第139話
「で、フィーナはカインからどこまで聞いた?」
「どこまで? あのクズは私を木に吊るして行っただけよ」
ノエルが用意したお茶を飲んで、フィーナは少し落ち着いたようでジークはフィーナに状況を確認するがフィーナは何も聞いておらず、彼女の言葉にジークとノエルは眉間にしわを寄せた。
「何よ?」
「……取りあえず、俺とノエルが聞いた話をするぞ」
「そ、そうですね。その方が良いですね」
フィーナは2人の反応の意味がわからずに首を傾げており、ジークはこのままでは何も始まらないためか、フィーナにエルトとライオの仲違いの話をする。
「……意味がわからないわ」
「まぁ、それに関して言えば同感だ」
村長の娘と言っても片田舎の平民であるフィーナには王族の兄弟ケンカなど現実味もないようで眉間にしわを寄せながら、お茶を口に運ぶ。
「で、どうするのよ?」
「どうするも何も、フィーナは強制参加だろうけど、ノエルがいるんだ。そんな危険な事が出来るわけないだろ」
「ちょっと、私が強制参加ってどう言う事よ?」
ジークは危険な事をするわけには行かないと頭をかくが、フィーナにはジークの言葉が引っかかったようである。
「いや、あいつの事だ。フィーナに伝えなかったのは決定事項だからだと思ったんだ」
「……ありそうね」
「さすがにそれはないんじゃないでしょうか?」
ジークとフィーナはカインの行動を決めつけるがノエルはありそうだとは思いながらもカインを信じようと言う。
「まぁ、実際、フィーナは断る理由はないだろ。冒険者として動くなら、エルト王子に恩を売っとくのは悪い事じゃない」
「それはわかるけど……」
ジークは自分やノエルに比べればフィーナの場合はメリットがあると言い、フィーナもそれくらいは理解出来るようだが、ジークと一緒ではない事が引っかかっているのか頭をかく。
「まぁ、フィーナの性格を考えるとまともに作戦を覚える事が出来ないだろうけど、そこはエルト王子も変わらないだろうし、フォローはあいつがするだろうしな」
「……なんか、その言われ方は小バカにされてる気しかしないのよね」
ジークはエルトもいるため、難しい作戦もないと思っているようであり、フィーナはその言葉に納得がいかないようで眉間にしわを寄せた。
「とりあえず、私は断る理由がないとしてもジークとノエルは断るのよね?」
「まぁ、それが無難だろ。俺も目立ちたくはないし、ノエルだってドレイクだってばれる可能性が高いのに王都になんか連れて行けない」
「は、はい。協力はしたいんですけど」
フィーナは改めて、ジークとノエルに確認するが2人には協力するデメリットの方が大きく現状では手伝えないと首を横に振る。
「そうよね……どうするかな? 私1人ってのは不安だし、王都まで足を運ばないといけないし、ジークとノエルの応援も期待できないわよね?」
「そりゃあな。応援に行って、見つかるのはバカみたいだしな」
「すいません」
フィーナは1人でエルトのチームに入るのがネックになっているようであり、決めきれないようで頭をかく。ノエルはフィーナの力になれないのが申し訳ないようで肩を落として謝る。
「別にノエルが悪いってわけじゃないわよ。悪いのはあのクズ」
「まぁ、明日、ルッケルの報酬をアーカスさんに持って行くから、その時に相談してみて、何か良い方法はないか聞く……期待はできないけど」
「そうね。アーカスさんは結局、何の相談にも乗ってくれない気がするわ」
ジークはアーカスに相談してみる事をフィーナに伝える。フィーナもアーカスが良いアドバイスをくれるとは思っていないようでため息を吐く。
「あ、あの。フィーナさん、そう言えば、フィーナさんはカインさんから新しい剣を貰うって言ってましたけど、どんな剣ですか?」
「うーん? 貰ったのは貰ったんだけど、何の説明もないのよね。まぁ、使えれば良いんだけど」
ノエルは話を変えようと思ったようで、フィーナに報酬で貰った剣の事を聞くとフィーナはカインから剣の説明もなかったようで鞘に納めたままの剣を手に取る。
「何か、中古っぽいのよね」
「中古? あいつは魔導師だから、剣は使わないし、それなりに由緒ある剣だったりしてな」
「ないない。あいつがそんなものを私に渡すわけないでしょ」
「でも、今日の行動を見た感じエルト王子の側近みたいな感じだったぞ。もしかしたら、王様から貰ったものだったりしてな」
剣の鞘はどこか煤けており、ジークはその剣がかなり高価なものなのではないかと言うが、剣の所持者のフィーナはそれを完全に否定している。
「とりあえず、見せてみろよ。もしかしたら、魔法が付与されたものって事もあるし、ノエルなら、それくらいわかるだろ?」
「は、はい。どんな効果があるかまでは分かりませんけど、魔力を帯びたものかはわかると思います」
「そうね……紅い刃?」
フィーナはジークとノエルに剣を見せようと思ったようで鞘から剣を抜くと剣は刀身は紅く輝いており、フィーナは首を傾げた。
「……なぁ。フィーナ、これって見ただけでも普通の剣じゃないってわかるんだけど」
「そ、そうね」
剣に詳しくない人間でもフィーナの剣が業物だと言う事は解り、ジークは顔を引きつらせるとフィーナも事の重大さに気が付いたようで声を震わせる。
「ノエル、魔力は当然、あるよな?」
「は、はい。火の精霊さん達がその剣に力を貸してくれているのがわかります」
ジークの問いにノエルは大きく頷き、剣が魔力を帯びている事を告げた。
「火の精霊? 剣から火の球が出るとか?」
「その可能性もありますけど、わたしより、アーカスさんの方が詳しいんじゃないでしょうか?」
「そうね。明日、私も行って見せてみようかな? ……行きたくないけど」
フィーナは剣にどんな効果があるかいまいちわからないようであり、アーカスなら何かわかると思ったようで、明日のジークとノエルに同行する事を決めるが乗り気ではない。