第160話
「……ノエル、隠れると俺なら、どうでも良かったって感じるんだけど」
「そ、そんな事はないです!?」
ジークはノエルの行動で多少なりも傷ついたようであり、肩を落とす。その様子にノエルは慌てて否定するがどこか説得力は欠けている。
「小僧、小娘、お前達は何がしたいんだ?」
「まあ、色々とあるんですよ……あの。これ、何ですか?」
「そこで、渡された物だが、小娘には役に立つんではないか?」
アーカスの手にはジークやノエルの予想したような怪しげなものは無く、1枚の紙切れが握られており、アーカスはその紙切れをジークに押し付けた。
「ジーク、それ何?」
「あぁ。えーと、『ルッケル武術大会』? 何だこれ?」
「それは今回のイベントの1つだね。冒険者や騎士達が参加する1対1のトーナメント形式の大会だよ。それなりに目玉イベントにしていたみたいだけど、ジークは知らなかったのかい?」
ジークの手の紙切れにフィーナは興味を持ったようで、ジークを急かす。紙切れは今回のイベントの1つである武術大会のチラシであり、ライオが簡単な説明をする。
「知らなかったと言うか、興味がなかった」
「そうなのかい? 腕試しにはちょうど良いと思うんだけど」
「腕試しも何も俺は冒険者じゃないんだから、そんな事をする気にもならない」
腕試しになどジークは興味もないため、最初から眼中になかったようでありため息を吐いた。
「それで、この腕試しがノエルの防具に何の関係があるの?」
「……優勝賞品を見てみろ」
「えーと、ジーク、指、邪魔」
「悪い」
「確か、優勝者には賞金と精霊のマントが与えられるはずだけど」
アーカスの言葉で武術大会の優勝賞品をフィーナは覗き込むが、王子であるライオは賞品を知っているため、直ぐに口に出す。
「……なんか、意味ないわね」
「そう言うな。それより精霊のマントって言ったか? 良いものなのか?」
ライオに優勝賞品をばらされた事がフィーナは面白くないようで頬を膨らませると、ジークはその様子に苦笑いを浮かべて、優勝賞品である『精霊のマント』について聞く。
「魔法使い系の人間にとっては魅力的なものだと思うけど、マントには精霊の力が込められており、魔法の補助をしてくれるし、今のノエルさんの格好よりは少しだけど防御力はあると思うけど」
「そうなのか? だけどな。優勝なんか無理だろ。それに……」
ライオの説明にジークは魅力を感じるも優勝などできるわけがないと思ったようで頭をかく。
「ジーク、あんた、目立ちたくないとか思ってるわね?」
「そんな事ないぞ。と言うか、騎士や冒険者が出場しているんだ。優勝なんか無理だろ」
「いや、さっきのジークを見てると狙える気もするね」
フィーナはジークがまた目立ちたくないと言うだけで可能性を潰そうとしていると思ったようでジト目で睨む。そんな彼女の視線にジークは視線を逸らして否定するが、ライオは先ほどラースを沈めた様子を思い出して苦笑いを浮かべた。
「魅力的ではあるけど、優勝なんか狙えない。出たかったら、フィーナが出たら良いだろ……1対1ならバカでもどうにかなる」
「……ジーク、今、何か言った?」
「いや、何も」
ジークは優勝は難しいと思っているため、出場する気もないようであり、フィーナに参加するように言った後に彼女の事をバカにする。
「と言う事で、この話は終わり」
「逃げるか。小僧!!」
「ラ、ラースさん?」
不参加を決め込もうとジークは話は終わりだと言った時、話を聞いていたのかラースがふらふらと立ち上がり、ジークを恫喝する。
「……このおっさんの事を忘れてたな」
「そう言えば、居たわね」
ラースの存在などすでに頭の中になかったようでジークとフィーナは眉間にしわを寄せる。
「ラースさん、逃げるってどう言う事ですか? 別に出場は個人の自由だと思います」
「黙れ。小娘!! この小僧は正々堂々戦う事もない卑怯者だ!!」
「……ライオネット、本当に王都の騎士は大丈夫なのか? そろそろ、頭の固いおっさんは老害にしかならないから、首を切ってやったらどうだ?」
「……父上に提案したいと心の底から思うけど、ラースが納得するかどうか」
ラースは自分がジークに言いがかりを付けた事などすでに頭の片隅にもないようであり、ジークを卑怯者と罵る。しかし、ジークに取ってはラースは頭のかわいそうな年寄りでしかないようであり、ライオにラースの進退について提案を始め出し、ライオもジークの意見に同意を示す。
「小僧、武術大会で正々堂々と決着をつけてやる。貴様のような若造に後れを取る私ではない!!」
「……心底、どうでも良いんだけど」
「小僧、逃げる気か!!」
「逃げるも何も俺は武器は魔導銃だし。どうせ、出たって卑怯だなんだって言うだろ」
自分のプライドを守るためにジークを武術大会に引っ張り出そうとするラースの様子にジークのやる気はさらに減少して行く。
「当然だ!! 騎士なら当然、剣での勝負に決まっておろう」
「……騎士って卑怯だな」
「……全員がラースのような騎士ばかりじゃないから、一まとめにしないでくれないかい」
ラースは自分の得意な剣で勝負だと叫ぶ。ジークはその様子に今まで持っていた騎士の評価が大暴落して行き、流石のライオも申し訳なくなってきたようである。
「……何だ? あのうるさい小僧は?」
「誰が小僧だ!! 私にはラース=オズフィム。騎士を愚弄するとは何事だ!!」
「オズフィム? ……何だ。オグのところの小僧ではないか」
騒ぎたてているラースの様子にアーカスは鬱陶しそうに眉間にしわを寄せると、彼の言葉が気に入らなかったようでラースはアーカスを怒鳴り付けようとするがアーカスはラースを小僧だと言い切った。
「オグ?」
「ラース様の父親の名前です。先々代の国王を支えた騎士団長です」
「……アーカスさん、どこで騎士団長と繋がってるんだ?」
「それより、騎士団長の息子があれって、報われないわね」
アーカスの口から出た名前にフィーナが首を傾げると騎士の1人がその名前に心当たりがあったようであり、ジークは首を傾げた。しかし、フィーナに取ってはアーカスの過去より、ラースが残念すぎる事に大きく肩を落とす。