第150話
「……しかし、面倒な事になったな」
「そうですね」
カインとエルトは言いたい事だけ言うと宿泊先にしているアズの屋敷に戻ってしまい、ジークは状況の面倒さに乱暴に頭をかく。
「と言うか、イベントって1週間もやるのね……私達の出番は最終日なのに何で前日入りなのよ?」
「まぁ。イベントが始まるとエルト王子と話す時間も、カインと打ち合わせする時間もないからだろ」
ルッケルでのイベントはエルトとライオのチーム戦だけではなく、新人騎士の腕試しなどイベントも組み込まれており、ジーク達は1週間の間、ルッケルに拘束される事になっているとカインが去り際に笑いながら伝えて行った。
「それで、正直、ジーク、大丈夫なの? ライオ様を守る事ってできるの?」
「……微妙、俺は攻撃を交わしてスキを突いて攻撃を仕掛けるタイプなわけだし」
フィーナはジークに依頼をきっちりと佳奈せるかと聞く。ジークは彼女の問いに自分の戦闘スタイルではライオを背に戦う事ができるかわからないとため息を吐く。
「だ、大丈夫です。補助魔法は任せてください」
「あぁ。それに関しては期待してる」
「はい。期待していてください」
ノエルはジークの不安を和らげるために声をかけるが、彼女の表情にも余裕などない。ジークは自分の不安をノエルにまで伝染させてはいけないと思い、笑顔を見せた。ノエルの表情はジークに釣られるように笑顔で頷く。
「とりあえず、ここで腐ってても仕方ないし、少し外の空気でも吸ってくるか?」
「そうね。ジーク、何か防具でも探してみたら、商人も流れてるって言うんだから、普段、見れない物を売ってるでしょ。それにジークもノエルもまともな防具を持ってないわけだし」
ジークは悩んでいても何も変わらないため、気分を変えようと立ち上がり、フィーナは2人の防具を見に行こうと言う。
「防具ねえ……動きにくくて嫌いなんだよな。それに俺は冒険者ってわけでもないし」
「わたしも、あの。あまり重いものはわたし鈍いですし」
魔導銃を使った素早さを活かした戦闘スタイルのジーク。魔法を中心に修め、運動神経の鈍いノエル。2人は軽装で普段着より少し厚手なくらいである。
「そんな事を言ってる余裕はないでしょ。特にジーク、あんたはあのクズの作戦が失敗したら、ライオ様を銃弾から身をていして守らないといけないの。そこのとこ、わかってるの?」
「わかってるけど……出費が」
「出費と命、選ぶのは命でしょうが、あれだったら、成功報酬としてあのクズに全部終わったら、吹っかけなさい。行くわよ。ノエル」
「は、はい」
出費の大きさに大きく肩を落とすジークの首根っこをフィーナはつかむと彼を引きずって部屋を出て行き、ノエルは慌てて2人の後を追いかけて行く。
「あれ? あんた達、出かけるのかい?」
「ちょっと、買い物。備えあれば憂いなしって奴よ」
「そう。それなら、酒屋に言ってお酒の追加発注をしてきてくれるかい?」
ホールに降りた3人の姿を見つけたジルはさも当然のようにお使いを頼もうとする。
「は、はい。わかりました」
「いや、ノエル。俺達、客だから」
「あ。そ、そうでした」
「まぁ、ジークも固い事を言わないのついで何だから良いじゃない」
ノエルは何の迷いもなく返事をするとジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべた。ジルは2人の息の合った様子にニヤニヤと笑う。
「あー、別に良いんだけど、ここでしっかりと断ってないと、夜とか気が付いたらホールの手伝いとかさせられそうだからな」
「何を言ってるんだい? あんた達は1週間もここにいるんだ。それくらい、当然だろ」
「……当然なのかよ」
「そうだよ。カインからも3人を従業員に……ジークとノエルを手伝わせる事で宿泊費をサービスしてくれって」
ジークは何かを手伝うと滞在期間中、ずっと、店を手伝わされるとため息を吐く。しかし、ジルは最初から、3人に店を手伝わせるつもりだと言い切り、その裏にはカインの手がしっかりと回されている。
「それもしっかりとフィーナが戦力にならないって事も伝えてるのがあいつらしい」
「何を言ってるんだよ。ジーク。フィーナが料理や洗濯に役に立たないって事はカインから聞かなくても、この間の事で身に沁みてるよ」
「……フィーナ、お前、この間、何をしたんだよ」
ジークはカインがフィーナを手伝いの戦力外と伝えて行っている事に眉間にしわを寄せるが、真実はカインより残酷であり、真実を知ったジークの眉間のしわは更に深くなって行く。
「べ、別に私は何もしてないわよ」
「そうね。何もしてないわね。特に料理はね。まったく、フィーナ、あんたはもう少し女らしい事を覚えようとしなよ」
「ジーク、ノエル。早く行くわよ」
フィーナはおかしな事などしていないと首を横に振った。ジルはフィーナに説教を始めようとするがフィーナは身の危険を感じたようで逃げるように店を出て行った。
「ジーク、あんたもあの子に何か言ってやりなよ」
「いや。既に何百回も言った。今のままだと嫁の貰い手もないとも」
「そうだね。ジーク、あんたの言い方に問題があるんだよね。もう少し、フィーナの事を考えてあげなよ」
「いや、意味がわからないから、と言うか、あいつの事を考えてるから、必要な事は言ってる」
ジルはフィーナが出て行った店のドアとジークを交互に見て、ため息を吐く。
「あの。ジークさん、フィーナさんを追いかけなくて良いんですか?」
「あー、そうだな。ジルさん、寄ってくるのは酒屋だけ?」
「そうだね。後は雑貨屋に行って、これとこれも」
ノエルはフィーナを追いかけようと言い、ジークは頭をかくとジルによって来る店を聞き、ジルは遠慮する事はない。
「……多いな。まぁ、行くか?」
「はい。ジルさん、行ってきます」
「気を付けて行きなよ。ノエル、スリとかに遭わないようにね……やっぱり、ノエルが本命みたいだね」
ジークは頭をかいた後にノエルと一緒に店を出て行き、ジルは仲の良いジークとノエルの様子にニヤニヤと笑う。