第142話
「防御?」
「納得がいかなさそうな顔だな」
フィーナは剣の能力は理解できたようだが、期待していた能力と異なるためか不満げである。
「そう言うわけでもないけど……やっぱり、魔法剣って剣を使う職業の夢じゃない?」
「いや、同意を求められても困るな」
「そうですね」
フィーナは結果が出ても諦めきれないのか、剣を振るが火球が出る事はなく、彼女の様子にジークとノエルは苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、フィーナの剣の能力もわかったし、目的は達したから帰るか?」
「そうですね……ジークさん、あれ、アーカスさんの分の報酬」
「忘れてたな。アーカスさん」
ジークはノエルとフィーナに声をかけて、店に戻ろうとするがアーカスにルッケルの報酬を渡していない事を思い出し、アーカスの名を呼ぶ。
「要らん」
「……これも予想通りだな」
「そ、そうですね」
アーカスの解答は予想していたものであり、ジークとノエルは苦笑いを浮かべた。
「それなら、私達で3等分して良いですか?」
「あぁ。かまわん……いや」
「どうかしたんですか?」
フィーナは3人で分ける許可を取ろうとするが、アーカスは何か考え付いたようである。
「ルッケルで買ってきて貰いたい物がある」
「お使いですか?」
「そうだな。中に戻るぞ」
アーカスはジーク達にルッケルで買い物をしてくるよう言い、メモを渡すつもりなのか家の中に1人で入って行き、3人は慌ててアーカスの後を追いかける。
「糸や布?」
「アーカスさんって、裁縫が得意なんですか?」
アーカスからの依頼のメモを渡され、ジークの店に帰る途中、ノエルとフィーナはメモを覗き込む。メモの中身は糸や布と言ったものが多く、2人は何に使うかわからないようで首を傾げる。
「と言うか、それなりに値がするものばかりだぞ。釣りなんかほとんど残らないだろ」
「そうなんですか?」
ジークはある程度の値段も予想できるようで収入がないとため息を吐く。
「まぁ、魔導機器とまでは言わないけど、何か、便利な道具でも作るんじゃないか?」
「魔術書から、面白いものでも見つかったんだったりして」
「あー、アーカスさんの事だ。作れそうなものがあったら、直ぐに試したいだろうしな」
「で、でも、アーカスさんなら便利なのものができたら、使わせてくれるんじゃないでしょうか?」
ジークとフィーナはアーカスの知的好奇心を満たすために雑用を押し付けられた事は理解できたようで眉間にしわを寄せるが、ノエルはアーカスをフォローする。
「実験台って奴だけどな」
「まぁ、そう言うのはジークの仕事だし、私やノエルは安心よね」
「……否定しきれないのが痛いな」
しかし、ジークとフィーナは今までの経験上、おかしな事に巻き込まれるとしか思っていないようであり、ジークは大きく肩を落とした。
「しかし、ルッケルか?」
「何? アズさんに文句でも言いたいの?」
「ジークさん、そんなのはダメです!!」
ジークはアズが包み隠さず、ルッケルでの騒ぎを報告してしまったため、厄介な事に巻き込まれた感があり、ノエルとフィーナはジークがアズを責めると思ったようで声をあげる。
「いや、別にアズさんを責める気はないから、実際、領主としては間違ってないだろうしな。あいつが報告するって言ってたから、アズさんが報告しないって思いこんだのは俺だし。普通に考えると領主からの報告書も必要だよな」
「まぁ、そう考えると悪いのは全部、ジークよね」
「そ、それもどうかと思いますけど」
ジークは自分にも非がある事は理解しており、フィーナはジークの責任だと大きく頷いた。
「しかし、ルッケルか? 最近、縁が深いと言うか……ノエル、転移魔法を覚えてくれないか?」
「転移魔法ですか?」
「確かに、ノエルが転移魔法を覚えてくれれば、色々と楽よね」
「ルッケルから毎回、馬車を走らせて貰うのも悪いしな」
ジークはルッケルとの取引もあるため、転移魔法が使用できればスムーズに事が進むため、ノエルに転移魔法を覚えて欲しいと言う。
「でも、転移魔法は精霊魔法や神聖魔法ではないですし、わたしにできるかどうか?」
「そうなの?」
「……俺に聞くな。俺が知るわけないだろ」
ノエルは転移魔法は自分が使う魔法とは系統が違うと言う。ジークとフィーナは魔法に詳しくないため、それすらわかっていないようで首を傾げる。
「あ、あの。ジークさんはこの間まで、辞書を片手にいくつかの魔法書を読んでましたよね? たぶん、基礎の基礎に書いてあると思いますけど、市販のものなら最初の1ページとかに」
「ジーク?」
「悪いな。俺は前書とかは飛ばす人間だ」
「……あの、胸を張って言う事じゃないと思います」
ジークは面倒な所は全部、飛ばしていたようであり、胸を張るジークの姿にノエルは大きく肩を落とす。
「……それじゃあ、解読できないはずよね」
「そうですね」
「いや、それ以前の問題だから、あんな高等な魔術書を読めるわけないだろ。ギドだってほとんど読めないし、アーカスさんくらいだろ。それなりに読めるのは」
フィーナはジークのバカな発言に眉間にしわを寄せるが、ジークは遺跡から持って帰った魔術書の難度が高すぎると答える。
「確かにそうですね。ハーフエルフは長生きですし、わたし達の知らない事もたくさん知ってます」
「そうよね……ねえ。ハーフエルフって言うけど、アーカスさんってエルフと何の種族のハーフ?」
「あ? 普通に人族じゃないのか?」
フィーナはアーカスがエルフ以外に何の種族の血を引いているかと言い始めるが、ジークはくだらない事を言うなと呆れ顔で言う。
「でも、聞いた事ないでしょ?」
「まぁ、確かにそうだけど……別にどうでも良いんじゃないか? アーカスさんはアーカスさんだし、それに気にする必要もない気がする」
「それもそうね」
「あ、あの。それは何かバカにされてる気が」
ジークとフィーナはドレイクであっても世界平和を願うノエルがいるため、種族が何とかはどうでも良くなってきているようであり、ノエルは居心地の悪さを感じたのか苦笑いを浮かべた。
「まぁ、気にするな……到着と」
「着いたわね」
ノエルの様子にジークが苦笑いを浮かべた時、ジークの店の前に到着し、話は終了する。