第167話
「1回戦まで、まだ時間あるんだよな」
「そうよね」
開会セレモニーが終わり、集合場所に戻ると選手控室と名前が変わっている。ジークとフィーナは1回戦まで時間があるようで対戦表をもう1度、広げる。
「と言うか、ここに残ってるとあのおっさんが現れそうでいやだな。試合も見たいし、会場の方に上がってみるか?」
「それもそうね。エルト様も私達にも席を用意してくれたら良いのに」
会場での立ち見は遠慮したいようでフィーナはエルトに自分達の席も頼まなかった事を後悔したようで大きく肩を落とす。
「いや、それで、ライオ様の近くになっても困るから、変に巻き込まれているせいで、ライオ様とも知り合ったわけだけど、元々の事を考えるとライオ様に近づかない方が良いんだよ」
「それもそうね。変な情が移っても困るし」
「まぁ、それに関しては心あたりがある……と言うか、今更だけど、ノエル、村に溶け込みすぎだろ」
「ええ、完全に村に溶け込んでるわね」
しかし、ジークは特別席近くにライオがいた場合を考えて首を横に振り、その言葉にフィーナはジオスの村に完全に溶け込んでいるノエルの顔が思い浮かんだようで、2人は眉間にしわを寄せた。
「とりあえず、ここに居ても仕方ないだろうし。試合を見てくるか?」
「そうね。ある程度の実力や戦い方もわかるだろうし」
「……フィーナは戦術も何もなく、ただ、剣を振りまわすだけだろ」
参加者の実力を見極めたいと言うフィーナ。ジークは参加者の実力がわかってもフィーナにはあまり関係ないとつぶやく。
「ジーク、何か言った?」
「いや、何も」
「ちょっと待ちなさい!!」
そのつぶやきがフィーナに聞こえたようで、彼女の額にはぴくぴくと青筋が浮かび始める。ジークはフィーナの逆鱗に触れていようがあまり気にした様子もなく、1人で歩き始め、フィーナはジークを追いかける。
「っと、おお、盛り上がってるな」
「待ちなさいよ!! って、凄いわね」
観客席へと上がるとすでに舞台では1回戦が繰り広げられており、観客は立ち上がり、興奮している様子がわかる。ジークに遅れてきたフィーナは観客席の盛り上がりにジークへの怒りも吹き飛んでしまったようである。
「やっぱり、立ち見だな。それも大部、後の方で」
「そうね。ここに立ってたら邪魔よね」
「カインなら、使い魔、飛ばして見やすいところで見てるんだろうな」
「……そんなヒマあるか?」
「ちょ、ちょっと、何なのよ!?」
観客席を見回すが空席は見つからず、ジークとフィーナは観客席の後方に向かおうとした時、フィーナの頭の上にカインの使い魔の小鳥が舞い降りた。
「なんだ? 嫌がらせに来たのか?」
「残念ながら、そんなにヒマじゃないんだ。これが」
カインの使い魔の登場に眉間にしわを寄せるジーク。しかし、カインは忙しいようで彼の口からはため息が漏れた。
「なら、ここに来ないで仕事をしろ」
「何を言ってる? 現在進行形でお仕事中だ……ジーク、フィーナ。ちょっとこっちに来てくれ」
「イヤよ!!」
「良いからついて来い。何もしない」
「そ、そう言うなら、くちばしで頭をつつかないでよ!?」
「わかったから」
ジークもフィーナもはカインには関わり合いたくないようで、彼の誘いを断るがカインの使い魔はフィーナが頷くまで彼女の頭を突き続ける気のようであり、ジークはその様子にため息を吐くと意地を張っていても仕方ないと思ったようでカインの指示に従うと言う。
「それで、俺達は何をすれば良いんだよ」
「そこに子供がいるだろ?」
「ええ」
「迷子だから、運営まで連れて行ってくれ。使い魔を使える人間に手伝って貰ってるけど、あまりに迷子が多すぎて手が足りない」
観客席では迷子が多発しているようであり、カインは観客席の上空から使い魔で迷子を捜しているようである。
「……お前、結構、色々としてるんだな」
「お祭り騒ぎは誘拐も多いからな。子供は狙われる事が多いのに騎士を派遣すると怖がって子供が逃げる事が多いんだよ。騎士より、性別上は女に分類されるフィーナの方がまだマシだと思ってな」
「私は正真正銘、女の子よ!!」
「まぁ、確かにあのおっさんみたいのに声をかけられるとそりゃ逃げるよな。おい。お父さんとお母さんはどうしたんだ?」
騎士はあまり子供達からは人気もないようであり、フィーナはカインにバカにされた事もあり声をあげるが、ジークは暑苦しいラースの顔を思い浮かべたようでポリポリと首筋をかくと両親から離れて不安になっているのか泣き出しそうな女の子に声をかける。
「お父さん、どこか行っちゃた……フィーナお姉ちゃん?」
「え? あれ。この子」
女の子は泣き出しそうな顔で首を振った後にフィーナがいる事に気が付き、彼女の足に抱きつく。
「フィーナ、知り合いか?」
「知り合いって、ジークも知ってるわよ。この間、リックさんの診療所に駆け込んできた子」
「……あぁ。そう言われるとそうだな。あの時は解毒薬の調合であまり寝てなかったから、記憶があいまいな部分が多いんだよな」
「確かに、あんた、ほとんど寝てなかったもんね」
「あぁ」
女の子は毒ガス騒ぎを知らせにきた女の子であり、ジークは薬草作りに専念していたため、記憶からは薄れているようで眉間にしわを寄せた。フィーナはボロボロだったジークの姿を思い出したようで苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、カイン、運営まで連れて行ったら良いのか? このまま、この子の両親を探した方が良いのか?」
「あぁ。運営から、試合の切れ目で放送をかける。迷子を預かっている場所もあらかじめ、通知してあるから、両親が引き取りにきてもいるし、連れてきてくれれば、こっちで対処する。下手に連れて回ると余計にややこしくもなる可能性もあるし」
「わかったわ」
女の子はフィーナがいる事で不安が薄れているようであり、その表情にカインの使い魔は2人に任せて良いと判断したようで上空に飛びあがって行く。
「行くか?」
「そうね」
ジークとフィーナは女の子に運営まで連れて行く事を説明すると女の子は小さく頷き、2人は女の子を連れて歩き出す。