第145話
「……こないな」
「そ、そうですね。もう10日ですよ」
カインとエルトがジオスを訪れた日からすでに10日が過ぎているが、日程を指定したはずの2人は店に現れる事はなく、ジークとノエルはノエルがドレイクだと言う事を話そうと思っていた事もあり、完全に肩透かしを喰らっている。
「もしかして、何かあったんでしょうか?」
「何か? エルト王子に何かあったとかじゃないだろうな? と言うか、既にライオ王子が爆発したって可能性もあるよな」
ノエルは2人が来ない事で不安が頭をよぎったようで、心配そうな表情をする。ジークはノエルの言葉にすでにエルトとライオが拳で語り合ってしまった可能性も否定できないと言う。
「あの。その場合って、イベントはどうなるんでしょうか? ルッケルでの準備も進んでるのにイベントが中止になったら、ルッケルがまた大変な事になるんじゃないでしょうか?」
「あいつの事だ。どうにでもするだろ……と言うか、イベントが拡大してそうな気がする」
「拡大? それってどう言う事ですか?」
ルッケルでのイベントの中止も考えるが、ジークはイベント自体がおかしな方向に走り出しているのではないかと思ったようで眉間にしわを寄せた。
「そのままだよ。気が付いたら、エルト王子チーム対ライオ王子チームじゃなく、一般参加ありのトーナメントとかになってそうな気がする。他には100人くらいの部隊での大規模戦闘で対決とか?」
「そ、それは流石にないんじゃないでしょうか? 大規模戦闘だとルッケルに作った舞台が無駄になってしまいますし」
ジークの突拍子のない予想にノエルはカインの性格を知っているためか、否定できないと思いながらもそんな事はないと言う。
「そうだな……そうだと信じたい!?」
「相変わらず、失礼な言い方だね」
ジークはノエルから視線を逸らし時、カインの声と同時にジークの頭には鈍い衝撃があり、ジークは後頭部を抑え、痛みに耐えている。
「カ、カインさん? 本日は使い魔さんですか?」
「あぁ。ちょっと、俺もエルト様も忙しくてね。なかなか、ジオスに行く時間が取れないんだ。エルト様は約束を守ると言って、1人でジオスまで走りだそうとしたけどな。まったく、これだから脳筋は状況くらい理解していて欲しいよね。日数くらいは理解してくれないかな?」
店の中にはカインの使い魔の小鳥が浮かんでおり、使い魔の口を借りて、忙しい事を伝えるが、その言葉の中でエルトをバカにする。
「……転移魔法がなかったら、王都からルッケルに来るだけでも、馬車で1週間はかかるだろ?」
「そうだね。宿場町で馬を借り入れて馬を潰す勢いで夜中も走り続けて、ルッケルまで、3、4日だからね。そう考えると、ルッケルの領主様はしっかりと通信手段を準備してるね」
「アズさん、凄いんですね」
カインは毒ガス騒ぎでのアズの王都までの使者の驚異的な速さに感心したように言い、ノエルは改めて、アズが有能な事を実感したようで目を輝かせた。
「まぁ、馬は活動時間も人間より長いから、馬車を運転する人間を2人以上に宿場町でしっかりと馬の管理をしていれば普通にできる事だけどね。と言うか、王都に転移できる魔法使いを私兵団に入れれば済む事なんだけど」
「……お前はアズさんを誉めたいのか? けなしたいのか?」
「何を言ってるんだ? 誉めてるだろ」
カインの言葉にはどこか刺があり、ジークは痛む頭を押さえながら言うが、カインなりにアズをしっかりと誉めているようである。
「……まぁ、良い」
「そう? それなら、本題に移るかな。それで、2人はもちろん、エルト様のチームで参加するよね?」
「……それは強制だ」
「何を言ってるんだい? この間も言ったと思うけど、最初から、選択肢なんてないんだ」
カインはエルトの目がないため、全開のようであり、楽しそうな口調で頷けと言う。
「あー、それなんだけど、協力しても良いんだけど、こっちにも条件を出させて欲しい。それが通らないなら、協力はできない」
「条件? 生意気な事を」
「舌打ちをするな」
ジークはノエルの安全を第一に考えたいため、条件を提示したいと言う。カインはジークの態度が不愉快のようで、舌打ちまでする有様である。
「まぁ、聞くだけは聞いてやる」
「いや、その態度だと話す気にもなれないんだけど、と言うか、お前と約束しても信用できな!?」
「ジ、ジークさん!?」
ジークはカインは信用ならないと言い切ろうとした時、ジークの後頭部には再び、衝撃が走り、ノエルは慌ててジークに駆け寄り、彼を支えた。
「……お前は話を聞く気があるのか?」
「さっきも言っただろ。選択肢なんて最初からないんだよ」
ジークはノエルに支えられながら、カインの使い魔を敵意がこもった視線で睨みつけるが、カインの使い魔は彼の視線より高い場所からジークを見下ろしており、その様子がさらにジークの血圧を上げている。
「あ、あの。カインさん、エルト様と約束していただけないと、わたしは協力できないんです。個人的な都合を押し付けてしまって申し訳ないんですけど」
「個人的な都合? あれかい。ノエルが人族じゃないって事かい?」
ノエルはカインにエルトがいるなかで話し合いをしたいと言った時、カインはそんな事など知っているとものすごく軽い感じで言い、ジークとノエルは何があったかわからないようで微妙な空気が漂った。
「……おい。いつから、知ってた?」
「そうだな。最初から、何か魔力を秘めたものをまとって何かを隠しているって印象はあったけど、鉱山内部でノエルの魔力の波長を見た時かな?」
ジークは状況を正確に把握したいようで眉間にしわを寄せて、カインの使い魔に詰め寄るがカインはジークとノエルの反応が予想通りなのか楽しそうに笑っている。