第159話
「何するんだ!! アーカスさん? こんなところで何をしてるんですか?」
「と、止まったわ」
「タ、タフだね。ジーク」
頭に走った鈍い痛みに後を振り返るジーク。その視線の先には予想外の人物が立っており、怒りより疑問の方が勝ったようで首を傾げる。フィーナはジークが止まった事で身の危険がに安堵したようで胸をなで下ろし、ライオはジークの頑丈さに顔を引きつらせた。
「試したい物があってな。小僧が来ないから、仕方なく村へ行ったら、シルドにルッケルだと言われてな」
「……また、俺を実験台にするつもりですか?」
「別に危険なものではない」
「それなら、アーカスさんが自分で実験すれば良いじゃないですか?」
アーカスがわざわざ、ルッケルに訪れた事にジークは嫌な予感しかしないようで顔を引きつらせ、後ずさりをする。
「さっきまでのジークが嘘みたいだね」
「まあ、アーカスさんはジークが最も苦手とする人だからね」
「あんた達、もう少し、他人の事を考えないとまた同じ目に遭うよ」
身の危険が過ぎ去った事でフィーナとライオはジークが受け身になっているのが楽しいようで口元を緩ませ始めており、ジルは呆れ顔でため息を吐いた。
「物には向き不向きと言う物があってな。残念ながら私が使うには向いていない」
「……なら、自分に向いているものを優先的に作ってください」
「心配するな。爆発はしない」
アーカスの実験台から逃げ出したいジーク。アーカスは彼の様子を気にする事なく持ってきた荷物を漁り始める。
「……普段は爆発するのかい?」
「……爆発で済めば良いわね」
目の前で行われる意味不明なやり取りをどうして良いのかわからないライオの疑問にフィーナは首を横に振った。
「さてと、俺はちょっと新しい防具を見に行ってくるから」
「何だ。ちょうど良いじゃないか?」
「ちょうど良い?」
ジークは逃げ出そうとするが、彼の言い訳にアーカスはタイミングが良かったと言い、ジークはその言葉で立ち止まってしまう。
「あぁ。先日、ルッケルで買ってきて貰ったもので作ったんだが」
「これって胸当てですか?」
「……イヤ、前回は金属材料を買ってないんだけど」
アーカスのカバンからは金属のようなものが使われた胸当てが出てくるが、ジークは先日。ルッケルで買ってきたものからこの胸当てができる事は想像できないようで眉間にしわを寄せた。
「あぁ。特殊な技法を使って硬度を出しているが、金属に比べると軽いからな。動きの邪魔にはならないはずだ」
「いや、確かにそうだけど」
「レザーアーマーの胸当て版ってとこ?」
「まぁ、そんなところだ。せっかくだからな。この間のポイズンリザードの皮を使わせて貰った」
「……それって、毒は大丈夫なのか?」
金属に見えたのはポイズンリザードの皮膚を加工した物のようであり、ジークは常にポイズンリザードの毒の血液に触れていた皮に毒が残っていないか不安なようで小さくつぶやく。
「安心しろ。それについては問題ない」
「それって、他に何かあるかのような言い方だな」
「確かにそうだね」
アーカスの言葉に何か裏がある気がするようでジークは頭をかくとライオはその言葉に同意を示す。
「変に疑うな。ただ、試したい事はなかなか試せないものでな。装備しているものを毒から守る効果があるようなんだが、あのクラスの毒ガスは早々お目にかかれないからな」
「……あんなものに何度も遭遇してたまるか」
「そ、そうですよね」
目的を達成できない事にアーカスはつまらなさそうにため息を吐くが、ジークとノエルはポイズンリザードと対峙した事を思い出したようで顔を引きつらせた。
「ポイズンリザードの皮? 何で、ジーク達がそんなものを持ってるんだい? もしかして、ポイズンリザードを倒したのってジーク達?」
「カ、カインから分けて貰ったんだ。それだけだ」
ライオはルッケルでポイズンリザードが出現した事とそれを退治した人間がいる事を知っているようで1つの疑問を口に出すが、有名になりたくないジークは直ぐに否定する。
「確かにカインさんなら、それも可能だね。冒険者達と協力してポイズンリザードを倒したって報告だったし、冒険者達も有名になると動きにくいって理由で名前と顔出しは遠慮したって話だしね」
「……まぁ、確かに一緒だったと言えば一緒だったわね」
ライオも報告書には目を通しているようで、ジークの言葉に取りあえずの納得をするが、フィーナは納得がいかないようで眉間にしわを寄せた。
「ジークさん取りあえず、身に付けてみたらどうでしょうか?」
「身に付けたって別に俺は今、戦うわけじゃないし、それに……」
「良いから、付けてみろ。別に危険はないと言っているだろ」
ノエルの提案にジークはやはり抵抗があるようであり、アーカスはため息を吐く。
「ジーク、結局は魔導銃と一緒でしょ。何を嫌がってるのよ」
「いや、確かにそうなんだけどさ……」
胸当てを警戒しながら覗きこむジークの姿にフィーナは踏ん切りがつかないジークの背中を押す。ジークはしぶしぶと胸当てを手にすると服の上から胸当てを付ける。
「どうですか?」
「まぁ、動きの邪魔にはならなさそうだけど」
ジークはポイズンリザードの革と言う事に抵抗があるようだが、身につけると両肩を回し、動きの邪魔にならないか確認を取り、まったく邪魔にならないようで忌々しそうな顔をする。
「動きの邪魔なら体良く断れたんだろうけどね」
「……まったくだ」
「あの。ジークさん、せっかく、アーカスさんが作ってくれたわけですし。それに防具を探していたわけですし、ちょうど良いじゃないですか」
ジーク考えていた事がわかったようでライオは苦笑いを浮かべる。ノエルはいつもアーカスに振り回されているジークの気持ちもわかるようだが、特におかしなものでもなさそうなため、ジークをなだめようと声をかける。
「そうよ。ジークの分にお金を使わなくて済むんだから、ノエルの分で良い物を変えるでしょ」
「まぁ。確かにその通りなんだけどな」
「何だ? 小娘の防具も探しているのか? それなら」
「わ、わたしにも何かあるんですか?」
ノエルの防具も探していると聞いたアーカスは再び、荷物を漁り始める。ノエルは自分の事になると抵抗があるようでジークの背中に隠れた。