第146話
「魔力の波長ですか?」
「そう。だけど、説明はなし。ノエルがどの魔族に種族までは見当が付かないからね。人族の研究結果を教えてあげるほど、優しくはないよ。今はノエルの魔力の高さに利用価値があると思っているから、利用させて貰う。後は人族に害をなすつもりなら、どんな手段を使ってでも殺す」
ノエルは聞き慣れない言葉に首を傾げると、カインはノエルを信用しきっていないようで秘密と言った後に冷たく抑揚のない声でノエルへと殺気が混じった敵意を向けた。
「そ、そんな事はし、しないです」
「……やりすぎだ」
ノエルは今までのカインが発していた緩い空気との温度差に本気でおびえてしまったようで涙目でジークの後ろに隠れてしまい、ジークはカインを責めるように言う。
「はいはい。お嫁さんをいびって悪かったね」
「それも違う」
カインはジークの様子にため息を吐きながらも、彼をしっかりとからかう。その時にはすでにノエルに向けた殺気など霧散している。
「とりあえず、ノエルの件が解決したと言う事で、2人とも参加してくれるよね?」
「いや、お前がノエルの事を知っているだけで、ノエルの安全が確保されてる事にはならないんだけど」
カインはこれで解決だと言いたいようだが、実際は何も解決などしていないためか、ジークは眉間にしわを寄せた。
「大丈夫。大丈夫。うちの脳筋皇子は拳で語り合ったジークが信じる相手なら、信じるって言ってるから」
「……良いのか? そんな理由で」
「あぁ。それがうちの脳筋皇子だから、後はルッケルでの活躍とその時のアズ様の報告書やルッケルの人々からのノエルの印象、前回、村に戻った時に村の人から、ノエルの日常の様子も聞いたしね。現状では要警戒だけど、直ぐに捕縛、処刑って事にはなってない」
「それって、前回、俺は試されたって事か?」
エルトもノエルが魔族だと言う事は知っているようであり、カインとエルトはすでにノエルを観察対象にはしているものの、現状では害はないと判断している。ジークはカインの言葉に2人の手のひらの上で踊らされている感じがしたのか、納得がいかないようである。
「ジーク、ノエル、2人に言って置く。あくまで、ノエルの話を止めているのは、問題が起きていないからだ。今、この国は魔族との戦争もないから、王都にいる兵士でもノエルが魔族だと気づくものは少ない。上手く見た目も誤魔化している影響もあると思うけどね」
「……いや、それはそれで不安になる答えだな」
カインの口から出た言葉は人間としては国の安泰を疑う言葉であり、眉間にしわを寄せたままだが、ノエルの事に関して言えば喜ばし事である。
「まぁ、現状で言えば、ノエルの事は保留と言うか責任はジークに押し付ける」
「……わかったよ。まぁ、そんな事には絶対にならないけどな」
カインは軽い口調で言うが、その言葉の奥には何かあった時にはジークの手でノエルの息の根を止めろと言う意味が見え、ジークはノエルの顔を見る。
しかし、ノエルはカインの言葉に秘められている本質に気が付いていないようできょとんとしており、そんな彼女の様子にジークは苦笑いを浮かべた後にカインの使い魔から目を逸らす事なく、力強く頷く。
「そこまで言うなら、しっかりと手込めにしてしまえば良いのに」
「お、お前は何を言い出すんだ!?」
カインはジークの真剣な表情など気にする事など、彼をからかい、その言葉にジークの顔は赤くなるが、ノエルは意味がわからないようで首を傾げている。
「いや、ジークに逆らえなくする事が、ノエルの抑止力になるなら、どんな方法でも使うべきだと思ってね」
「そ、そう言う事じゃないだろ? そう言うのは色々とあるだろ」
「ヘタレ」
カインの使い魔はジークの耳元まで飛んで行き、彼の耳元で囁き始めるがジークはすでにしどろもどろになっており、カインはため息を吐く。
「そ、そうじゃないだろ!!」
「はいはい。と言う事で、ノエルの件は解決。場所はルッケルだって事は聞いてるな?」
ジークはカインの使い魔を捕まえようとするが、使い魔は彼の手を簡単にすり抜けて行き、話を戻そうとする。
「は、はい。先日、ルッケルに用事があった時に、アズさん達に聞きました」
「それじゃあ、何も問題ないね」
「待て。話は終わってない」
カインは結局、ジークとノエルからの返事を聞く事なく、使い魔は光の球になると消えてしまう。
「……逃げられたか?」
「そ、そうですね」
ジークは怒りが収まらないためか、地団駄を踏み、ノエルはジークの様子に苦笑いを浮かべる。
「ですけど、これで、エルト様に協力できます。やっぱり、兄弟で仲たがいをするのは良くないですから」
「ノエル? どうかしたか?」
「な、何でもありません」
「……」
ノエルはエルトとライオの問題解決に協力できる事に笑顔を見せるが、その笑顔の奥には何か陰りがあり、ジークはノエルの様子に気が付き首を傾げる。
ノエルは彼の問いかけに慌てて首を横に振るが、その様子はノエルが何かを隠している事が火を見るより明らかである。
「まぁ、とりあえずは、当日になるまで何もできないか? 何かあったら、あいつが来るだろうし、俺達は待つしかないか?」
「そうですね……あの。わたしとジークさんは参加する事になったみたいですけど、フィーナさんは結局、どうなったんですか?」
ジークはノエルからこれ以上は何も聞けないと思ったようで頭をかく。ノエルはジークが追及してこない事に胸をなで下ろした後に、フィーナはどうするのかを首を傾げた。
「いや、フィーナは決定事項なんだろ?」
「ジーク、ノエル、あのクズは!!」
ノエルの疑問にジークがため息を吐いた時、怒りの形相のフィーナが勢いよく店のドアを開ける。
「もう帰ったぞ。と言うか、今回は使い魔だったけど」
「フィーナさん、今回は何があったんですか?」
「使い魔なのは知ってるわ。あのクズ、現れるなり、私の頭に一撃を喰らわせて行ったのよ」
カインはどうやら、フィーナにはしっかりと嫌がらせをして行ったようであり、ジークとノエルはどう反応して良いのかわからないようで眉間にしわを寄せた。