第151話
「フィーナさん、どこに行ったんでしょうか?」
「まぁ、ノエルと違って迷子にもならないだろうし、大丈夫だろ。さてとお使いも終わったし、防具でも見てくるか?」
ジークとノエルはジルの店を出るとフィーナを探すが、彼女の姿は店の近くにはなく、2人はジルからのお使いをしながら、お祭り騒ぎで人の溢れかえっているルッケルの商店街を歩く。
「わ、わたしだって、迷子にはなりません!?」
「そうだな。人の波に飲まれてつぶされるだけだよな」
「うぅぅ」
ノエルは迷子になどならないと声をあげるが、ルッケルに到着するなり、人波に流されてしまった彼女にはジークから反論する余地すら与えられず、ジークを非難するような視線を向けた。
「ちょ、ちょっと、ジーク、ノエル!! こっちに来て、手伝って!!」
「あ? フィーナ、お前、何をしてるんだ?」
「この人、誰ですか?」
その時、ジークとノエルを呼ぶフィーナの声が聞こえ、2人が振り返るとなぜか、フィーナは目を回した少年を背負っている。
「知らないわよ。ノエルみたいに盛大に人波に飲まれて目を回していたから、確保したんだけど」
「あー、それは大変だったな。気絶した人間って結構重たいし。この辺ならリックさんのところが近いな。それで良いか?」
「そうね。だから、こう言うのは男のジークの仕事」
「俺の仕事って言うけど、俺より、フィーナの方が力強い」
フィーナは少年を確保したのは良いが、どうして良いのかわからないようであり、ジークは1つため息を吐くとリックの診療所に連れて行く事を提案する。その言葉にフィーナは頷くとジークに少年を引き渡そうとするが、ジークは笑顔で首を横に振った。
「何を言ってるの? か弱い女の子が人1人運ぶのがどれだけ大変かわかるでしょ?」
「か弱いね」
「あ、あの。2人とも落ち着いてください。まずはその人をリック先生のところに運びましょう。わたし、支援魔法使いますし」
フィーナはジークの態度に自分が女だと言う事実を強調するが、ジークはその言葉を鼻で笑い、2人の視線には火花が散り始めた。ノエルは慌てて2人の間に割って入り、落ち着くように言う。
「仕方ない」
「最初から、素直に受け取れば良いのよ」
「そうですね」
「それじゃあ、行きますね」
ジークはノエルの顔を立てようとしたようで頷くと、フィーナは勝ち誇ったような表情をしてジークに少年を引き渡した。ジークは納得がいかなさそうな表情で少年を背中に担ぎ、ノエルは直ぐに補助魔法でジークの腕力をあげる。
「リックさん、いる? ……生きてます?」
「……ジーク? 今度は何しにきたんだ?」
ジーク達3人は少年を担いでリックの診療所に顔を出すが、リックは診療所の机に突っ伏しており、リックは3人の顔を見て眉間にしわを寄せるとふらふらと立ちあがった。
「繁盛してるんですか?」
「嬉しくない事にな……人が集まるのは良いが、くだらない事で小さな小競り合いばかりだ。そいつは患者か?」
リックの診療所は人が溢れている事で患者が多いようであり、あまり寝てないようで欠伸をするとジークが少年を背負っている事に気づく。
「は、はい。人波に飲まれて目を回してるみたいで」
「フィーナが拾ったらしいんだけど」
「あー、フィーナの事だからな。運ぶ途中にそこら辺にぶつけた可能性が高いな……取りあえず、診察するから、ベッドに置いてくれ」
リックはジークとノエルの話を聞くと少年の安否確認が重要だと思ったようで少年を診療用のベッドに置くように言う。
「ちょっと、それって、どう言う事よ!?」
「そのままだ。ジーク」
「はいはい。お願いしますよ」
フィーナはリックの言葉に声をあげるが、リックは彼女の相手をする気はないようでジークに早くしろと催促をし、ジークは少年をベッドに置く。
「まぁ、単純に目を回しているだけのようだな。特におかしな様子はない」
「そうですか? 良かったです」
リックは少年の診察を終えると、少年は気絶しているだけであり、ノエルは安心したのか胸をなで下ろした。
「とりあえず、それだけなら特に問題ないな。リックさん、ここに預けて行っても良いですか?」
「あぁ。かまわない……悪い」
「本当に疲れてるみたいですね」
ジークは少年をリックに預けて行こうとするとリックは頷くが、彼も余程の疲労がたまっているようでふらつき、ジークはそれに気づき、リックを支える。
「ジークさん、少しの間、リック先生のお手伝いをしませんか? わたしは精霊魔法で治療できますし、ジークさんも応急処置ならできますね?」
「仕方ないか? とりあえず、フィーナ、ジルさんの店に戻って、俺達がここにいる事を伝えてきてくれ。お使いの店は全部、回ったから」
「わかったわよ」
ノエルはリックの様子が心配なようで診療所の手伝いをしたいと言い始め、ジークはノエルが言っても聞かないと知っているため、彼女の言葉に頷く。フィーナは自分は診療所に残っても役に立たない事を理解しているため、素直にジークの言葉に頷くと診療所を出て行く。
「後、リックさん、1本、行っときます? 知ってるとは思いますけど、不味いですけど」
「……取りあえずは、それを飲む前に少し寝かせてくれ。後、その栄養剤の効き目は理解してるが、少し味を改良してくれ」
ジークは常備しているのか栄養剤を取り出すが、リックは今は睡眠の方が大切なようで机に突っ伏して目を閉じると直ぐに寝息を立て始める。
「味ねえ……と言うか、まともなものも食ってないよな? フィーナになんか、食い物の1つでも頼めば良かったな」
「そうですね」
「フィーナが少しでも気を使えれば良いんだけど、無理だろうしな」
「それは言い過ぎだと」
ジークは栄養剤を眺めた後に男やもめのリックの食生活を考えてため息を吐き、ノエルは苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、薬品棚の薬の状況の確認でもしとくか? 後は最近の帳簿整理か? ノエルは2人の様子を見ててくれ」
「は、はい。わかりました」
ジークはリックが寝てる間に彼の仕事を少しでも減らそうとできる事から手をつけ始める。