第132話
「それは言いがかりだよ。さてと、後は」
「おい。どこに行くんだよ?」
「疲れただろ。ジークは座ってたら良い。俺は俺の仕事をしてくるだけだから」
「確かに、少しくらいは良いか?」
カインの使い魔は砕け散った氷塊の方へ飛んで行き、ポイズンリザードとの戦いはジークの精神力をしっかりと削っていたようで、ジークはその場に座り込む。
「ジ、ジークさん、大丈夫ですか? すぐに回復魔法を」
「いや、大丈夫。ケガをしてるってわけじゃないし」
「ジーク、お疲れ」
座りこんだジークを見て、ノエルは慌てて駆け寄り回復魔法を唱えようとする。ジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべて、彼女を静止するとフィーナからの労いの言葉ととも手が差し出された。
「あぁ。そっちもな。悪い。もう少し座らせてくれ」
「そう。それであいつは何しに行ったの?」
「さあ?」
フィーナは手を戻すと砕けた氷塊へと視線を向けるとカインの使い魔は砕けた氷塊の間を飛び回っている。
「これで一先ずは解決ですよね?」
「そう思いたいな」
ノエルはポイズンリザードが倒された事でルッケルの毒ガス騒ぎもこれで落ち着くと思ったようで笑顔を見せる。しかし、ジークはカインの行動が引っかかっているようでポリポリと首筋をかいた。
「何かあるんですか?」
「それは性格破綻者の調査次第だ。1匹だけとは限らんからな」
「……あんなのと何回も戦いたくないわね」
「と言うか、倒せても後1匹」
アーカスが氷塊の下に巣がある可能性もあると言うとジークはまたも銃身が破壊されている魔導銃を手にため息を吐く。
「ジーク、あんたは魔導銃を壊さないと気が済まないの?」
「そんなわけないだろ。まぁ、今回はまだ材料が用意されてるから、気が楽だけどな。それに今回、武器が壊れたのは俺だけじゃないし」
「忘れてたわ……これ、どうしようか?」
フィーナは壊れた魔導銃の様子に呆れたようなため息を吐くが、彼女の剣もポイズンリザードの毒の血液でボロボロである。
「俺の魔導銃は修理できても、フィーナの剣はアーカスさんでもどうしようもないだろ?」
「あぁ。私は剣を鍛え直す事は出来ないな」
「そうよね」
アーカスには剣を鍛える能力はなく、フィーナは長年使ってきた剣に視線を移すが剣はさらに腐食が進んでおり、鍛え直せない事は素人目でもわかる。
「ど、どうするんですか?」
「あぁ。取りあえずは汚い話だけど、アズさんからの報酬を見てだな……と言うか、途中から、契約からずいぶんとずれてきた気もするんだけどな」
「そう言われればそうね」
ジークはアズとの最初の契約から完全に外れての戦闘のため、どうして良いのかわからないようで頭をかくとフィーナは毒ガス騒ぎからルッケルが立ち直るまでのかなりの費用がかかる事も理解しているようで報酬はあまり期待されないと思い、大きく肩を落とす。
「まぁ、今回に関しては王都からも報酬は出る可能性があるよ」
「そうなんですか? フィーナさん、良かったですね」
カインの使い魔が戻ってきて、カインから別件で報酬が出る可能性がある事を聞かされるとノエルは喜ぶ。
「……胡散臭いわ」
「そうだな」
しかし、ジークとフィーナはカインの言葉が信じられないようで疑いの視線を向けた。
「そう。それなら、王都にはジークとフィーナの事は報告しないよ。ポイズンリザードを倒したのはアーカスさんとノエルと言う事で報告しとこう」
「……断る。私は面倒事に巻き込まれるのはゴメンだ」
カインはポイズンリザードを討伐した人間を報告する義務があるようでノエルとアーカスの2人の名前を連絡すると言うが、アーカスは面倒事だと拒否をする。
「なぁ。それは俺達が王都に呼び出されたりするのか?」
「そうだね。俺がジークの名前を伏せなければ、おじさんとおばさんの息子として大々的な何かがあるかも知れないね。勇者がいる事は国にとっても、大きな力になるから」
「……」
「ジ、ジークさん」
カインは王都でも、ジークの両親の名は知れ渡っているため、その息子であるジークにはそれなりの恩賞が与えられるだろうと言う。その言葉はジークに取っては嫌悪感しかないようで彼の眉間にはくっきりとしわがより、ノエルは心配そうな表情で彼の服をつかむ。
「なら、俺は辞退させて貰う。俺は今回はまとまった収入もあるしな」
「わ、わたしも要りません」
「まぁ、ジークが嫌がる事はわかってたけどね」
ジークとノエルはカインに王都からの報酬は辞退する事を告げるとカインからはため息混じりの声が聞こえる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。報酬が出るのよ。それも王都からって事は結構な額よ。何で、辞退って話になるのよ」
「うるさい。フィーナは貰えば良いだろ」
「だとしても」
フィーナは剣の購入費用もあるためか、反対しようとするがノエルを王都に連れて行く事がどれだけ危ない事か思い出し、言葉を詰まらせた。
「まぁ、最悪の場合はフィーナの剣の費用くらいは俺がどうにかするよ。後は一応、今回の件を収めた人間達が堅苦しい事は嫌いだと恩賞を辞退すると言った事も報告はする。仲介を俺がすればそれなりに融通が利くだろ」
「それで片付くのかよ?」
「あのなぁ。これでも正式な使者なんだよ。圧力をかけるだけが交渉じゃないって事は覚えておけ」
カインはこの結果はある程度、予想していたようでため息を吐く。
「了解。それで、ポイズンリザードはあれ1匹で良いんだよな?」
「あぁ。取りあえず、氷塊の下にはどこかにつながる道はなかったし、完全に冬眠していたと言って良いな」
「それなら、解決って事で良いんですよね?」
「あぁ。後は鉱山内に残っている毒ガスの濃度が下がれば問題ない。まぁ、地震自体はどうしようもないから、そこら辺は改めて、調査団がくると思うけど」
カインは調査の結果、他のポイズンリザードの痕跡は見当たらないと言い、ノエルは安心したようで胸をなで下ろす。しかし、カインは毒ガス騒ぎは収まってもまだ、ルッケルが抱えている問題は解決していないと続ける。
「まぁ、それは仕方ないか? とりあえずは、戻ろう。正直、疲れた」
「そうね」
5人はこれ以上は自分達では何もできないと判断し、鉱山から出るために歩き始める。