラースと一緒と言う事は避けたいため、観念したようで肩を落とした。
「まぁ、仕事って言っても実際は子守だけどな。こんなに迷子が出るとは思ってなくて人手が足りない」
「子守? ……ノエル、頑張ってくれ」
「は、はい。わかりました? ち、違いますよ。今はジークさんもカインさんに子供達のお世話を任されたんですよ」
迷子に関してはカインの予想をはるかに超えていたようであり、ジークとフィーナにもノエルと同様に迷子の世話を頼む。しかし、ジークは先ほど、子供達に囲まれたのが余程疲れたようでノエルの肩を叩く。
「いや、さっきのだけでこりた。こんな事をすると、絶対に試合にならない」
「それはそうかもね……と言うか、ここの人数が足りないのよ。初日でこれなら、絶対に決勝戦とか最終日とかめちゃくちゃよ」
「それはわかってるんだよ。こっちでも人員増加については検討している。けど、今日は間に合わない」
試合を控えた2人からすれば子守は重労働でしかなく、カインに抗議をする。カインはそんな事はすでにわかっており、改善には動いている。
「間に合わないって言ったってな」
「良いから働け。バイト料は出してやる。俺は俺でやる事があるんだ」
話し込んでいる間にも迷子は増えて行っており、ジークは頭をかく。カインは自分も手いっぱいのようで言いたい事だけ言うとこの場所を後にしようとした時、息を切らせた男性が2人駆け込んできた。
「カイン、助けてくれ。また、使い魔が子供に捕まった!!」
「だから、猫になんかするなって言っただろ!!」
「カイン、俺の使い魔が、使い魔が、子供達にいじめられてる。ど、どうしたら良いんだ? 助けてくれ」
「カエルなんか、子供にとって遊んでくださいって言ってるようなもんだろ!!」
駆け込んできた男性2人は使い魔で迷子探索をしていたようだが、子供達に使い魔が捕まってしまったようでどう対応して良いのかわからないようである。
「……使い魔が使えるって事は高位の魔術師だよな?」
「そ、そうだと思います」
「騎士だけじゃなく、魔導学園も色々と心配になってくるわね」
話の内容から駆け込んできた2人は魔術師だと言う事は理解できたようだが、色々と不安になる会話であり、3人は眉間にしわを寄せた。
「……取りあえず、使い魔を消せ」
「そ、そうだな」
カインはげんなりとした様子で男性2人に使い魔を消すように言い、男性2人は大きく頷くと目を閉じる。
「魔術学園って頭が良くても世間を知らないって事か? ……取りあえず、手伝うか? そうでもしないとまた、騒ぎが起きそうだ」
「そうね。流石にあのクズ相手でもかわいそうになってきたわ」
ジークは頭でっかちな部分もある生徒が魔術学園にいると判断したようであり、世間知らずと組まされるよりはまだ、子供達の相手の方が良いと判断したようで視線を子供達に向けると子供の人数はさらに増えている。
「カイン、仕方ないから、ここは手伝ってやるから、試合時間の連絡とこれ以上の厄介事は持ってくるなよ」
「試合に関してはきちんとする。だけど、厄介事に関しては約束できない」
「……だろうな」
「ジーク、どうして、私の顔を見て、イヤそうな表情をするんだい?」
ジークの言葉にカインは首を振った後に男性2人を連れて、他の場所に移動しようとした時、まるで、タイミングを見計らったかのように仮面をつけ、顔を隠したエルトが現れた。
「……厄介事を持ってくるイメージしかないからな」
「そ、そうですね」
「……何がしたいのかわからないわ」
ジーク、ノエル、フィーナの3人はエルトが登場した事に不安しか感じないようであり、眉間にしわを寄せるも3人の表情を見てエルトはくすくすと笑っている。
「特におかしな事をしにきたのではないよ。ただ、カインの仕事の様子を見に来ただけだよ」
「……無自覚か?」
「そうね。少なくともエルト様が1人で歩きまわっている事にクズと騎士団は大変な騒ぎになってるでしょうからね」
エルトはカインの働きぶりを見に来ただけだと言うが、彼が動く事でカインや騎士団にかかる負担は大きくなる事は誰の目から見ても明らかであり、ジークとフィーナはエルトに疑いの視線を向けた。
「だから、何もやる気はないって、カイン、観客席の様子をみたいから、護衛を任せるよ。レインは誰かを連れて行けとうるさいから」
「あ、あの。エルト様、カインさんは今、既に手がつけられないと思うんですけど、実際、カインさんは現場監督なわけですし」
「……と言うか、レインを連れて歩け」
「だから、隣に騎士鎧を身に付けた人間がいると目立つだろ」
エルトは観客席からルッケルの人々の様子を視察したいようでカインを護衛に付けようとしているようだが、カインにはそんな時間は皆無である。
「……ジーク、任せた」
「ちょっと待て!? こっちに丸投げはないだろ!!」
カインは眉間にしわを寄せたまま、面倒になったようでエルトをジークに押し付けようとし、予想外の流れにジークは声をあげた。
「私はジークでも構わないよ。魔法的な視点で見れば、カインは使い魔で会場内を見ているわけだし、カインには遠目で見て貰った方が良いだろうしね。それじゃあ、行こうか。ジーク」
「ま、待ってくれ。俺はここで子供達の世話をすると言う仕事が」
「ジーク、行ってらっしゃい」
「ジークさん、頑張ってください」
話は決まったようであり、エルトはジークの首根っこをつかみ歩きだす。ジークは当然、文句を言おうとするがノエルとフィーナはエルトに関わり合いたくないようで笑顔で2人を見送る。