第166話
「……と言うか、魔導銃の意味がないな」
「そうね」
「元々はその名の通り、武術大会だからな。弓や銃、魔法と言ったものをメインに戦う人間は対象外だろう」
受付を終えたジークとフィーナの2人は救護室でリックに簡単な武術大会の説明を受ける。その中で、武器を魔法で特殊加工すると言っていたものは一時的に斬撃と言った刃での攻撃を打撃扱いにする魔法を武器に付与する物であり、魔導銃と言う特殊な武器を使うジークには魔導銃での打撃攻撃しか認められないと言う。
「それなら、剣や槍も木剣に変更すれば良いだろ。あのおっさんの動きを止めて遠距離攻撃で終わらせようと思ってたのによ」
「それもそうよね」
「まぁ、武器は使用者によって持ち手等を自分の使いやすいようにしているものも多いからな」
ラースと近距離で戦う気のなかったジークは面倒な事になったとため息を吐く。その様子にリックは苦笑いを浮かべる。
「昨日、カインはそんな事を言ってなかったし、あいつの嫌がらせにも思えるんだよな」
「いや、これは最初から決まっていたはずだぞ。そう言う話で救護室に詰めてくれと言われていたからな」
「そうなのか? ……面倒だな」
カインの嫌がらせかと疑うジーク。その様子にリックは元々、決められていた事だと言うとジークは乱暴に頭をかく。
「と言うか、あのおっさんは騎士のくせにルールを覚えてないのね……本当に今の騎士団は大丈夫なの?」
「それに関してはもう何も言えないな。エルト様とカインがどうにかするだろ」
「お前達は何を言っているんだ?」
ジークとフィーナの2人は改めて、ラースの頭の弱さを再認識したようであり、大きくため息を吐くが、ラースと面識のないリックは首を傾げる。
「まぁ、リックさんは気にしなくて良いです。しかし、どうするかな? こんな大会の結果なんて、正直、どうでも良いけど、あのおっさんに負けるのだけは避けたいし」
「ジーク、あのおっさん相手だけじゃなく、他も真面目にやりなさいよ。剣で斬られないからって安心してない?」
「安心なんかするか。剣だろうが打撃系の武器だろうが、ノエルの補助魔法がない俺は1撃喰らったら生きている自信がない」
「……それを言い切るのはどうなのよ」
ジークはラースとの勝負の戦術を考えようと両腕を組み、頭をひねり始めるが、フィーナはジークのやる気のなさを心配しているようで真面目に取り組むように釘を刺す。
「まぁ、それはここで考えるな。それにそろそろ。始まるぞ。参加選手は移動しないといけないだろ?」
「あぁ。そんな時間か? それじゃあ、ちょっと行ってきます。フィーナ」
「はいはい」
開会セレモニーの時間が近づき、リックは2人に会場へ移動するように促し、ジークとフィーナは救護室を出て行く。
「と言うか、改めて、よくこんなものを短時間で作ったな……ルッケルの人口を軽く上回ってるんじゃないのか?」
「本当よね。そして、どこから、こんなに観客がきたのかしら」
会場に移動したジークとフィーナは参加者と観客席の人達を見て、人の多さに顔を引きつらせる。
「お、ジークにフィーナ。まさか、お前達も参加するなんてな。名前を見つけた時は驚いたぜ」
「ジーク、とうとう、閑古鳥の鳴いていた薬屋は閉めて、冒険者に転職か?」
「……そんな縁起でもない事を言わないでくれ」
その時、シルドの店にいつもいる顔見知りの冒険者達が2人を見つけて声をかけてくる。
「ジーク、シルドから聞いたんだけど、これにカインが1枚も2枚も噛んでるって本当か?」
「あー、どちらかと言えば主犯?」
「主犯って、あいつは魔導学園の学生だろ。魔導学園始まって以来の天才とは言われてるって噂はジオスまで流れてきてるけど、そこまでの権力もないだろ」
「天才より、天災の間違いよね」
ジオスの村ではカインがルッケルの復興に大きく関わっている事は知られているが、詳しくは知られていないため、ジークに説明を求めるもフィーナはカインの評価が信じられないようで眉間にしわを寄せた。
「……そう言われればそうだな。あいつ、どうやって、エルト様と知り合ったんだ?」
「確かに、謎が増えるわね」
ジークもフィーナもカインとエルトがどんな風に知り合ったか聞いておらず、王族のために用意された特別席へと視線を向ける。
「エルト様にライオ様、もう1人は誰?」
「……あれがシュミットじゃないのか?」
特別席にはエルト、ライオの他にもう1人青年が座っており、ジークはその青年がシュミットではないかと言う。
「……あれがシュミット? 流石に遠くて顔は見えないわね」
「まぁな。それより……こんなところにホイホイと出てくるなんて迂闊だな」
遠目では青年の顔まではっきりと見る事はできず、フィーナは首を傾げるとジークはカインの手のひらの上で完全に踊っているであろうシュミットが哀れなようで小さくため息を吐いた。
「そうね。まぁ、迂闊じゃなかったら、こんな穴だらけの計画も立てないでしょう」
「フィーナ、お前、その計画自体も理解できてないんだから、わかったような顔で言うなよ」
「何を言ってるのよ? それくらい、理解してるわよ」
「そうか? なら、視線を逸らすな」
ジークの言葉に呆れたような表情で頷くフィーナ。しかし、フィーナも計画に関しては理解しているかどうかは怪しい。
「おい。ジーク、フィーナ。そろそろ、始まるぞ」
「あ。ジーク、始まるって」
「……逃げやがったな」
その時、開会セレモニーが始まる時間になったようで花火が打ち上がり始め、フィーナは自分の都合が悪くなってきたため、逃げるように言い、ジークは彼女の態度に眉間にしわを寄せる。
「ほら、ジーク、始まるわよ」
「あぁ……まぁ、あいつが全力でやってるんだ。少しは真面目にやるか」
フィーナがもう1度、ジークに声をかけると会場内にはファンファーレが響き始め、その参加選手の視線が王族の特別席に集まるなか、ジークは裏方に徹しているであろうカインの顔を思い浮かべたようで小さく口元を緩ませた。