第136話
「カインさん、ど、どうするんですか?」
「気にしない。気にしない。目を覚ましたら、ジークの勝利だと思ってるから、それより、1度、エルト様を中に運ぶ」
「……ここからが本題かよ」
慌てるノエルを気にする事なく、カインはジークにエルトを店の中に運ぶよう言う。カインの言葉にジークは今までが前ふりであった事に気が付いたようで眉間にしわを寄せた。
「そう言う事」
「どう言う事ですか?」
「詳しい話は中でって事だろ。ノエル、プレートを変えてくれ」
ジークはため息を吐くとエルトを店の中に運ぼうとする。
「あ。ジーク、そう言えば、俺とエルト様がここに来た時から、プレートは準備中だたよ」
「……道理で今日は平和なわけだ」
「プレート、営業中に変え忘れました」
「まぁ、そう言う日もあるさ。それより、急ぐよ」
ジークとノエルはカインから、今日が平和だった理由を聞かされ、自分達の間抜けさに大きく肩を落とす。
カインは2人の反応に楽しそうに笑うと足早に店の中に移動し、ジークとノエルはプレートの変え忘れはそれなりに堪えているようで肩を落としたまま、カインを追いかけて行く。
エルトを店先に寝かせておくわけにもいかないため、居住スペースに移動するとエルトをソファーに寝かせてジーク達はキッチンのテーブルに座る。
「それで、王子様を俺に見せて何をするつもりなんだ?」
「エルト様がどんな人間か理解はしてまらえたよな?」
「あぁ。取りあえず、他人の話を聞かない脳筋だって事は充分にわかった」
話を始める前にエルトの印象をジークに確認するカイン。ジークは気絶しているエルトへと視線を向けた。
「それじゃあ、エルト様は王の器だと思うか?」
「……そんな事を俺に聞くな」
ジークはカインの質問の意図がわからないようで眉間にしわを寄せるが、カインの意図を探ろうとしているのか眉間にしわを寄せている。
「それじゃあ、ジーク。エルト様以外に有力な王位継承者は何人いるか知ってるかい?」
「えーと、エルト王子の他は……第2王子の『ライオ王子』と第1王女の『アンリ王女』が現国王様の子供だからその3人が有力だろ」
ジークはカインと話をする中でどうしても面倒事としか思えないようで彼の眉間のしわはいっそう、深くなって行く。
「うん。正解。アンリ様は女性と言う事で、王弟の『ラング様』より、王位継承権が低いけど、ラング様はその時は辞退すると宣言しているし、その3人が次の国王だと思っていて問題ない」
「……それで、それが俺とどう関係あるんだよ?」
「いや、エルト様の性格を知って貰いたかったんだよ」
「充分すぎるくらいに知ったよ。あれが次の王様ってのは勘弁して貰いたい。なんかいろんなところで争いが起きそうだ。西の領主が話を聞かない? わかった。拳で語り合おう。それが終われば次は東だって感じで」
ジークはエルトが国王に納まると各地で争いが起きると思っているようで、ドレイクながらに平和を訴えようとしているノエルに申し訳なさそうな表情をする。
「まぁ、そう思うのは無理もないんだけど、ジークが思ってるより、エルト様の評価は高い。ラング様がしっかりと補佐してくれてるって事もあるんだけど、エルト様本人が自分1人ではできない事がある事を理解しているから、才能を持っている人間には貴族、平民問わずに支援をするし」
「……意外だ」
「そ、そうですね」
カインはジークのエルトに対する評価に苦笑いを浮かべるも、王都でのエルトの評価を話す。知らされたエルトの評価にジークは信じられないようで眉間にしわを寄せ、ノエルは答えに困っているのか苦笑いを浮かべた。
「まぁ。エルト王子が優秀な所がある事はわかった。それで、それを俺に話してどうするんだ? 正直、王都から離れたこんな場所じゃ、誰が王位を継ごうが関係ないだろうしな」
「まぁ、継いでしまえば変わらないだろうな。ライオ様もアンリ様も他国を戦争を始めるほど愚かじゃない。そこら辺はウチの国は上手く行ってる」
「そうなんですか? 良かったです」
ノエルは誰が王位を継ぐかで戦争が起きる可能性も考えられたため、カインの言葉に安心したのか胸をなで下ろす。
「なら、何の問題があるんだよ?」
「そりゃあ、エルト様とライオ様の兄弟関係?」
「……話をするのに疑問形で言うな。兄弟関係って、それこそ、俺には関係ないだろ」
ジークは話の内容が全く見えてこないようで頭をかく。
「何を言ってるんだよ。俺とジークみたいに良好な関係とは違うんだよ」
「……何度も言わせるな。俺とお前はまったくの他人だ」
「ノエル、ジークがこんな事を言ってるんだけど、弟の嫁の君からも何か言ってよ」
ジークはカインに弟扱いされる事が心底いやなようで顔をしかめるとカインはからかう相手をノエルに変更する。
「そ、そんな、あの、わたしは別にジークさんのお嫁さんってわけでは」
「……ノエル、からかわれてるだけだから、それで、3人は仲が悪いのか? 俺とお前みたいに」
慌てるノエルの様子にジークはため息を吐くと、カインに本題に移るように言う。
「まぁ、仲が悪いって言うか、根本的にかみ合わない。エルト様は脳筋で拳で決着をつけたい人間だし、ライオ様は盤面上で計算をして、自分の土俵で戦いたいタイプ」
「……そりゃ、合わないな。俺もエルト王子みたいな兄貴がいたら、キレると思う。他人の話を聞かないんだからな。せっかく、用意したものを無駄にされたら怒りたくなるのは当然だろ」
「ライオ様がしっかりと計画を立てていたのもを横からエルト様はぶち壊すからね。もう少し思慮深くなってくれれば万事解決なんだけど、まぁ、無理かな? 後はアンリ様の事は2人とも大切に思ってるよ」
エルトとライオの関係は微妙なようであり、ジークはライオの気持ちが何となくわかるようで彼に同情的である。カインはエルトに直して欲しい事もあると言うが、無駄だと理解しているのかため息を吐く。