第156話
「うーん。そうだとしても、あの3人が一緒では私が見て行きたい場所が見られないだろうしな。ここまでの遠出はできないから、遠隔地の統治方法は民の顔を見ないとわからないと言うから、せっかくの機会なわけだし」
「いや、そう言う問題じゃないくて」
ライオは後学のためにルッケルの民衆の様子をみたいと言うが、ジークは期待していない答えにげんなりとした様子で言う。
「あ、あの。ジークさん、フィーナさんは大丈夫なんでしょうか? 止めなくて良いんでしょうか?」
「あー、大丈夫なんじゃないか? 何か、押してるみたいだし。それに犯罪者になるのはあいつだけだし」
「それは違うんじゃないでしょうか?」
ノエルは騎士と剣を合わせているフィーナを止めようと言うが、ジークはこれ以上、巻き込まれる気はないようで、フィーナを見放す。
「犯罪者のくせに生意気な。小娘だ」
「犯罪者? 変な因縁つけてきた人間が何を言ってるのよ?」
「……王都の騎士って、色々と大丈夫なのか?」
フィーナっと騎士の中にはおかしな敵対心が現れており、ジークは騎士に思慮深さの欠片もないため、大きく肩を落とした。
「まぁ、彼はラースと言うんだけど、騎士の中でも真っ直ぐな人間で忠義に熱いと父上が仰ってた」
「……世の中はそれを脳筋って言うんだ。もう少し、マシなお目付け役を付けられないのか? むしろ、暑苦しいから、距離を置かれたのか?」
「可能性は高いね。民の上に立つなら、多少危険であってもそこに飛び込み、多くを学ばなければいけない。それを危険なところに行ってはいけないでは何もわからない」
フィーナと剣を合わせている騎士『ラース』は有能なようだが、ジークはそう思えないようでため息を吐くとライオは自分の考えもあるようで小さく頷く。
「……」
「どうかしたかい?」
「いや、聞いてた印象と違うと思ってな」
ジークはカインとエルトから聞いていたライオと実際の彼の印象が違っていると思ったようであり、ポリポリと首筋をかく。
「印象?」
「いや、割と脳筋王子とインテリ王子って噂が片田舎にも聞こえてくるからな」
「インテリ? そんなつもりもないんだけどね。何をするにも情報収集は必要だと思ってるけど」
「あの。ジークさん、それより、いつまで、この状況でいたら良いんでしょうか?」
首を傾げるライオの様子にジークは視線を逸らすとノエルは騎士に囲まれている居心地の悪さに耐えきれなくなったのかジークの服を引っ張る。
「いつまでと言っても、ライオ王子次第だしな。早く、状況を説明してくれないか? このままだと、フィーナが犯罪者になりそうな気もする」
「あぁ。でも、止まらなさそうだから……直情的だし」
「それに関してはフィーナも一緒だ」
ライオは既にフィーナと対峙しているラースの説得は諦めたようでため息を吐いた後、残りの2人の騎士に事情を説明を始めた。
「ライオお……」
「ライオネット」
「……わかりました」
ライオから事情を聞き、騎士の2人は納得したようで小さく頷いた。それでも立場上、苦言をしないわけにもいかず、ライオの名前を呼ぼうとする。しかし、ライオはあくまでも王子としてではなく、1個人としてルッケルを見学したいようで騎士に呼び方を考えるように言う。
「それで、あっちを止めて欲しいんだが」
「……ライオネット様、それは私達には無理です。ラース様を止める事はできません」
「むしろ、ラース様と互角に渡り合っているあの少女は何者ですか?」
ライオは騎士2人にフィーナとラースの説得を頼むが、騎士2人では止めきれないと首を横に振る。
「さて、そうなるとどうしようか? 決着がつくまで見てるって手もあるけど、時間は限られてるしね」
「……その前に騎士さん達の苦言を聞いてくれ」
「ジークさん、魔導銃で止められませんか? あの、氷の方で」
「あー、そう言えば、できなくもないかな? でも、あの暑苦しい人に因縁つけられるのはイヤだな。それにフィーナの剣があるとかなり集中して狙わないといけないだろ」
ライオは止められない戦いにため息を吐くと、ノエルはジークの魔導銃の新しい能力を使えないかと言う。ジークは魔導銃を腰のホルダから抜き、ラースの足元に照準を合わせる。
「ジークは魔導銃を使うのかい? ずいぶんと珍しい物を使ってるね。本物は初めて見たよ」
「まぁ、殴り合いは性に合わないんでね。と言うか、危ないから、離れてくれよ……フィーナ、後ろに跳べ!!」
「な、何よ。いきなり!!」
ライオは魔導銃を見た事がないようで目を輝かせ始め、ジークは彼の行動に大きく肩を落とすとフィーナの名前を呼ぶ。フィーナは突然の事で驚きの声をあげるが、しっかりとジークの声に反応している。
「逃がすか!!」
「……熱くなりすぎだから」
「こ、これは一体、どう言う事だ!! 卑怯な事をするな!!」
ラースはフィーナとの距離を縮めようとするが、彼の足下にはすでにジークの魔導銃から放たれた青い光がまとわりつき、ラースの足元を凍りつかせており、ラースはジークを怒鳴りつけた。
「いや、卑怯も何も騎士なら街中で剣を振りまわすなよ」
「……冷気の魔法属性か? ジーク、ラースの頭を狙ってみないかい? 頭が冷えるかも知れないし」
ジークはラースに怒鳴られる理由などないとため息を吐くと、ライオは魔導銃でラースの頭を狙うように言う。
「……いや、流石にそれは、それより、説明をしてくれ。このままだと俺までフィーナと一緒で国家反逆罪とかで捕まりそうだ」
「国家反逆罪? 何を言ってるのよ。ケンカを売ってきたのはこのおっさんでしょ」
フィーナは相変わらず、状況を理解していないため、悪いのはラースだと彼を指差して叫ぶ。
「誰が、おっさんだ!! 私は誇り高き……」
「ジーク」
ラースはおっさん呼ばわりされた事に腹を立てたようで、騎士としての名乗りを上げようとする。しかし、ライオに取ってはその行為は望ましくないため、ジークにラースを黙らせるようにと指示を出し、ジークは魔導銃を放ち、強制的にラースを止める。
「……何で、こんな事に」
「ジークさん、落ち込まないでください」
「ジーク、どう言う事よ!! 説明しなさいよ!! 戦いに水を差すなんてどう言うつもりよ!!」
「……それも違うだろ」
フィーナは戦闘を邪魔された事に腹を立て始めており、ジークは本筋から完全に離れているフィーナの思考に眉間にしわを寄せた。
「ジーク、とりあえず、ラースを説得するのに良い場所はないかな?」
「……いや、だから、俺を巻き込まないでくれ」
ライオは街中で話をするわけにもいかないため、ジークに声をかける。ジークは完全に巻き込まれているがどうにかして抜け出したいようで大きく肩を落とす。