第155話
「……頭、痛い」
「ジークさん、どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
翌日になり、朝食の片付けを手伝った後、商店街に防具を見に出たのだが、ジークは視線の先にライオが1人でいるのを見つけて頭を押さえる。
「大丈夫。大丈夫。心配いらないから」
「そうですか」
心配そうなノエルの様子にジークは直ぐに優しげな笑みを浮かべると彼女はほっとしたようで胸をなで下ろす。
「しかし、どうするかな?」
「どうするって、防具を見に行くんでしょ。それとも、魔導銃じゃなくて、剣とか槍とか見る?」
ジークはライオに声をかけるべきか迷っており、首を傾げる。フィーナはジークの悩みなど知らずに外れた事を言う。
「いや、そうじゃなくて」
「みなさん、奇遇ですね」
ジークはライオネットの正体に気が付いていないフィーナの観察力のなさにため息を吐いた時、ライオはジーク達に気が付き、駆け寄ってくる。
「ライオネットさん、おはようございます」
「おはようございます。昨日は大変お世話になりました」
「……あの野郎、結局、何も手を打ってないんじゃないかよ」
ライオは3人に改めて、昨日の御礼を言うとノエルとフィーナと挨拶を交わしているなか、ジークはカインに対しての不満をつぶやく。
「ジーク、どうかしましたか? デートの邪魔をしてしまったから、機嫌が悪くなってしまいましたか?」
「……いや、違うから」
ライオはジークがノエルとフィーナをはべらかしていると思ったようで、邪魔をしてしまったのかと聞く。ジークはライオの口から出た言葉に酷く疲れたようで大きく肩を落とした。
「それで、ライオネットは朝から散歩か?」
「そうだよ。昨日は人波に飲まれてしまったから、人が少ない時間に街を見て回ろうと思ってね」
ジークはライオが護衛から逃げている途中だと思ったようで、護衛が追いつくまでの時間を稼ごうと彼を引き止める。しかし、ライオはあまり危機感がないのかジークの言葉に頷く。
「そうなの? それなら、私達と一緒に行く?」
「良いんですか?」
「これから、人も増えてく時間帯だし、また、人波に流されたら困るでしょ」
「流石に、何度も流されるわけにはいきませんけどね」
フィーナは特に考えていないようで自分達と一緒に歩かないかと提案するとライオはこれ幸いと思ったようで小さく笑みを浮かべた。
「ジークさん、どうかしたんですか?」
「……どうして、俺の周りには厄介事が舞い降りてくるのかと思ってさ」
「厄介事ですか?」
「いや、良いよ。ノエルと一緒で変に1人で歩かせとく方が危ないのは事実だからな」
「わ、わたしはそんなに鈍くないです!?」
フィーナとライオの間でポンポンと話が進んで行く様子にジークは大きく肩を落とすとノエルは彼の顔を覗き込む。ジークはライオと一緒に歩くなど厄介事でしかない事は理解できるものの、放って置くわけにもいかないため、1人納得する。
「それなら、行くか? とりあえず、この辺を適当に回れば良いのか? ルッケルは鉱山だけど、そっちはこの間の毒ガス騒ぎと地震の件で領主様の許可なしでは入れないしな」
「そうですね。お願いできますか?」
ジークは適当に商店街でも案内すればライオも納得すると考え、ライオはジークの言葉に頷く。
「と言うか、ライオネットって、実は貴族様だったりする?」
「どうして、そう思うんですか?」
「いや、何か、立ち振る舞いとか、優雅そう?」
商店街を歩き始めてしばらくすると、フィーナはライオの様子に彼女の本能がようやく何かに気が付いたようである。
「……もっと、わかりやすいのがあるだろ」
「ジーク、何か言った?」
「いや」
ジークはそれより前に名前で気がつけよとため息を吐くが、フィーナはそこに関してはまったく疑っていないようであり、ジークの眉間にはくっきりとしたしわが寄っている。
「もし、そうだったら、どうしますか?」
「普通に考えたら、アズさんに引き渡す? 貴族とかが1人で商店街を歩きまわってて、何か問題あると困るし」
「そうですよね。ただでさえ、今は問題を抱えているんですから、アズさんのご迷惑になるわけにはいきませんし」
「えーと、あの、ひょっとして、皆さんはルッケルの領主様とお知り合いなんでしょうか?」
ライオは仮に自分が貴族だった場合の対応を聞くとノエルとフィーナは世話になっているアズの顔を潰すわけにもいかないためと答え、ライオはアズの名前に少しバツが悪そうな表情で笑う。
「まぁ、ちょっとしたつてがあってな。一応、ジオスって小さな村で薬屋をやってるんだけど、ルッケルは街ぐるみで取引先なんだよ」
「そうなんだ。ジークは私と同じ年くらいなのに凄いんだね」
「それにアズさんはルッケルの中はまめに視察しているし、ルッケルの人間なら普通に話をできるぞ」
「なるほど、アズ様は人々から愛されているのですね」
ジークは先日の毒ガス騒ぎに関与していた事は話したくないため、取引先だと言うとライオはジークや領主であるアズの事を感心したようでうんうんと頷く。
「見つけたぞ。貴様達、その方をどこに連れて行くつもりだ!!」
「……1番、考えたくない事になった」
その時、ジーク達と一緒にいるライオを見つけた3人の騎士がジーク達をライオを連れ去ろうとする賊だと判断したようで声を張り上げて、4人を取り囲む。ジークは騎士達の様子に大きく肩を落とすと抵抗する気はないと言いたげに両手をあげる。
「あ、あの。ジークさん、これはどう言う事なんでしょうか?」
「フィーナがさっき言った通り、ライオネットは良いとこの出なんだろ。そして、俺達はライオネットを誘拐しようとしている悪党に見られてるって事」
「そうなんですか? あの。わたし達はライオネットさんにおかしな事をしようとは思っていません」
ノエルは状況が理解できないようでジークの背中に隠れて、不安そうな表情をするとジークはライオが王子である事を伏せながらも現状を説明し、ノエルは何をしていないと騎士達に声をかけた。
「いきなり、何なのよ?」
「フィ、フィーナ、ちょっと待て。状況をしっかりと見てくれ!!」
しかし、フィーナは状況を理解しておらず、立派な鎧を着た冒険者が因縁を吹っ掛けてきたとしか思っていないようで剣を構え、ジークは落ち着くように言う。
「逆らう気か?」
「当然よ。意味もわからないで、ケンカを吹っ掛けられてるんだからね」
騎士の1人はフィーナの態度に視線を鋭くして、1歩前に出るがフィーナはジークの説得に応じる気はないようであり、騎士に向けて駆け出す。
「ジークさん、どうしましょうか?」
「……どうしようかね。取りあえず、ライオ王子が騎士さんを説得してくれると話が早いんだけど」
「あれ? ばれてたのかい?」
「……と言うか、誤魔化したいんなら、もう少し偽名を考えて欲しかった」
フィーナと騎士の剣がぶつかり合う様子に人だかりができ始め、残り2人の騎士はライオに危害を与えないようにとジークとノエルを警戒している。ジークはこの状況を収めるためにはライオが騎士達へ状況説明をする事が必須だと言い、ライオはジークが自分の正体に気が付いていた事に驚いたようだが、ジークはため息しか出ない。