第168話
「……盛況だな」
「……そうね」
女の子がはぐれないように手をつないだジークとフィーナが運営に顔を出すとすでに運営は迷子センターのように小さい子供達で溢れており、2人は顔を引きつらせる。
「ジ、ジークさん、フィーナさん」
「ノエル? どこだ?」
「こ、ここです。た、助けてください」
その時、2人を呼ぶノエルの声が聞こえ、当たりを見回すが直ぐにノエルを見つける事はできず、ジークがノエルの名前を呼ぶ。ノエルは精一杯手を上げたようで、子供達の集まっている場所の中から彼女の手が見えた。
「……何があったの?」
「とりあえず、ノエルもあいつに捕まったんだろ。取りあえず、ノエルのところに行ってみるか?」
「そうね。この子の事も聞かないといけないし」
状況の理解できないようで首を傾げるフィーナ。ジークは原因はカインにあると決めつけるとフィーナを促し、女の子と一緒にノエルが埋まっている場所を目指す。
「お姉ちゃん、このペンダント、ちょーだい」
「ダ、ダメです。これは大切なものなんです」
「お姉ちゃん、彼氏いるの?」
「い、いないです!?」
ノエルは子供達の面倒を見ているようであるが、はたから見ると完全に子供達に遊ばれている。
「……まぁ、何だ。頑張れ。ノエル」
「ジ、ジークさん、み、見捨てないでください!?」
その様子に苦笑いを浮かべるジーク。ノエルは見捨てられると思ったようで声を上げた。その瞬間、子供達の視線はノエルからジークに移った。
「……なんか、イヤな予感がする」
「ジーク、知ってる。あんたのそう言う予感って高確率で当たるのよ」
自分に集まっている子供達の視線にジークは眉間にしわを寄せる。フィーナは子供達の興味がジークに移った事を察すると手をつないでいた女の子と一緒にジークから距離を取った。
「そんな事、何度もあってたまるか!?」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんの彼氏? そうでしょ?」
「兄ちゃん、これ何? 銃? 貸してよ」
「ちょっと待て!? それは遊び道具じゃない!?」
その瞬間に、ノエルを取り囲んでいた子供達はジークに押し寄せ、子供の1人はあろうことかジークの魔導銃を腰のホルダから抜き取ろうとする。
「……避難して良かったわ」
「……うん」
子供達に飲まれたジークの様子にフィーナは胸をなで下ろし、女の子は顔を引きつらせた。
「フィ、フィーナさん、どうかしたんですか?」
「ノエル、お疲れさま。ちょっと、あのクズから、この子をここまで連れて来てくれって言われたのよ。それで、ノエルはこんなところで何をしてるの?」
周囲から子供達がいなくなった事でノエルはふらふらと立ち上がるとフィーナに歩み寄った。ノエルの様子にフィーナは苦笑いを浮かべると運営スタッフに女の子を引き渡した後、ノエルがこんなところにいる理由を聞く。
「えーと、カインさんが忙しそうでしたので何かお手伝いする事はありませんか? って聞いたら……」
「変な事を言うから、使われるのよ。まぁ、私やジークは変な事を言わなくても捕まったけど」
言いにくそうな表情をするノエル。彼女の様子にフィーナは全てを悟ったようで肩を落とした。
「そ、そうみたいですね」
「と言うか、ここにいて大丈夫なの? 試合とか見逃さない?」
「そこはカインさんがジークさんとフィーナさんの試合の時は休憩をくれるって言ってくれましたし、きっと、大丈夫だと思います」
ノエルはカインとの間で交わされた約束が本当に守られるのか心配になってきたようで少しだけ困ったような表情をする。
「そうだと信じたいわね」
「そうですね」
「あのなあ。休憩時間くらいしっかりと確保する……」
「カインさん、大丈夫ですか!?」
ノエルとフィーナの間に流れる微妙な空気を噂の当人が破るが、カインは働きづめのようでふらふらとした足取りでこの場所に現れ、カインの様子にノエルは驚きの声をかけて駆け寄る。
「いい気味だわ」
「……フィーナ、全部、終わったら、覚えておけよ」
「私は何も言ってないわ」
カインのぼろぼろの様子にフィーナは気分を良くしたようで小さく口元を緩ませるが、カインに睨まれ、直ぐに知らぬ顔をする。
「……脱出、酷い目にあった」
「ジーク? すっかり忘れてたわ」
カインに遅れて子供達から脱出したジーク。フィーナはノエルと話し込んでいた事もあり、ジークの事は頭の片隅からも忘れられていたようで苦笑いを浮かべた。
「……子供、強すぎだろ」
「そ、そうですね」
試合前にボロボロになっているジークの様子にノエルは先ほどまで彼と同じ状況だったため、同意を示す。
「と言うか、小さい子を連れてこんなところにくるな。迷子になるのなんて目に見えてるだろ」
「確かにそうよね」
「ルッケル自体も鉱山都市だから、あまり、娯楽自体がないから仕方ないんだよ」
ジークは子供達の両親のモラルの低さにため息を吐くが、この復興イベントを計画したカインはルッケルと言う街の特色だと頭をかいた。
「それで、ジーク、フィーナ」
「……悪いな。俺は出場選手だから、色々と忙しいんだ。参加選手の戦い方を見て戦術を立てないといけないからな。手伝いなら、戦術とか全く関係ないフィーナに任せてやれ」
「ジーク、ここで手伝わないなら、ラースのおっさんにジークはおっさんを倒すために休憩して体調を万全にしているって言ってくるぞ。騎士は見回りとか手伝っているなか、ジークは休憩とな。あのおっさんの事だ。それは対等の勝負ではないとか騒ぎ立ててつけ回すんだろうな。なぁ、俺のお願いを聞いてくれるよな?」
「それはお願いじゃなく、脅しだ」
ジークとフィーナに当然のように仕事を手伝わせようとするカイン。しかし、ジークは面倒事はゴメンだと言いたげにフィーナにだけ仕事を押し付けようとするが、カインの方がやはり何枚も上手であり、ラースを引き合いにしてジークを脅す。
「……それより、ジーク、今、私を売ろうとしたわね」
「気のせいだ」
「気のせいじゃないわよ!!」
「うるさい。子供が泣くから静かにしろ。話もすすめられないだろ」
フィーナは額に青筋を浮かべながら、ジークの肩をつかむがカインは彼女の行動に眉間にしわを寄せる。