第153話
「しかし、この人はいつまで寝てるのかしら?」
「さあな。しかし、ただ、睡眠を取るだけなら、帰って貰いたい気もするんだが、今はまだベッドに乗せて診察する患者が来てないから、良いが、邪魔になったら引きずり降ろせ」
フィーナは特にやる事もないため、寝息を立てている少年の顔を覗き込むとリックはそろそろ初年が邪魔になってきたようで乱暴に自分の頭をかく。
「それは乱暴すぎじゃない? あれ?」
「……ここはどこですか?」
リックの様子にフィーナが苦笑いを浮かべた時、ベッドに横たわっていた少年の目がゆっくりと開き、見慣れない室内の様子に彼の覚醒しきっていない頭は情報を処理しきれないようで小さく声を漏らした。
「起きたわね」
「えーと」
「ここは診療所だ。人波に流されて目を回していたお前をフィーナ達が運んできたんだ」
「そうですか……それは大変、ご迷惑をかけてしまったようで、すいませんでした」
リックは目を覚ましたばかりの少年に現状を簡単に説明すると少年は小さく頷いた後に、フィーナとリックに向かい、深々と頭を下げる。
「べ、別にそこまでの事はしてないけど」
「あ、ジークさん、あの人、目を覚ましたみたいです」
「そうか? そりゃ、良かった」
「すいません。ご迷惑をかけてしまったようで」
少年の態度にフィーナが慌てた時、ジークとノエルが診療室に戻り、少年はジークとノエルにも頭を下げた。
「いや、別にそこまでの事をした気もないよ。それに礼なら、フィーナ1人で良い。最初に君を確保したのはフィーナだしな」
「そうですね。わたしは何もしてませんし」
ジークとノエルは自分達は礼を言われるまでの事はしていないと苦笑いを浮かべる。
「フィーナさん、本当にありがとうございました」
「だ、だから、そこまでの事はしてないのよ!? ジーク、笑ってないで助けなさいよ」
「リックさん、とりあえず、キッチンは掃除しておきましたけど、水場はもう少し片付けないと食中毒とかになったら困りますよ」
「あー、そうだな。気を付ける」
ジークとノエルの言葉に少年は改めて、フィーナに頭を下げ、フィーナは居心地が悪くなったようでジークに助けを求める。
しかし、ジークはフィーナの助けを求める事を無視してリックに忠告をし、リックは小言を言われるとは思っていなかったようで気まずそうに視線を逸らす。
「とりあえず、目を覚ましたなら、そろそろ、そこから降りてくれ。いつまでも診療室のベッドを占拠されると支障が出るからな」
「す、すいません」
リックは話を変えたいのか少年にベッドから降りるように言い、少年は慌てて頷くとベッドから降りる。
「別にそこまで急かさなくても」
「そうよね」
「まぁ、自分も寝たいのにベッドを占領されていればな」
その様子を見て、ノエルとフィーナは苦笑いを浮かべるが、ジークは休憩中に机に突っ伏して寝ていたリックの姿を思い浮かべたようで頭をかく。
「……別にそんな事で言ったわけではない」
「あ、あの。ご迷惑をかけてしまい。申し訳ありません。あの。診療費はどうしたら良いでしょうか?」
「別にそこまでの事はしていないから、気にする必要はない」
ため息を吐くリックの様子に少年は迷惑をかけてしまった事もあるのか、診療費を払おうとするがリックは直ぐに断る。
「出してくれるって言うんだから、貰っておけば良いのに」
「ジークさん」
「はいはい。わかってる」
ジークはもったいないと小さくため息を吐く。ノエルは彼を責めるような視線を向けるとジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、リックさんもこう言ってるし、今日は良いんじゃないか? それより、ずいぶんと疲れてるみたいだし、宿に帰ってゆっくり休んだら、どうだ?」
「そ、そうですね。あ、あの。宿と言いましたが、どうして、私がルッケルの人間だとは思わないんですか?」
ジークは少年に宿に戻るように言うが、少年はジークの言葉が引っかかったようであり、素朴な疑問を彼にぶつける。
「あー、俺もルッケルの人間じゃないけど、リックさんが、ルッケルでは見ない顔だって言ってたんだよ。それにこれだけの人が溢れてるんだ。それに人波に流されるなんて、ルッケルの人間らしくないからな」
「確かに、ルッケルで人波に流されるなんて、よっぽど鈍い人間よね」
「あう」
ジークは少年が食いついた疑問を軽く流すとフィーナは頷き、ノエルは自分も人波に流されたためか気まずそうに肩を落とした。
「ルッケルの人間らしくないですか?」
「あぁ。ここは鉱山都市だからな。街中はある程度注意して歩かないと、台車に轢かれる可能性があるから、そんな街中で人波に流されるのは街の様子を物珍しく見てる初めてルッケルに来るような人間だと思っただけだよ」
「なるほど、確かに私は昨日、初めてルッケルの街にきました。鉱山都市は初めてでしたので、よそ見をしてしまったようですね」
少年はジークの言葉に小さく頷くと、自分が人波に押しつぶされた理由に納得が行ったようである。
「まぁ、何か、納得できたみたいで良かったよ。さてと、ノエル、フィーナ、そろそろ行くか?」
「そうね。ジークとノエルの防具も見に行かないといけないし」
「リックさんに……あの、すいません。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ジークは自分達の用事もあるため、ノエルとフィーナに声をかけると2人は頷き、ノエルはリックと少年に別れの挨拶をしようとするが少年の名前を聞いていなかった事に気が付く。
「あ、私はライオ……ネットです」
「ライオネットさんですか? わたしはノエリクル=ダークリードです。ノエルと呼んでください。こちらが」
「フィーナ=クロークよ」
ノエルの言葉に少年は慌てて『ライオネット』と名乗り、ノエルとフィーナは自分達の名前をライオネットに教える。
「ライオネットね? ……本当にこの国は大丈夫なのか?」
「ジーク、あんたも名乗りなさいよ」
しかし、ジークだけはライオネットの名前に何か感じたようで眉間にしわを寄せる。フィーナはそんなジークの様子に気が付く事なく、彼の腕を肘で小突く。
「ジーク=フィリスだ。よろしく。ライオネット」
「はい。本日はご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
「いや、さっきも言ったけど、気にする必要はないよ。リックさん、ライオネット、悪いけど、俺達、そろそろ、行くよ」
ジークはライオネットの前に右手を差し出すと彼はジークの腕をしっかりと握り返すとジークの瞳をしっかりと見据え、ジークは彼の視線に居心地の悪さを感じたようで手を放した後に診療所を後にすると言う。
「あぁ。気を付けていけ。今度はノエルを背負ってくるとかは無しにしろよ」
「な、何度も流されません!?」
「その言葉に期待するか?」
「そうね」
リックはその言葉にノエルをからかうように笑い、ノエルは声をあげる。