第149話
「あぁ、だけど……」
「ジークさん、どうかしたんですか?」
ジークは話を戻す事には賛成するが何か引っかかっているようであり、それに気が付いたノエルはジークの顔を覗き込む。
「いや、エルト王子の事だから、拳で語り合おうとしなかったのかな? と思ってな」
「確かにそうですね」
ジークはエルトの性格を考えると足りない工程があるのではないかと言い、ノエルもジークの意見に賛成のようで2人の視線はエルトに向けられる。
「どうかしたかい?」
「で、その無能な人間とエルト王子は手合わせはしたのか?」
「それなんだけど、小さい頃に1度、手を合わせただけなんだ。それ以降は逃げられてしまってね」
エルトはジークの疑問に答えるが、彼自身、避けられる理由がわからないようで首を傾げている。
「……二度と立ち上がれないくらいに叩き潰したんだな」
「その時の事を根に持っている可能性も高いね」
「ずいぶんとちっちゃいわね」
エルトの言葉を聞き、相手の矮小さにジークとフィーナは眉間にしわを寄せた。
「まぁ、表だって、今までエルト様やライオ様にしてきた事はないんだけど、ルッケルの復興イベントに2人の対戦を組み込んでからの動きがあからさまで滑稽なんだけど、全部、話すか?」
「……いや、良い」
カインは罠とは気づく事なく、裏工作を開始した相手の事をあざ笑い、ジークは本当にわずかにだがカインを敵に回した事に哀れに思えてきたようでため息を吐いた。
「で、俺達に何をしろって言うんだよ。と言うか、もう完全に包囲できてるんじゃないのか?」
「まぁ。ある程度の当たりは付けてあるよ。ただ……」
「どうかしましたか?」
カインは苦笑いを浮かべるが、何か引っかかったようで首を傾げる。
「今更だけど、俺、小者の名前って言ったか?」
「あー、もう小者で良いでしょ」
「あの。流石に不味いんじゃいないでしょうか?」
カインは裏でエルトとライオの殺害計画を立てている人間の名前を言ったかと聞き、フィーナはどうでも良いとため息を吐く。
「名前はシュミット=グランハイム。先ほども話したが、叔父上の嫡男で私の従弟に当たる。王位継承権は第5位だ」
「第5位ね。変な欲を出さなければ、良い生活ができそうなんだけどな」
「まぁ、血の上ではラング様の後継として、ある程度の権力や土地を所有できるんだけどね。ラング様の部下も有能な人間はそろっているしね」
エルトから襲撃計画の首謀者が彼の従弟である『シュミット』だと聞き、ジークは頭をかく。カインはシュミットがもう少し現実を見れれば良かったとため息を吐いた。
「それで、そのシュミットはいつ、王子達の命を狙ってくるんだ?」
「様を付ける気はないんだね」
「あー、何か、必要性を感じないな」
「あの。そんな重要な話をここでしても良いんですか? ここより、アズさんのお屋敷の方が」
ジークはカインが手にしている襲撃計画の全貌を聞こうとした時、ノエルは話が重大な事のため、不安そうな表情でアズの屋敷の方が良いのではないかと言う。
「いや、それがそうでもないんだよね。王都だったら、エルト様の屋敷の方が良いだろうけど、ルッケルなら冒険者の店の方が都合が良いよ」
「まぁ、屋敷で襲撃されたらアズさんの責任問題にもなるしな。それによっぽどのバカか思いあがりしか、冒険者の店は襲撃してこないだろうな」
「そうなんですか?」
ジークとカインはジルの店で話をする利点があると言い、ノエルは首を傾げる。
「同業者が冒険者の店を襲撃何かしたら、よっぽどのコネがない限り廃業よ。冒険者の店にもネットワークがあるから、宿を取る事も出来なくなるし、仕事の斡旋もなくなるわよ」
「それに店にいる冒険者達が自然に警備兵になるからな。大抵の襲撃者は返討ち。内緒話をするなら、冒険者の店ってのは結構、便利だな」
「なるほど」
ノエルはジークとフィーナの補足説明で状況を理解したようで大きく頷いた。
「と言う事で、この場所に俺とエルト様がきたわけだよ。ノエルも良いね?」
「は、はい。話を折ってしまってすいません」
「いや、私は構わないよ。こちらは協力を仰いでいるんだからね」
ノエルはカインとエルトに頭を下げると、エルトはノエルの様子に気にする必要はないと笑う。
「シュミットにとって、もっとも好ましいのは、私とライオが何らかの事故で命を落とす事だろうな」
「まぁ、それが当の本人がおぜん立てまでしてくれたんだから、イベント中の銃での狙撃が無難だろうな……それも、お前の事だ。しっかりと狙いやすい位置まで用意しているだろうな」
「まぁ、それもあるい程度の距離を置いて見張りを立てて、近付いてくる不審者を捕えるように指示は出してるね」
「……俺達、やる事ないだろ」
カインはエルトとライオを狙うおぜん立ては済ませており、ジークは自分達が協力する意味がわからないと眉間にしわを寄せる。
「狙撃手はこっちでどうにかするから、純粋にエルト様とライオ様の守備。こっちは身内で固めたけど、シュミットの手の者がライオ様のところに紛れ込んでないとは限らないからね」
「あぁ……と言うか、流石にそこまでは手が回せないのか?」
「そりゃあね。それに何かの間違いがあって、どちらか片方の命が失われた場合はエルト様、ライオ様、どちらにも王位を継ぐために不利な要素になるから、2人の死守は絶対条件」
カインはジーク達に改めて、エルトとライオを守るように言う。
「まぁ、エルト様には悪いけど、どちらか一方が暗殺されたら、確実に疑われるよな」
「そう言う事だ。襲撃者を捕まえてから、シュミットへの痕跡はカインが必ず見つけだす。ジーク達にはイベント時の私とライオの守備を任せたい」
「守備って言うけど……不安だ」
エルトはジーク、ノエル、フィーナの3人に深々と頭を下げる。しかし、ジークはエルトの性格上、彼が先陣を切って駆け出してしまうところが頭に浮かんだようで眉間にしわを寄せた。
「まぁ、どちらかと言えば、エルト様より、ライオ様の死守かな? ライオ様は後衛だし」
「……やるのは俺なんだな」
「まぁ、ノエルは無理だろうし、フィーナも誰かを守っての戦闘は無理だから、ジークしか適任者はいないね」
ジークは自分が矢面になる事は理解できたようで大きく肩を落とすと、カインは楽しそうにジークの肩を叩く。